ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

一千年間引き篭もり男・第08章・85話

真っ白な光

 この1000年の間に起こった、幾多の戦争や災害によって、地球の環境は劇的に悪化してしまった。
人類の進出した太陽系の中心は、汚れた地球では無く、テラ・ホーミングを終えた火星となっている。

「宇宙斗は……地球を元の美しい蒼い星に、戻せると思っているの?」
 ツィツィ・ミーメのコックピットの中で、クワトロテールをヘルメットから伸ばした少女が、ボクに向かって聞いて来た。

 地球は、放射能や科学物質に汚染された雨が降り続き、その雨が流れ込む海は黒く淀んでいる。
多くの人類は地球を捨て宇宙に進出し、僅かに残った人達が、病んだ大地にしがみついていた。

「ボクの時代にやっていた、子供向けのアニメであれば、敵のボスを倒せば壊れた街が1瞬にして元通り……めでたし、めでたしでハッピーエンドだったのにな」

「でも現実は、アニメや絵本の物語の様には行かないわ……」
 ミネルヴァさんが、寂しそうな顔を見せる。

「貴女の言葉は、重いな」
 ボクは、言った。

 現在の地球を統括し、地球の意志を決定する量子コンピューター、ゲー。
その言いなりとなって、ひたすら自分の任務を忠実にこなして来た彼女。
けれども今の地球は、彼女の望む姿には程遠いだろう。

「少なくとも、ボクが生きている間に、地球が元の状態に戻る可能性は低そうだ。でも、何世代か人類が年を重ねて、科学を発展させれば可能性はあるんじゃないかな。キミが望んだ、蒼い地球が……」

「もうイイのよ。ミネルヴァと呼ばれた女は、地球の汚れた大地で死んだわ。ここに居るわたしは、ただの幻影よ」

「幻影……か。あのブラックホールも、幻影なら良かったんだが」
 目視できるワケでは無い天体、ブラックホール。

「ブラックホールの中って、どうなっているのかしらね」
「唐突だな。それはあと少しで、判明するんじゃないか?」

 ゼーレシオンとツィツィ・ミーメは、ネメシスと名付けた超小型のブラックホールに、引き込まれようとしていた。

「その時に、わたし達は生きていられる保証は無いわ。答えて」
 ヘルメットのバイザーの向こうで、黒乃にソックリな顔がボクをジッと見ている。

「そ、そうだな。ブラックホールは、何か特別な天体な気がするんだ」
「どんな風に?」

「恒星は、その莫大な重力によって物質を圧し潰すケド、ブラックホールは重力や空間自体を圧し潰してる感じかな」

「ウン、そうかも。わたしも、そんな気がするわ」
 バイザーの中の顔が、柔らかな笑顔を見せた。

「だけど、もうどれだけ時間が残されているか……え!?」

「宇宙斗……貴方は、ゼーレシオンに戻って」
 小さな両手が、ボクを卵型のコックピットから押し出す。

「うわッ!?」
 再び宇宙に放り出される、ボクの身体。
ゼーレシオンとツィツィ・ミーメの間が、かなり離れてしまっていた。

「ミネルヴァさん、なにか考えがあるのか?」
 ボクは、ゼーレシオンのコックピットに辿り着き、巨人と1体となる。
視界が宇宙1色に覆われると、直ぐにツィツィ・ミーメを探した。

「……なッ!?」
 いきなり激しい衝撃がゼーレシオンを襲い、ボクの脳ミソまで揺らす。

 ゼーレシオンが、ネメシスに1直線に引っ張られていた軌道から、大きくズレた。

「ま、まさか、ミネルヴァさん!!?」
 慌ててボクは、本来の軌道の方向を見る。
そこにはツィツィ・ミーメが居て、ブラックホールの重力で急激に引っ張られていた。

「ボ、ボクを助けようと……そんなコトッ!?」
 軌道を変えようとするも、ツィツィ・ミーメとの距離は開くばかりで、どうにも出来ない。

「宇宙斗……貴方に会えて、良かったわ」
 ゼーレシオンの高感度センサーが、ミネルヴァさんの声を捉えた。

「なに言ってるんだ、ミネルヴァさん!!」
 ゼーレシオンの巨大なセンサーアイが、遠ざかるツィツィ・ミーメをボクの脳裏に映した。

 やがて、異形のサブスタンサーの姿は消え、直後に真っ白な光がほんの1瞬だけ輝きを放つ。
ゼーレシオンは、その光から遠ざかって行った。

 前へ   目次   次へ