復活の軍神
火星の深紅の宇宙(そら)へと投げ出された、ゼーレシオン。
その上に、巨大な影が落ちた。
「じ、時空を引き裂いて、また別の艦が現れたって言うのかッ!?」
白き巨人が顔を上げると、ナキア・ザクトゥとは異なる漆黒の艦が、時空の裂け目から艦首を突き出している。
「今度は、かなり鋭利なデザインの艦が現れやがったぜ。おそらく、突撃艦だろうな」
コウモリのような翼を広げたバル・クォーダを駆る、プリズナーが言った。
「ああ、クーヴァルヴァリアやナキア・ザクトゥより1周り小型だけど、それでもかなりの大きさだ。まさかこの艦が!?」
「どうやら、そうらしいな。側面を見ろよ」
「オ、オオカミの紋章!?」
「ケッ、マーズ宇宙機構軍の紋章だぜ」
槍の先(スピアヘッド)のような鋭利な艦の側面には、銀色のオオカミの紋章が刻まれていた。
『ククク、まさか甦るコトが叶うなどとは、思っても見なかったぞ!』
聞き覚えのある声が、ゼーレシオンの脳裏に響く。
それは先の会戦で、ボクの艦隊によって宇宙に消えた男の声だった。
『ああ、マーズさま。お戻りになられたのですね!』
ナキア・ザクトゥからゼーレシオンを追って、艦と同じ名前の女性が操るサブスタンサーが、感極まったかのように飛び出して来る。
『おお、ナキアか。オレの愛する女よ。戦況はどうなっている?』
鋭利な艦は、その全貌を火星の宇宙へと出現させていた。
『極めて有利に、進んでおります。マーズさまは、そのままグラー・ディオスで突撃を敢行してください。わたしがその間、この者どもを抑えますから』
カーネーション色の機体は、花弁を展開させてボクとプリズナーに攻撃を仕掛けてくる。
「有利な戦況ってのも、あながちウソじゃ無ェのが腹立たしいな。どうする、艦長!」
「マーズは、クーヴァルヴァリアの横腹に突撃する気だ。そんなコト、させてたまるかァ!!」
ゼーレシオンの白い翼を広げ、ボクはナキアさんの駆るセンナ・ケリグーの横を、スピードで振り切ろうとする。
『させないって、言ってるでしょう! 堕ちなさいな!」
けれども行く手を阻んだ花弁の群れが、ゼーレシオンに襲いかかって来た。
「クソッ、クーリアァァーーーッ!!?」
ゼーレシオンの眼は、全長3000メートルを超える白い艦の右舷に、近い大きさの漆黒の艦が突き刺さる光景を目撃する。
「マズいぜ、アレじゃ艦の中に乗り込まれちまう。まったく、とんでもないデカさの強襲揚陸艦だぜ!」
プリズナーが、叫んだ。
実際に、グラー・ディオスの尖った艦首が左右に展開して、中から赤いサブスタンサーに率いられた部隊が、新造艦クーヴァルヴァリアの中へと進撃を開始していたのだが、そのコトはまだボクは知らなかった。
『マーズさまは、そのまま妹の首をお取りください』
『ああ、そのつもりだぜ。お前の妹が死ねば、火星の支配権もカルデシア財団の支配権も、あまつさえこの太陽系の支配権すらも、オレたちの手に転がり込むんだからよォ!』
「そこを退いてくれ。クーリアは、ナキアさんの妹だろう。どうして殺そうとなんかするんだ!!」
『あのコが、邪魔だからに決まっているじゃない。全てのモノを支配する権利を、あのコは生まれながらにして手にしているのだから!』
「そんなモノ、クーリアは望んじゃいない!!」
ボクは、火星のテーマパークにある観覧車での、彼女の顔を思い浮かべた。
『望もうと、望まないと、あのコが生きていれば、あのコはそれを手に出来てしまうのうよ!』
花弁の攻撃は激しさを増し、ナキア・ザクトゥからの増援のサブスタンサー部隊も展開させ、ゼーレシオンとバル・クォーダを取り囲む。
「フラガラッハァァァーーーーーッ!!!」
目の前も現れる、サブスタンサーや花弁の障害物を薙ぎ払いながら、ボクはクーヴァルヴァリアへの接近を試みた。
「力押しじゃ、ラチが開かねェ。相手は次々に、新たな壁を構築できちまうんだからよォ!」
ゼーレシオンが撃破する数よりも、明らかに相手の増援の数が勝っている。
クーリアに危険が刻一刻と迫る中、ボクは火星の宇宙に釘付けにされていた。
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