ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第03話

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真紅の毒針(スカーレットニードル)

「せやけどウチら、アイドルデビューのライブでイッパイイッパイで、勉強できてヘンで!」
「姉さん、威張らないで下さい」
 シアに窘(たしな)められる、キア。

「ボクたちも、そう。けっきょく、レアラとピオラに……」
「なんだかんだ、付き合わされちゃったからね」
 カトルとルクスの双子姉妹も、同じ顔で腕を組み悩んでいる。

「デビューライブが成功したとは言え、これからセカンドシングルの収録もありますわ」
「恐らく今までのようには、勉強する時間は取れないでしょう」
 芸能一家に育ち、芸能界で成功するコトが至上命題のアロアとメロエも指摘した。

「それは、アイドルになると言った時点で、解ってたコトじゃないか?」
 ボクは、超高層マンションの最上階に創られた、教室の生徒たちの顔を見渡す。

 太陽はそろそろ頂上付近に達しており、見晴らしの良い窓には澄んだ青空が拡がっていた。
ボクは勝手に『天空教室』などと呼び始めてしまったが、その名に恥じない教室であるコトは間違い無いと、改めて思う。

「確かに、そうです。ですが来週のテストと言うのは、聞いておりませんでした」
 新兎 礼唖(あらと らいあ)が、反論した。
彼女は、生徒たちの中ではトップの成績であり、意外に感じてしまう。

「いつテストをするかは、ボクも聞かされてはいなかった。でも、普段から学力を高めていれば、問題は無いハズだ。よって今日、テストを行う」

「ええ。テストは来週って、言ったばかりじゃんッ!?」
 ライオンのタテガミのような髪の少女が、本気で驚いている。

「レノンは、アイドルじゃないんだ。勉強する時間は、いくらでもあったハズだが?」

「だ、だって先生が、アイドルになっちゃったからさ。ここのところ、なにも教えて貰えてなくて……」
 レノンの言う『先生』とは、八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)のコトだった。

「申しワケありません。ここのところ、ロクに時間が取れませんでした」
 申しワケなさそうに頭を下げる、アイボリー色のショートヘアの少女。

「いや、メリーの責任ではないよ。ボクがもっと、サポートすべきだった」

 正直に言えば、普段ならレノンとメリーの勉強を見てくれていたメリーの離脱は、痛恨の痛手だろう。
全体指導のボクの授業よりも、メリーの個別指導の方が2人の成績を伸ばしていたのは、紛れも無い事実だった。

「それで、今さらテストなどをやって、どうなると言うのです?」
 赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)が、チクリと棘のある言葉を刺す。

「今日のテストは、君たちの現在の学力を知るために実施する。その結果を踏まえて、足りない部分を補習するつもりだ」

「1週間で……ですか?」
「そうだ。時間が無いのは、解っている」
 ボクとクララの間に、しばらく無言の時間が流れた。

「この教室には、勉強の必要のない生徒も混じっています。将来を考えれば、勉強よりもアイドル活動に専念させた方が良いのでは?」

「そうだな。勉強をしなければならないと言うのは、大人や社会のエゴだろう。それでも勉強は、将来の選択肢を広げる可能性を持っていると、信じている」

「先生が信じているかは、どうだってイイことです。それよりも、生徒にとって最善の選択肢を与えるのも、教師の務めではありませんか?」
 今まで、ほぼ自分の意見を主張して来なかったクララが、自らの意思をはっきりと示す。

「ちょっと、クララ。そんな言い方ないじゃない!」
「言い方が、問題。ならもっと、辛らつな言葉で返しましょうか?」
 ユミアの反論を、攻撃的な針で迎え撃つクララ。

「先生は、打つべき手立てを打たなかった。生徒が大勢アイドルとして招へいされているのに、阻止しようともしない。学力を上げる手立ても、有効なものはせいぜいメリーに2人の面倒を見させたコトくらいだわ。それで今さらテストを行ったところで、なんになると言うのです?」

「アンタねえ。毒舌なのは薄々気付いてたケド、まさかここまで正確が悪いとは思わなかったわ!」

「事実を言ったまでよ。そして事実とは、多くの人にとって聞きたくもない毒針なのよ」
 褐色の肌に、ワインレッドのウェーブのかかった髪をポニーテールにして頭の後ろに垂らした少女は、ニヤリと笑った。

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