敵の正体
月が雲間に顔を隠し、ゴルディオン砦は暗闇に包まれる。
砦の内部は、思いがけないくらいに静まり返っていた。
「カーデリアの予感が、的中ってか。厳重に警戒されているハズの砦が、人っ子一人居やしねェぜ」
夜目の利くバルガ王が、下馬をして手綱を厩舎に結ぶ。
「馬さえ居ないってのも、おかしなモノですぜ」
「イヤ、なにか居る。ベリュトス、お前の目の前だ!」
キティオンが、叫んだ。
「うわあ、こ、これは……」
再び月が、淀んだ黒雲から顔を覗かせる。
そこには、驚いて跳ねあがったまま固まった、馬の姿があった。
「どうやら、石になって固まってしまっているようですな」
「厩舎を飛び出し、直ぐの状態で固まった……」
「他にも、同じ状態のモノがあるハズ」
3人の少女騎士も、下馬をして辺りを慎重に探る。
「ええ、そうね。貴女たちの言う通り、こっちの兵舎にも固まった兵士たちが転がっているわ」
カーデリアが3人の先を行き、様子を伺いながら情報を提供した。
「実はもう、相手の目星は付いてるのよ。バルガ王が目撃した魔物が、金色の翼を持つって聞いた時点で、伝えておくべきだったわ」
「それじゃあカーデリアは、兵士や馬を石にしちまったヤツの正体を、知っているんだな?」
「その通りよ、バルガ王。だってわたしは、彼女たちと戦ったのだから」
パッションピンクの短髪の少女の顔が、ほんの一瞬だけ曇った。
「オレやバルガ王が見た魔物と、戦ったですって?」
「それは誠ですか、カーデリア殿」
王の側近2人が、覇王パーティーの重鎮に伺いを立てる。
「本当よ。彼女たちは、サタナトスの配下なの。油断したわたしは、彼女たちの能力によって、石化させられてしまったわ」
「アンタほどの者を、石化……確かに、油断ならねェ相手のようだな」
「彼女たちってコトは、複数居るんですよね。オレらが見たのも、魔物の群れでしたし」
「外観は、どのような感じだったのですか?」
「最初にわたしが見たのは、トカゲ女が棲みついてるってオアシスの情報を得て、現地に赴いたときのコトよ。噂は本当だった。わたしたちはオアシスで、小さなトカゲのシッポの女のコたちと遭遇した」
「そのトカゲの娘たちが、アンタを石に替えたのかい?」
「ええ。急に彼女たちの髪がヘビに変化して、邪眼に睨まれたわたしは石に変えられてしまった。シェリーがいなかったら、やられていたところよ」
カーデリアはその戦いで、シャロリュークが死んだコトは言わなかった。
「他に特徴は、無かったのですか?」
「そうね……戦いに、不慣れってところかしら」
「戦いに、不慣れ……カーデリア殿を石化までしているのにですか?」
「わたしもけっこう、戦いの場数を踏んでいるからね。直ぐに、解るレベルだった。まるで、ただの村娘みたいに見えたわ」
王の側近2人の、矢継ぎ早の質問に答える、カーデリア。
「つまり、この先に待ち構えているのは、トカゲの少女たちなのですね」
「我らが同胞を石に変えた報いを、受けさせてやりたいモノですが……」
「石化能力に、どう対処すべきか……」
「古(いにしえ)の英雄は、鏡のように磨いた盾に映った姿を、斬ったって言うわね」
先陣を切るバニッシング・アーチャーは、すでに砦の最も中央にある建物の中に進入していた。
「そのような芸当が、できるモノでしょうか?」
「そもそも、磨いた盾などありませんぞ」
「一体、どうすれば……」
「暗殺よ。見られる前に仕留めれば、済む話だわ」
カーデリアの身体が、後ろの壁と同化する。
「こ、これは!?」
「カーデリア殿の姿が、消えた!?」
「気配すら、残っておりませんぞ!」
慌てふためく、アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の少女騎士。
「ここは一先(ひとま)ず、カーデリアに任せるしかあるまいよ」
姿を消したパッションピンクの髪の少女に、バルガ王は任務を託した。
前へ | 目次 | 次へ |