惨敗
「まずは、ボランチ2枚を引き剥がすぜ」
イヴァンさんが、その野性味あふれる身体を活かした、ドリブルを開始する。
「そんなに簡単に、引き剥がされるかよ!」
けれどもその進路に、ネロさんが入った。
相手が先にポジションを取ったコトにより、ファウルを恐れて進路を変えるイヴァンさん。
「エトワールアンフィニーは、大した能力のフォワードを揃えられていないようだな」
すかさずスッラさんが、イヴァンさんのボールをスライディングで刈り取った。
よし、これだ!
ボクは心の中で叫ぶと、スッラさんのボールを奪おうとする。
「話にならんな」
けれどもスッラさんは、いち早くつま先でボールにチョンと触る。
「ナイスだぜ、スッラさん。ま、アンタの能力ならとうぜんだケドよ」
ボールはネロさんに渡り、ネロさんから左に展開された。
左には相変わらず、超攻撃的サイドバックの、トラヤさんが待ち構えている。
「ナイスだぜ、ネロ。なるホドな。この攻撃パターンは、確実に機能しているぜ」
自分のチームの基本戦術に、納得するトラヤさん。
フルミネスパーダMIEの戦術とは、ボランチや高めのバックラインの位置で奪ったボールを素早く左サイドに展開して、トラヤさんとセンターフォワードのバルガ・ファン・ヴァールで決めきるカウンターだった。
「おっしゃ、今度はオレが決めてやる」
トラヤさんはやはりサイドに開かず、ペナルティエリアに進入して来る。
「そんなに何度も、同じパターンが通じるモノか!」
けれども今度は、ペナルティエリアを飛び出したヴァンドームさんが、華麗なスライディングタックルでボールを奪い取った。
「ヴァンドーム!!」
同僚のフランス人リベロである、ヴィラールさんが叫ぶ。
「C'est la vie(セ ラ ヴィー)これが人生さ!」
ヴァンドームさんの足元に転がったボールを、そのままゴールに蹴り込むチュニジア人ストライカー。
雷光(バルガ)の名を持つ男の放ったシュートは、凄まじい勢いでゴールに突き刺さった。
遂に3点目を献上してしまう、エトワールアンフィニーSHIZUOKA。
ハットトリックを決めたバルガさんは、再びコーナーポストで尊大な王さまのポーズを取っていた。
たった30分の試合時間での、3点ものビハインド。
しかも試合時間は、まだ15分弱は残されていた。
「なんだ。エトワールアンフィニーも、大したコトねェな。科学的トレーニングや戦術がどうのとか言ってた割りに、身体能力も戦術もウチが圧倒してるぜ」
「勘違いするな、ネロ。たかが練習試合で、相手を把握した気でいると痛い目に遭うぞ」
「相変わらず、スッラさんはストイックっスね。でもフォワードの能力はウチのが上やし、エースのロランってヤツもぜんぜん大したコト無いのは、確かやケドな」
バルガさんは、Ze1リーグですら通用しそうなレベルの選手であるコトは、間違いない。
でも、問題はボクだ。
オリビさん以外の全員が、ボクをロランだと思っている。
でも、ボクはロランじゃない。
視線の先にあった近代的な電光掲示板には、3ー0のスコアが並んでいた。
もしロランだったら、結果は違っていたのかな?
ロランが出ていたら、もっと上手くゲームをコントロールできたんじゃないか……。
そう思うと、悔しさが込み上げて来た。
正直、力の差を感じる。
フルミネスパーダだけでなく、エトワールアンフィニーの誰よりもボクは下手かも知れない。
そんな邪念を振り切れないまま、ボクはセンターサークルに立った。
「ロラン、気にするな。これは、キミだけの結果じゃない。ウチの選手全員が、負うべき結果だ」
「そうだね。オリビの言う通り焦って責めを急げば、またカウンターを狙われてしまう。それこそ、ヤツらの思うツボだ」
オリビさんとアルマさんが、ボクを勇気付けようとしてくれる。
けれども、打開策は見つからないまま笛は鳴った。
「どこ見てんだ、オラ!」
相手の中盤に斬り込むものの、スッラさんとネロさんが陣取るボランチの壁は厚く、ボクは簡単にボールを失った。
集中力を欠いたのはボクだけじゃなく、イヴァンさんとランスさんによる攻撃も散発に終わる。
相手キーパーはボールに触れる機会すら訪れず、逆にエトワールアンフィニー守備を担う3人のフランス人は次々にゴールを許した。
最終的に6ー0の数字が、電光掲示板に浮かんでいた。
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