出産
「アマゾネスの部隊は、どうしている。ペンテシレイアさんたちを、出せないのか?」
Q・vavaの巨大な鎌をかわしながら、ボクはヴェルダンディに問いかけた。
『ペンテシレイア及び、ヒュッポリテーの艦隊は、火星の別の宙域を哨戒しておりました。現在急ぎ向かわせておりますが、到着にはあと30分ホドがかかります』
「ロボットアニメだって言うなら、距離なんて無視して現れてくれてもいいだろうに!」
ゼーレシオンの周りに群がるQ・vicに、苛立ちをぶつけ蹴散らす。
「コトここに至っては、クーリアを討つ他にあるまい」
ゼーレシオンの隣に飛来した、黄金のサブスタンサーのパイロットが言った。
「な、なにを……アポロさん、クーリアはアナタの許嫁なんですよッ!」
「だからこそだ。だからこそ、わたしが彼女を討たねばならんのだ!」
アー・ポリュオンは、クーリアの乗るQ・vavaに向って突進する。
「ウフフ……アナタも来てくれたのね、アポロ。とても、嬉しいわ」
異形のサブスタンサーは、身体の四方に配された花びら状のマントから、レーザーを一斉照射して許嫁を出迎えた。
「クッ、迂闊に接近するコトも、儘(まま)ならないとはな……」
獅子のタテガミと6枚の翼を持った黄金のサブスタンサーは、再び距離を取り攻撃を避ける。
けれども、カプリコーン区画の街や人々は、成す術なく灰塵と化し燃え散った。
「この街はもう、火の海だわ。舞台を、移しましょう」
ゆっくりと浮遊し始める、Q・vava。
ボクも、アポロさんと追撃するが、見降ろした街は真っ赤に染まっていた。
~その頃~
アポロさんや、メリクリウスさんからの追撃を逃れたマーズのマー・ウォルス。
愛する女を抱えて、中東風のエキゾチックな装飾のされた巨大空母に舞い降りた。
「待っていろ、ナキア。今、お前の艦の医療室に運んでやるからな!」
真っ赤な髪の男は、赤いサブスタンサーから降りると、風船のように大きくなった腹の女を抱える。
「重力システム解除だ。医療用のアーキテクターと、出産用のプログラムを準備しろ」
かつて火星艦隊の司令官だった男は、的確な指示を首に巻いたコミュニケーションリングによって、巨大空母ナキア・ザクトゥに伝える。
「あああぁぁ痛いィ、生まれちゃうゥウウッ!?」
脂汗にまみれた顔の、ナキア・アクトゥ。
「クソ、どうしてこんなに腹が、大きく膨らんでやがる。異常にもホドがあるじゃねえか!」
臨月にはほど遠かったナキアの腹は、はち切れんばかりに膨らみ、破水も始まってしまっていた。
マーズは、重力の枷から外れた女を、医療室まで運んだ。
「マ、マーズさまああぁぁッ!!」
「ナキア、大丈夫だ。しっかりしろ!」
マーズは必死に叫ぶが、分娩台に寝かされたナキアは、白目を剥いて気を失ってしまう。
カーネーション色のツインテールは、解(ホド)けて床に散らばり、手足がピクピクと痙攣していた。
急激に大きくなったせいか、腹はマスクメロンのようにひび割れている。
「これは、どう言うコトだ。あの女、ナキアになにをしやがった!」
その間にも褐色の腹は、さらなる膨張を続け巨大化する。
『ククク、その女の願いを、叶えてやったまでよ』
「な……ッ!?」
マーズが振り向くと、漆黒のローブを纏った女が立っている。
「お前は……クーリアに、憑り付いたんじゃなかったのか!?」
『人を、幽霊と思うてはおらぬか。アレも、我が魂の一部に過ぎぬ』
「ワケの解ら無ェコトを……ナキアを、元に戻せ!」
『それは出来ぬな。その女は、直に死ぬ』
「ふざけるな、ナキアはオレの愛した女だ。こんなところで、死なせてたまるか!」
『言ったであろう。その女の願いを、叶えたまでと』
「ナキアの願い……なんのコトだ?」
『その女は、一刻も早く我が子に会いたいと言った。それを、叶えてやったのだ』
「ま、まさか……」
「ぎゃあああぁぁぁあぁぁーーーーーーーーーーーッ!!?」
マーズの背後で、獣のような悲鳴がする。
「ナ、ナキアッ!?」
軍神は振り返るが、そこには破裂した腹の女が横たわっていた。
苦痛に歪んだ表情のまま、ピクリとも動かなくなったナキア・ザクトゥ。
『喜ぶが良い。お前の子だ』
マーズの耳元で、漆黒のローブの女が囁く。
「オ、オレの……子?」
軍神は、血まみれの分娩台に近寄った。
ザクロのように裂けた女の腹からは、腸やら臓物やらが零れ出ている。
「……ち……ちち……うえ……」
「マ……マーズ……サマ……」
ナキアの腹の上で、母親の血に染まった10歳くらいの少年が2人、ゆっくりと立ち上がった。
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