落成式
火星のオレンジ色の宇宙に浮かぶ、純白の巨大宇宙艦。
アクロポリス宇宙港に係留された艦は、あまりにも神々しく優雅にたたずんでいた。
「アレが、キミの名を冠した艦、『クーヴァルヴァリア』か。美しい艦だな」
「全てはAIよって計算され、アーキテクターたちによって精密加工され創られた艦です」
クーリアは、不満を口にする。
「確かに、時の魔女のハッキングは不安だよな。有効な対策でもあれば、良いんだが」
「いえ、そうではございません」
空港施設の屋上にてクーリアの、ピンク色のロールしたクワトロテールが風に靡いていた。
「火星艦隊の旗艦たる艦であっても、人の手を介さずに創られたコトが、寂しいのです」
「そうか。ボクの時代じゃ、造船所でも大勢の人間が働いていた。設計も含めて全て自動で創れるなんて、スゴいことのように思えるケド」
「実際に、スゴいのでしょうね。これはただの、わたくしの我がままな主観に過ぎません。どうか、忘れて下さい……」
クーリアは、彼女を迎えに来た警備兵に挨拶をし、ボクの前から立ち去った。
「この時代、AIやアーキテクターの発展によって、人びとは『仕事と言う束縛』から解放された」
1人残されたボクは、フェンスから下を見る。
宇宙艦隊旗艦の落成式に向けた準備が、着々と進められていた。
「でも彼女には、仕事を選ぶ権利なんて無いんだよな……」
流れる線をふんだんに取り入れた、真っ白な艦。
「クーリアにとってあの艦は、決められた未来の象徴に見えていたのかも知れないな」
ボクも、屋上を後にした。
白く統一された服を着た楽団によって軽快な音楽が流れ始め、落成式が幕を開けようとしていた。
会場には大勢の人間が集い、警備用であろうサブスタンサーも各所に配備されている。
「この分だと火星の要人も、大勢来ているんだろうな」
周りには、高そうなスーツを着た貫禄のあるお腹のオジサンや、煌びやかな宝石を纏ったマダムら、セレブな雰囲気の人びとが大勢屯(たむろ)していた。
「なに言ってやがる、艦長。アンタだって今や、火星の要人なんだぜ」
「そうね。自覚は無いのかも知れないケド、1人での行動は避けた方がいいわ」
会場で行き場に困っていたボクの背後から、プリズナーとトゥランが声をかけて来た。
「自覚はまるで無いんだが……気を付けるよ」
1000年前のボクは、引き籠りの高校生でしかなかった。
そんなボクが要人だなんて、自覚があろうハズが無い。
「オヤ、こんなところにおいででしたか、宇宙斗艦長」
「そろそろ式が、始まってしまいますわ」
「メリクリウスさん、それにセミラミスさんも!」
ボクの目に映ったのは、グリーンのスーツを自然に着こなした金髪の美しい好青年と、長い紫色の髪に真っ白なドレスを纏った妖艶な美女の姿だった。
「こちらへどうぞ。艦長の席は、ちゃんと用意してありますよ」
「お2人の護衛の方の席もございますから、安心して付いて来て下さいませ」
2人に言われ、ボクはプリズナーとトゥランを伴って壇上の席に座る。
「ヤレヤレ、ボクもたいそうなご身分になったモノだな……」
そう呟きながら壇上を見回すと、ケレースさんとバックスさんが座っていた。
ユピテルさんとディアナさんの姿は無く、他にも要人らしき人びとが数名いる。
盛大なファンファーレと共に、落成式が開始された。
会場に詰め掛けた大勢の観客から、歓声が沸き上がる。
ステージの背後から、白い艦が浮上しその優美な姿を現した。
「今日は、わたくしの名を冠した艦『クーヴァルヴァリア』の落成式に集っていただき、誠に感謝しております」
壇上に設けられたスピーチ台で、クーリアが絨毯のように敷き詰められた人々に向かって挨拶をする。
「クーヴァルヴァリアは、先の戦闘によって失われた火星艦隊の、旗艦となる役割りを与えられました。身に余る職務ではありますが、わたくしは火星艦隊・指令の役割りを負わせていただきます」
すると彼女の傍らに、彼女の許嫁が歩み寄った。
「わたしは、ディー・コンセンテスのカルデシア財団・宇宙エネルギー機構代表である、アポロだ。恐らく知っているとは思うが、クーリアはわたしの許嫁の女性である。よって新設される火星艦隊の指揮は、実質わたしが執るコトになった」
太陽神の名を持つ男は、壇上で雄弁に語り始める。
会場には、艦隊に配属されるであろう軍人たちも、大勢集まっていた。
「火星艦隊も、着々と再編されつつある。諸君らの中にも、艦隊に配属される者も居るだろう。その時は、わたしに力を貸してくれ」
アポロは、クーリアの両手を取る。
会場からは、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
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