ある優等生2人の戦略(タクティクス)3
催事用のビルで行われている、中部企業・国際フォーラムの会場を歩く2人の優等生。
彼らの手には、多くの名詞が握られている。
「雪峰くんも、やるじゃないですか。技術(テック)系の企業を中心に、3社も名詞交換をされるとは、流石はデッドエンド・ボーイズのキャプテンです」
赤茶色の髪の優等生が、共に企業フォーラムを訪れた同僚を褒め讃えた。
「よく言う、柴芭。お前の方こそ、12社も名詞交換を果たしているだろう。まるで社交能力の、塊のようなヤツだな」
赤茶色の髪の優等生が集めた名詞の数に、呆れる黒髪の優等生。
「美しい女性も、多かったですからね。とりあえず午前の部で、15枚の名詞を確保出来ました」
「ああ。しかし、こう言っては何だが、名詞交換だけで良かったのか?」
「残念ですがウチの実績では、いきなり出資をしてくれと言っても断られるでしょう」
「確かにな。まずはデッドエンド・ボーイズの存在を、企業に認知させるコトが先決か」
「急いては事を仕損じると、言いますうからね」
会場内では、真新しいビジネススーツを着た学生たちが、忙しそうに企業ブースを周っていた。
2人は、腕時計に目をやる。
「気が付けば、もう1時を回っている。そろそろ、昼にするか」
「そうですね。と言っても、スーツへの出費が激しかったので、コンビニか牛丼くらいでしょうか」
「オレも同じだ。出費は痛いが、かと言って倉崎さんに出資して貰うのも、気が引けるしな」
2人は外に出ると、スマホの地図アプリを使って飲食店を探した。
話し合いの結果、結局はハンバーガーショップに入る。
1時を周っていたせいか客は少なく、2人は大き目の席に腰を落ち着けた。
「名詞アプリで名詞をスキャンして、データベースを造って置くか」
ハンバーガーを片手に、タブレットのカメラで手に入れた名詞を読み込む、デッドエンド・ボーイズのキャプテン。
「流石は、仕事が速いですね。ネットが繋がるハンバーガーショップにこだわったのは、この為だったのですか」
「まあな。このデータベースの内、1社でもスポンサーになってくれると良いのだが……」
「そう願いたい、モノですね」
赤茶色の髪の優等生は、席の白い机に並べたタロットカードをめくる。
カードは、『女帝(エンプレス)』だった。
「スポンサーに、なって差し上げましょうか?」
女性の声が、応える。
2人の優等生が慌てて横を向くと、席の隣に1人の女性が立っていた。
女性は紺色のスーツに、桜色のシャツを内に着ている。
ウェーブのかかった薄い金髪を肩に垂らし、瞳は碧眼だった。
「これは、美しいマドモアゼル。ボクは、柴芭と申します。よろしければ、貴女のお名前を教えてはいただけませんか?」
赤茶色の優等生が立ち上がり、胸に手を当てお辞儀をする。
「わたしは、シャルロット・神功寺(じんぐうじ)。父はオランダ人で、母が日本人なの」
女性は、自らの名を明かした。
「失礼ですがシャルロットとは、フランス語の名前ではありませんか?」
黒髪の優等生が、問いかける。
「ええ、そうなの。父方の祖父が、フランス人だから。わたし自身はオランダ生まれの日本育ち。いわゆる、帰国子女ってヤツね」
「複雑な、家系なのですね」
「ヨーロッパじゃ、珍しく無いそうよ。フランス人の名前とポーランド人の姓を持った西ドイツ人で、国が統合してドイツ人になって、日本人と結婚した人だっているんだから」
「ところでミス・シャルロット。我々の、スポンサーになってくれると言うのは、本当ですか?」
赤茶色の髪の優等生が、紳士的態度で伺った。
「わたしの家は、神功……JIN・GUUと言うブランドの総合商社でね。日本では輸入雑貨を中心に、商売をしているわ」
「あのJIN・GUUですか。女性向けの香水や、生活雑貨を取り扱っておられるのですよね?」
「まあね。本社はオランダで、父が社長で祖父が会長なの。フランスと日本に拠点があって、今度は東南アジアにも進出予定なのよ」
「オレはそう言うのに疎(うと)いのですが、世界的な企業なのですね。そんな企業が、どうして我々に出資を?」
疑問を抱く、黒髪の優等生。
「残念だケド、スポンサーの話は父の会社じゃ無いわ。わたしが新たに立ち上げる、ブランドよ」
シャルロットは、クスリと微笑んだ。
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