地獄の使者
「アポロ、現状はどうなっているのです?」
新造艦のメインブリッジで、真珠色の髪にピンク色のクワトロテールをした少女が、ギリシャ彫刻の肉体美をした男に問いかける。
彼女の名は、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。
カルデシア財団の正当なる後継者にして、新造艦の艦長でもあり、新たに新造される予定の火星艦隊の総司令をも任されていた。
「右舷に、謎の艦が突き刺さっている。状況から考えて、時の魔女の艦だろうな」
「艦内に、進入されたのですよね。貴方のサブスタンサーは、出せないのですか?」
「残念だが、メインブリッジと格納庫の間に、謎の艦が突っ込んでいる。進入したサブスタンサー部隊と、遭遇する可能性が高い」
「この艦に、なにか対処できる方法は無いのですか?」
「キミも見た通り、格納庫にはまだサブスタンサーの1機も配備されていない。この艦も、基本的に全て無人での航行が可能となっているが、内部に敵が進入されるのは想定外でな」
「せめてこの艦の武装で、宇宙斗艦長を援護できないのですか?」
「やっている。だが相手のサブスタンサーは、マーズが代表を務めるマルステクター社の、最新鋭のタイプだ。対空斉射が早々、当たるモノでは無い」
ブリッジのパネルを操作し、必死に情報をかき集めるアポロ。
カメラの1台が、真っ赤なサブスタンサーに率いられた部隊を捕らえる。
「よお、アポロ。久しぶりじゃねえか」
『クーヴァルヴァリア』のブリッジにある、メインモニターに赤い髪をした男の姿が映った。
「お前は、マーズ!?」
「貴方は既に、死……」
ボクとナキア・ザクトゥの会話を知らない2人は、生きているマーズの姿を見て驚く。
「ああ、確かにオレは死んでいた。だが地獄の蓋を開けて、舞い戻って来たぜ」
「死者が、復活したなどと……大方、クローンであろう」
「残念だがアポロ、オレはクローンじゃ無ェぜ。ナキアの話から推測すると、オレを復活させたのは『時の魔女』だろうからよ」
「時の……魔女だと!?」
「ああ、直ぐにお前らの元に行ってやるぜ。じゃあな」
赤いサブスタンサーに攻撃され、カメラの映像が途絶える。
「ま、待て。お前はどうして、我らに敵対を……」
同時にメインモニターに映っていた、映像も消えた。
「アポロ、一体どうすれば?」
怯える許嫁に対し、応えることが出来ないアポロ。
するとメインスクリーンに、見慣れた顔が映し出される。
『アポロ。聞こえますか、アポロ!』
「おお、メリクリウス。来てくれたか!」
『ええ。宇宙斗艦長が戦ってくれている隙に、クーヴァルヴァリアの格納庫に進入できました』
「戦力は、どれくらいだ?」
『残念ですが、ボクのテオ・フラストーと、部下の12機のみです』
「カメラで確認したが、進入したマーズの部隊は、30機以上はいる」
『マ、マーズですって!?』
「ああ、ヤツは復活した。時の魔女によってな」
『今、部下が、ブリッジに向けた道を開けているところですが、果たして間に合うかどうか……』
「わたしの、『アー・ポリュオン』を使え、メリクリウス」
アー・ポリュオンとは、落成式のときにアポロが乗り、クーリアを彼女の名を冠した艦へと運んだサブスタンサーだった。
『なるホド、 アー・ポリュオンの、ヘリオス・ブラスターを使うのですね』
「ああ、仕様許可は回線で送る。右舷に突き刺さったヤツの艦を、焼き払ってくれ」
『了解です、アポロ。どうか2人とも、ご無事で……』
メリクリウスは作業に取り掛かったのか、メインモニターから姿を消す。
「メリクリウスのヤツ、間に合ってくれれば良いが……」
「今は彼を信じて、待つ他ありません」
俯き怯える、クーヴァルヴァリア。
「彼とは……メリクリウスのコトか?」
「え、ええ。当然でしょう、アポロ」
「そうか、やはりキミは……」
その時だった。
メインブリッジの一角が、激しく破壊され爆炎が吹きあがる。
「地獄の使者の、到着だ。迎えに来てやったぜ」
アポロとクーリア、2人の見上げだ先には、真っ赤なサブスタンサーが立っていた。
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