あるメタボ監督の決断3
「フィッシュフライバーガーになります。ご注文は、お揃いでしょうか?」
もう何度も足を運んで来た女性店員が、テーブルの4人の男たちに伺いを立てた。
「それじゃ、追加で……」
「セルディオス監督、それ以上は身体に悪いですよ」
メタボ監督の、機先(きせん)を制す倉崎 世叛。
「そう? まだ腹八分目だケド、仕方ないね」
メタボ監督は渋々、メニューを元あった位置に戻した。
「話を本題に戻すと、デッドエンド・ボーイズの代表を今後どうするかと、スポンサー集めをどうするかってコトだな?」
「ええ。正直、企業マネージメントの出来る優秀な代表であれば、スポンサー集めも同時に解決しそうなモノですが……」
「ウチの予算で、そこまでの人材を確保できる可能性は薄いです」
チームの現状を示す、柴芭と雪峰。
「だろうな。なにをするにも、金が必要か。だが、その金を払ってくれるスポンサーを、集めないコトにはチーム運営も立ち行かない。悩ましい、話だ」
ため息を吐く、サッカー界期待の新星。
「そこで、倉崎に提案があるね」
メタボ監督が、食べかけのフィッシュフライバーガーを、皿に戻しながら言った。
「なんでしょうか、監督」
「実は、ある男を雇って欲しいね」
「ある男……セルディオス監督の、知り合いですか?」
「倉崎も、柴芭や雪峰も知ってるね。なんせその男は、ウチの運転手なんだから」
「え……それじゃあ、まさかその男と言うのは?」
「もちろん、海馬 源太(かいば げんた)よ」
メタボ監督は、堂々と言った。
「海馬コーチですか?」
「ですがチームの代表となると、経営や経理などを覚える必要が……」
不安を吐露(とろ)する、柴芭と雪峰。
「わたしも長年、サッカーの現場を見て来たケドね。弱小クラブの代表なんて、究極の雑用係よ。チーム内のヒエラルキーで言えば、最下層だってあり得るね」
「そ、そんなモノですか?」
倉崎 世叛は、納得が行っていない顔だった。
「Zeリーグ1部の、名古屋リヴァイアサンズのチームオーナーなら、そりゃ1流の経営者だろうし雑用係ってコトは無いね。でも、チームスタッフを大量に雇えない小さなクラブの代表は、色んなコトをやらなきゃチームが回らないね」
「言われてみれば、そうですね。とりあえずの代表代理であれば、海馬コーチが適任かも知れません」
「経営や経理なら、オレと柴芭でサポートします」
「柴芭や雪峰が助けてくれるなら、なんとかなりそうだな。海馬コーチに、打診して見るか」
「それじゃ、早速電話かけるね」
スマホを取り出す、メタボ監督。
「ええッ!? オレがチーム代表って、マジで言ってるんスか!?」
呼び出されたメタボキーパーが、最大限に驚いた表情をしていた。
「そりゃ、毎試合大量失点喰らってるんで、現役引退を言い渡される覚悟はしてましたケド。デッドエンド・ボーイズのチームオーナーって、オレに務まるとも思えませんが……」
「心配無いね。さっきまで居た、柴芭と雪峰がサポートしてくれるから」
「引き受けてくれると、有難いんですが」
お気楽な顔のメタボ監督と、真剣な眼差しのサッカー界期待の新星。
「く、倉崎さんにまで言われちゃ、考えなくも無いですケド、ホントにオレなんかでイイんですか?」
「キーパークビになって、現役引退なんだから、贅沢は言えないよ」
「オレも引退は覚悟していて、サッカーの仕事に携(たずさ)われればって思っちゃいましたケド、ホントにオレなんかで大丈夫?」
「大丈夫かどうかは、やって見なくちゃ判らないね」
「そんな、無責任な……」
「でも現状、チームオーナーまで倉崎ってのは、相当無理があるのは事実ね」
「お願いします。どうか、引き受けてはくれませんか?」
「わ、解ったよ。だケド、チームオーナーって、まず何をやりゃイイんだ?」
「まずは、資金源の確保ね。スポンサー探しの、営業から始めるよ」
「オ、オレが、営業ッスか?」
「そんなの直ぐ慣れるよ。だけどそんなブクブクの身体で、着れるスーツある?」
メタボ監督は、言った。
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