ヘリオス・ブラスター
白を基調とした楽園(エデン)を彷彿とさせる、『クーヴァルヴァリア』のメインブリッジ。
3つの階層に別れ、最下層はオペレーターが座る回転機能を備えた椅子が並び、中層には幕僚たちが座る椅子が、デジタル画像を表示可能な円形テーブルを取り囲んでいる。
最上層には、実質的に艦隊を指揮するアポロの黄金の椅子があって、その奥に艦の主であるクーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダが座る黄金の玉座が備えられていた。
「クッ、間に合わなかったか……」
「アポロ……」
けれども2人は、既に椅子に座ってなど居られない。
右側の壁を突き破って現れた、ブリッジ最上層を越える全長を誇る赤いサブスタンサーが、2人を見降ろしていたからだ。
「マーズ、キサマか?」
「ああ、そうだぜ。久しいな、アポロ」
かつて、ディー・コンセンテスの椅子に並んで座っていた2人が、今は向かい合って対峙する。
「わたしを、殺しに来たのか?」
「ま、そんなところだ。文句はあるまい。お前はオレと宇宙斗とやらの艦隊決戦で、オレの艦隊が壊滅するまで停戦をしなかった」
「アレはお前が、ディー・コンセンテスの許可も得ずに独断で、戦端を開いたモノだ。お前が戦死したところで、自業自得以外の何ものでもあるまい」
「確かに、オレは死んだ。宇宙の塵にすらならないくらいに、乗艦もろとも蒸発したハズだった。だがオレは、こうして甦ったのだ」
「ナゼ、我々に敵対する。再びディー・コンセンテスの一員として、働く気は無いのか?」
「当然だ。艦隊を壊滅させちまったオレが、今さらオメオメと帰れるハズもなかろう。ならばオレを復活させてくれた、お方の為に働くまでよ」
赤いサブスタンサーは、手にしたライフルの銃口をアポロとクーリアに向けた。
「お前が恨んでいるのは、このわたしだろう。クーリアは、関係ないハズだ!」
「残念だがよ。オレが関係なくとも、オレの女がお前の許嫁を恨んでいてな。悪く思うな……」
銃口に、光子のエネルギーがチャージされ始める。
『ドゴオオオォォォーーーーーッ!!!』
その時、轟音が鳴り響き、ブリッジが激しく揺れた。
「な、なんだ、この光は!?」
後ろを振り返る、赤いサブスタンサー。
「連れて来た部隊が、半分以上壊滅してやがる。ま、まさか……」
「フッ、どうやらメリクリウスが、間に合ってくれたようだな」
強張った顔を、少しだけ緩めるアポロ。
「小賢しマネを……お前の命、今すぐに奪ってやる!」
「ならばマーズ。貴方の命も奪うまでです。この『アー・ポリュオン』の、『ヘリオス・ブラスター』によってね」
マーズの率いる部隊が開けた穴の向こうで、6枚の羽根を持った獅子の頭の黄金のサブスタンサーが、巨大な銃を身構えていた。
「そ、その声、メリクリウスか!?」
「ええ、そうですよ、マーズ。もう1度地獄に戻りたく無ければ、銃を降ろし投降なさい」
「なんとか、命拾いしましたね……」
黄金のサブスタンサーに乗ったメリクリウスの声に、安堵するクーリア。
けれども大きな赤い腕が、彼女を許嫁から引き裂いた。
「きゃあああぁぁーーーーッ!!」
悲鳴をあげ、遠ざかるクーリア。
彼女の身体は、マーズの駆るサブスタンサーに握られ、数メートルの高さまで持ち上がる。
「クーリアを、離せ!!」
「偉そうに、オレに指図すんじゃ無ェ、アポロ!」
再びアポロの方を振り返る、赤いサブスタンサー。
「グェッ、あぎゃあああぁぁぁーーーーーッ!!」
「ク、クーリア!!?」
アポロの目の前で、許嫁の整った顔が激痛によって歪んだ。
「おっと、悪い悪い。力を入れすぎちまった。骨が10本くらいは、砕けたか?」
「お、おのれ、マーズ!!」
怒りに打ち震える、太陽神。
「どうだ、メリクリウス。これでもヘリオス・ブラスターを、撃てるのかよ?」
「しまった。ここからでは、手出しができませんッ!?」
カルデシア財団のご令嬢を人質に取り、上機嫌のマーズ。
「どうする、アポロ、メリクリウス。ヘリオス・ブラスターで、許嫁もろともオレを撃てるのであれば、撃ってみろ!!」
火星の神の高笑いが、新造艦『クーヴァルヴァリア』のブリッジに響いた。
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