最果ての激戦
ボクたちの前に現れた、異形のサブスタンサー、ツィツィ・ミーメ。
それはボクやメルクリウスさんを、太陽系の最果てに飛ばした機体であり、そのパイロットはミネルヴァさんだった。
「アレのパイロットが、ミネルヴァだと!?」
「そうだよ、プリズナー。ツィツィ・ミーメに乗っているのは、ミネルヴァさんだ」
ツィツィ・ミーメは、ボクたちが宇宙に飛ばされて、最初に交戦した時のダメージも修復されていて、肋骨のムカデのような下半身も再び備わっている。
「ミネルヴァは、日本の八王子の戦いで致命傷を負い、ゼーレシオンの中で息絶えたハズだぜ。遺体は、トラロックのセノーテの底に……セノーテの、底?」
「ツィツィ・ミーメは、セノーテの底に潜んでいたんだ。ミネルヴァさんの眠る、セノーテに」
ボクの9人の娘たちを、真っ白な髪の毛によって水底へと引き込もうとしたツィツィ・ミーメ。
セノーテの水底は異空間となり、ゼーレシオンとテオ・フラストーは太陽系の最果てに飛ばされた。
「時の魔女が、死んだミネルヴァを復活させ、ツィツィ・ミーメのパイロットにしたってワケか」
「恐らくは……他に理由も考えられないだろ。消去法って、ヤツさ」
ゼーレシオンとバル・クォーダは、交信しながらも敵との距離を詰める。
「あのQ・vic(キュー・ビック)ってサイコロは、200機以上は居やがるぜ」
「バルザック・アイン大佐に、救援を依頼した。だケド、コキュートスとのランデブーもあるからな」
「援軍は、期待薄ってコトか?」
「元々コキュートスには、サブスタンサーも大した数が配備されていない」
「せめて、あの優男でも居ればな……」
「敵、撃って来るよ!」
プリズナーの膝(ひざ)に抱えられた、群雲 美宇宙(みそら)が叫んだ。
ケツァルコアトル・ゼーレシオンとバル・クォーダは既に、敵との交戦距離に達している。
「宇宙斗艦長、散開して行くぞ!」
「了解した」
ボクとプリズナーは、2手に別れ応戦した。
「雑魚は、しょせんザコだな。数は多いが、大したコトは無いぜ」
「ああ。だが、油断は禁物だ。数の力は、時にスペシャル機を上回る」
2機のサブスタンサーは、次々に迫る来る四角い立方体を破壊して行く。
「実戦経験も少ないクセに、偉そうに言いやがる。どこの知識だ?」
「1000年前に、引き籠っていたときのシミュレーションさ」
簡単に言ってしまえば、学校にも行かず布団に包まっていたときにやっていた、シミュレーションゲームでの経験だった。
「なるホド。それは随分と、ご立派な体験で」
ボクを嘲笑(あざわら)ってか、ニヤけた口調のプリズナー。
「うるさいな。フラガラッハッ!」
ボクは腹立ちまぎれに、ゼーレシオンを囲んでいた3体のQ・vicを切り裂いた。
「うわァ! アレがオリジナルの、フラガラッハかァ!」
「オメーのは、消えちまって残念だったな」
「そうなんだよ。ボクもサブスタンサーで、戦いたかったのにさ」
不貞腐(ふてくさ)れている、美宇宙。
「半分くらいは、片付けたハズなんだがな。一向に、減った気がしないぜ」
「残念ながらあのQ・vicって立方体は、無限湧きみたいだ」
ボクはあえて、ゲーム用語を使ってみた。
「まずはボスを、どうにかするしか無ェらしい」
「相手がミネルヴァさんだと解ってるから、気も引けるが……」
「そうも、言ってられねェだろッ!」
バル・クォーダが、2挺の戦斧を両腕に持ち、斬り込む。
ツィツィ・ミーメは、目の無い頭部から真っ白な髪を5芒星のように伸ばし、5つの方向から同時にバル・クォーダを攻撃した。
「チッ! 相変わらず、鬱陶(うっとう)しい髪の毛だぜ!」
プリズナーは、上下左右から迫り来る髪の攻撃を、戦斧によって跳ね除ける。
けれども右腕と左脚に、髪の毛が巻き付いてしまった。
「クッソ、離しやがれ!」
「ンもう、なにやってんのさ!」
髪に振り回される、バル・クォーダ。
「フラガラッハッ!!!」
ゼーレシオンは、バル・クォーダに巻き付いた髪を切断した。
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