バルガ・ファン・ヴァール
青々とした芝生に、近代的な照明ライトの白い光が落ちる。
夕日は水平線の下に隠れ、空には星が瞬き始めていた。
こんなスゴいピッチでサッカーするのって、始めてだ。
ロランに間違われたせいで散々な目に遭ったケド、これは悪くないかも知れない。
ボクは、ボールを横に転がした。
それを、センターサークルで隣に立っていた、オリビさんが受ける。
「よし、行こう」
ボールは、ボクに戻された。
すかさず、フルミネスパーダMIEのフォワードが、プレッシャーをかけて来る。
日本人じゃない。
しかも、相当なスピードだ。
記者会見場じゃ、意識が飛んであまり覚えてないケド、確かチュニジアの人だっけ?
しかも顔が怖い!?
ボクは覚えて無かったケド、名前をバルガ・ファン・ヴァールと言った。
アフリカ人と言っても、黒人ではなく褐色の肌のストライカーが、ボクのボールを奪おうと、屈強な身体をぶつけて来る。
「グッ!?」
なんとか踏ん張って、ボールをキープする。
でもスピードを止められて、動きを封じられた。
「オイ、なにしてる。こっちによこせ!」
前線で、味方のイヴァンさんが、ディフェンスラインの裏で手を挙げている。
でも、パスコースなんてないし、オフサイドだよ。
仕方なく、ボールを後ろのボランチへと戻す。
中盤の底に入っていたのは、さっき声をかけて来たアルマって人だ。
「うん、ナイス判断だ」
アルマさんはボールを受け取ると、そのままドリブルを開始する。
スプリンターのような、理想的な走りでボールを持ち上った。
こ、この人、上手い。
そう思いつつ、ボクはペナルティエリアの左に、オリビさんは右へと展開した。
「よし、まずはここだ!」
アルマさんは、プレスが集まる前にロングボールを右サイドへと放り込む。
「ナイスです、アルマさん」
右に展開していたオリビさんが、勢いのあるボールを軽くトラップした。
オリビさんも、上手い!
あれだけのボールを、すんなりと収めちゃった。
サッカーに置ける、基本となるパスやトラップ。
それを忠実にミスなくこなせるコトは、サッカー選手としての高い能力を示していた。
「来い、オリビ!」
左サイドバックの裏に、ランスさんが弧を描いて走り込む。
オフサイドラインを、読んだ動きだ。
「解ってますよ」
オリビさんは、左サイドハーフと左サイドバックの2枚の間に、パスを通す。
「ナイスだ、オリビ!」
ランスさんは、フルミネスパーダMIEの裏抜けを成功させた……かに見えた。
『ピー!』
ラインズマンの旗が上がり、審判である武柳 ヒルデ(ぶりゅう ヒルデ)さんが笛を吹く。
「なッ……今のが、オフサイドって!?」
文句を言いながら横を見たランスさんは、言葉を失った。
ランスさんの真横に、相手ディフェンスラインは1人も残って居なかった。
「ア、アレだけ横に動きながら裏を取ったのに、オフサイドだとォ!?」
驚く、ランスさん。
その隣で、スローインが行われる。
「しまった、カウンターだ」
オリビさんが、叫んだ。
左サイドバックのスローインを受けた左サイドハーフが、ロングボールを前線へと入れる。
グングンと伸びるボールは、エトワールアンフィニーSHIZUOKAの、ボランチとバックラインの間……いわゆる、バイタルエリアに落ちる。
「Bon(よし)!」
チュニジア人ストライカーは、落ちて来たボールを脚で前にトラップし、ヴァンドームさんと左サイドバックの間を抜けると、シュートを放った。
「Ça alors(ワォ)!」
フランス語が、飛び交う。
ドミニク ヴォーバンさんが、横っ飛びに飛んだ。
ゴールネットが、揺れる。
かつてフランスの植民地であったチュニジア出身のストライカーは、かつての宗主国であるフランスの黒人ゴールキーパーから、ゴールを奪った。
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