再会のクーリア
「艦長、敵影を見て見ろ。アレは……」
バル・クォーダで、宇宙に飛び出したプリズナーの声に、複雑な感情が絡んでいた。
「あ、あの巨大なサブスタンサーはッ!?」
ボクも、直ぐにその理由を理解する。
星の瞬く宇宙にあっても、その巨大なサブスタンサーは圧倒的な存在感を放っていた。
「Q・vava(クヴァヴァ)だ!」
ボクの脳裏に、火星での惨劇が甦る。
Q・vavaの大きさは70メートルほどで、両肩と身体の前後に大きな花びらのカタチをしたパーツが、マントかポンチョのように装備されていた。
パーツの間からは、カマキリの鎌を持った4本の長い腕が伸びている。
「……ヤツが、なんでこんな宙域に居やがるんだ!」
苛立ちを顕(あらわ)にする、プリズナー。
マントを構成する4つのパーツに装備された大量のレーザー砲は、かつてアクロポリスを火の海に沈め、大勢の人の命を奪ったモノだ。
「クーリア、キミなのか……」
火星の衛星であるフォボスの採掘プラントで、ボクが助けた少女。
大財閥・カルデシア財団のご令嬢である彼女は、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダと言う、仰々(ぎょうぎょう)しい本名を持っていた。
「ねえ、キミ。あのおっきなサブスタンサー、知ってるの?」
小型宇宙船の操縦を任せた、美宇宙からの通信が入る。
「知っているさ。アレには、フォボスで出会って以来、共に宇宙を旅した女性が乗っているんだ」
Q・vavaが、純白のマントを4方に広げ、こちらに向かって移動を開始した。
マントの中は女性的なフォルムで、腰にも小さな花びらのようなパーツが、スカートのように巻き付いている。
「ねえねえ。それって、ボクのオリジナルの恋人だったりする!?」
好奇心旺盛な少女の声を、ゼーレシオンの触角がキャッチした。
「そうだぜ。アレには、アクロポロスで大虐殺を行った大罪人が乗っているのさ」
バル・クォーダのパイロットが、皮肉を言う。
「エエッ! ど、どう言うコト!?」
意味が解らず、戸惑う美宇宙。
その間にも、巨大サブスタンサーはゆっくりと近づいて来た。
スカートの下の下半身は、ドラゴンのような長い尾となっている。
そのフォルムは、伝説上の生物であるナーガやラミアーを連想させた。
「油断すんなよ、艦長。一見、敵意は無さそうに見えるが、いつ仕掛けてくるか解らねェ」
「ああ、わかっている!」
クーリアが敵などと、解りたくも無かったが、無理やり自分の感情をねじ伏せる。
Q・vavaは、最初に確認されたピンクと薄紫色の機体を複数伴って、小型宇宙船に近づいて来た。
「宇宙斗艦長……お久しぶりですね」
聞き覚えのある声が、ゼーレシオンの高性能センサーを通して聞える。
「クーリア。本当に、キミなのか?」
ボクは、僅かな希望を込めて問いかけた。
「ええ、宇宙斗艦長。ずっとお会いしたいと、思っておりましたわ」
MVSクロノ・カイロスで暮らしていた頃の、落ち着いたクーリアの声。
「どうしてキミが、ここに?」
「もう火星には、還れませんモノ……」
彼女の声には、懺悔(ざんげ)の念が籠められていた。
「どうやら自分のやったコトくらいは、覚えてるらしいな」
標準装備の大鎌を失っていたバル・クォーダが、銃を身構える。
「止めろ、プリズナー。クーリアは、時の魔女に操られていただけなんだ!」
ボクはゼーレシオンで、銃口の前に立った。
「ケッ! それが厄介なんだろうが。今だって、まだ操られているかも知れねェんだ」
「わかってる。でも、そうじゃ無いかも知れないだろ」
「希望的観測が、過ぎるぜ。だったら、どうしてQ・vavaに乗ってやがる?」
「そ、それは……」
答えに窮(きゅう)する、ボク。
「それは宇宙斗艦長を、わたくしの艦にお招きしたく、お待ちしていたからです」
「キミの艦……火星で新造された、クーヴァルバリアのコトか?」
「はい。どうか、わたくしの艦にお越し下さいませ」
クーリアの声が、余りにも平然と言った。
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