地母神(マグナ・マーテル)
サタナトスの片腕たるケイダンが時空の狭間に去り、地底湖ではバルガ王と邪眼の女王ゲー・メーテルが戦闘を繰り広げていた。
「まずは、こんなモノはどうだ?」
ゲー・メーテルは、背中の3本生えた大蛇の首から、光弾を発射する。
「ヤレヤレ、アイツが去ってくれたのは有難てェんだが、コイツもかなりの力を持ってやがんな!」
バルガ王は、黄金の長剣を使って、邪眼の女王の光弾を弾き飛ばした。
光弾は鍾乳洞の壁に着弾し、ツララ状の鍾乳石が地底湖周辺に落下する。
「当然ね。わたしは、古(いにしえ)の地母神(マグナ・マーテル)。本来なら、神と呼ばれる存在だったのよ。わたしの邪眼で、坊やも石に変えてあげるわ」
邪眼の女王ゲー・メーテルの、手にした剣が光り輝いた。
「こ、こりゃあ、マズいぜ。とんでも無ェ範囲が、一気に石化してやがる!」
バルガ王の言った通り、褐色の鍾乳石で構成された鍾乳洞が、味気ない灰色の石へと変化する。
地下を流れる川までが石と化し、鍾乳石から落ちた水滴が石となって砕けた。
「バルガ王、こちらへ!」
「お、応!」
ジャイロスの呼びかけに気付いた王は、大盾の内側へと避難する。
「どうかしら。わたしの邪眼剣、エレウシス・ゴルゴニアの前では、全てのモノは動きを止める。小鳥も、犬や猫、人間さえも、この時の止まった空間では、動くことは叶わないのよ」
ゲー・メーテルは、6枚の黄金の翼を畳んで地上へと舞い降りた。
すると、古の地母神の降り立った足元から、小さな草が芽吹く。
「でも、邪眼剣の能力(ちから)が及ばない盾が、この世界に存在するなんてね。心外だわ」
ゲー・メーテルは、バルガ王やジャイロスが身を潜ませている、大盾に向かって近づき始めた。
「み、見て下さい、バルガ王。アイツが歩みを進める度に、足元の地面に草花が生えてますよ!?」
王の側近となったベリュトスの指摘通り、ゲー・メーテルが1歩足を前に出すごとに、周囲の色褪せた石の地面に草花のカーペットが出現する。
「それどころじゃ、無いわ。草花が一瞬で育って、木々にまで成長してる!?」
グレー1色となっていた鍾乳洞は、青々とした草木に覆われ、色鮮やかな花々が咲き誇っていた。
地下を流れる川は清流となり、中には魚まで泳いでいる。
「死と再生を繰り返す1年の営みを、一瞬で見ている様ですぞ!」
聖盾エルスター・シャーレを構えた、ジャイロス・マーテスが言った。
その盾の守護する範囲を越えて、緑の草花が寝食をして来ている。
「マ、マジかよ。古の地母神ってのも、強(あなが)ち間違いじゃ無ェみたいだぜ」
戦慄を覚える、バルガ王。
「さあ、小僧よ。わたしをもっと、愉しませて見せるが良い!」
地母神が剣を振るうと、草木から無数のツタやイバラが伸び始め、一行を拘束しようと躍動し始めた。
「これは、早めに対処しなくちゃ。奏弓トュラン・グラウィスカ!!」
カーデリアが、弓に4本の矢を番(つが)える。
放たれた矢は、変則的な軌道を描きながら、ツタやイバラを切断して行った。
「……シャッ、ならオレもやってやるぜ!」
ベリュトスも、両手の2本の槍を使って、迫り来る自然の脅威を蹴散らす。
「ベリュトス、お前その槍、何処で手に入れた?」
「ゴルディオン砦の武器庫で、ビスティオさんが渡してくれたんスよ。ついでに、この鎖帷子もいただいちゃいました」
「けっこうな、お宝じゃねェのか?」
「ビスティオさんの、亡き父君……ザバジオス騎士団の先代団長、オシュ・カー・ベルナディオの装備していたモノらしいですからね」
ベリュトスは、オシュ・カーの槍を使って、迫り来るツタやイバラを薙ぎ払い続けた。
その身体には、蒼く光を反射させる銀色の鎖帷子を纏っている。
「オシュ・カー団長は、優れた人物でした。この聖盾エルスター・シャーレも元は、鉄壁のオシュ・カーと呼ばれた彼の、忘れ形見なのです」
ジャイロスが、言った。
「オシュ・カー団長を始め、歴代の騎士団長が封印し続けて来た剣を、奪われるなどあってはならないコト。何としても、剣を再び封印せねばなりません!」
「アンタの想い、伝わったぜ。これはもっと、気張らねェとな」
バルガ王は黄金の長剣を、古の地母神(ゲー・メーテル)に向けた。
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