双子の美少年
「ナ、ナキアが……死んじまったのか!?」
愛する女が、軍神の名を冠する彼の前で死んでいた。
美しかった顔は醜く歪み、激痛を味わいながらの最期だったコトを物語っている。
風船の如く膨らんでいた腹は、風船の如く弾け飛び、内臓や汚物までもがまき散らされていた。
「ち……ちち……うえ……」
「かなしむ……コトは……ないよ……」
マーズに向かって必死に話しかける、幼い2つの声。
「ど、どう言うコトだ……ナキアが生んだのは、赤ん坊じゃ無ェのか!?」
ワケが解らず、頭がパニックになる軍神。
そこに、再び背後から声がした。
『ククク、この女は腹の中で大きく成長した、自らの息子たちによって引き裂かれて、死んだのだ』
漆黒のローブの女が言った通り、ナキアの裂けた腹の上に立つ2人の少年は、まだ成長を続けている。
「ふざけやがって、どうしてそんなコトをしたァ!?」
『言ったであろう。この女は、一刻も早く我が子の顔が見たいと申した。それ故、成長を加速させてやったまでよ』
「そう……だよ。時の魔女は、悪く……ない」
「だって母さんの願いを……叶えてくれたから……」
成長を続ける2人の少年は、母親の遺体がある分娩台を抜け出し、マーズに向かって歩いて来ていた。
「お、お前たち……もう喋れるのか。それに、歩くコトまで出来るなんて!?」
全裸で血まみれの2人の少年が、たどたどしい歩みで近づいて来る。
「ち、父上……」
「うわッ!?」
2人は同時につまづき、転びそうになった。
「お、お前たち!?」
マーズは咄嗟に近寄って、2人の息子を抱き止める。
軍神の筋肉に覆われた腕が感じる、小さな命の温もり。
母親の真っ赤な血に染まった2人の我が子は、金髪の美しい顔立ちの美少年だった。
『名を……付けてやるが良い。いずれお前の跡を継ぎ、この太陽系を支配する男たちの名をな……』
そう告げると、漆黒のローブの女は宙に舞い上がる。
「待て、どこへ行く。お前には、まだ聞きたいコトが山のようにあるんだ!」
けれども魔女は、軍神の問いかけを無視して、背後に時空の裂け目を出現させた。
『マーズよ、お前が2人の息子を導いてやるのだ。良いな……ククク……』
冷ややかの笑い声と共に、時空の狭間へと姿を消す魔女。
「勝手なコトを。お前はオレを地獄より蘇らせ、ナキアを殺した。時の魔女よ、お前の目的は一体……」
けれども、軍神の問いに答える女は、もうそこには居なかった。
巨大空母ナキア・ザクトゥが、その名の由来となった主を失っていた頃、アクロポリスの街でも多くの命が次々に失われる。
クーリアの乗る異形のサブスタンサーは、アクロポリスの街のカプリコーン区画を壊滅させ、メリクリウスさんが防衛をしていたアクエリアス区画へと移動して来ていた。
「宇宙斗艦長、彼女にこれ以上、人殺しをさせてはいけません」
水色のサブスタンサーを駆る、メリクリウスさんが叫ぶ。
「クーリアを殺すつもりですか。クーリアは、時の魔女に操られているだけだ!」
言葉の意味を理解したボクは、ゼーレシオンで街を破壊するQ・vic(キュー・ビック)を斬り捨てながら反論する。
「ですが、彼女の洗脳を解く方法が無いのです。やむを得ないでしょう」
「やむを得ないって……そんなんで殺されちゃ、溜まったモノじゃないですよ!」
「これが戦争なのだ。人の命を数として数える。クーリア1人の命を絶てば、大勢の人々が救われる。であるならば、それをしない理由はない!」
アポロの、黄金のサブスタンサーが、Q・vava(クヴァヴァ)に向って突進を開始する。
「アポロ、援護します!」
メリクリウスさんも、テオ・フラストーで追従した。
「これは皆サマ、ご機嫌よう。ですがこのQ・vava、簡単には堕とされませんわ!」
異形のサブスタンサーは、大鎌の生えた3本の長い腕と、マントのパーツからのレーザー照射、さらにはナーガのような長い尾を使って、2体のサブスタンサーを迎撃する。
「クッ、これでは、近づくコトすらままならない……」
「火力が高すぎます、アポロ。もっと戦力が無ければ、堕とせないでしょう」
Q・vavaの圧倒的な火力を前に、後退を余儀なくされる2機。
化け物と化したクーリアは、次の区画の10億の命をも奪おうとしていた。
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