ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・37話

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クーヴァルヴァリア

 ボクやプリズナー、トゥランやクーリアらは、『深淵の海の魔女』撃破の経緯や、その後のイーピゲネイアさんによるアーキテクターたちの反乱の詳細を、ディー・コンセンテスの会議の場で話した。

「宇宙斗艦長、貴方は信用に足る人物と判断致しました。我々は今、時の魔女の脅威に対してあまりに無防備です。どうか、艦長のお力添えを願いたい」
 ミネルヴァは、その黒乃のような容姿で、謙(へりくだ)って頭を下げる。

「解りました。火星の艦隊再編が整うまでの間、ボクの艦隊で火星を護衛します」
 ボクは即答した。
理に適った要求だったし、何より黒乃が頭を下げるのを見るのが嫌だった。

「ケッ、なんとも情けない話だぜ。自分たちの火星護衛艦隊を全滅させた相手に、火星や自分らの防備を願い出るとはよ」
 バックスが、ピンク色のズボンの脚をテーブルに投げ出し悪態をつく。

「受け入れがたくとも、それが現実です」
「それもこれもマーズのアホが、功を焦って勝手に戦端を開いちまったせいだがな」

 ユピテルに対しては高圧的なミネルヴァも、バックスの態度に対しては見過ごしている。
それぞれの団体代表である彼らの、力関係が影響しているのだろう。

「メリクリウス、艦隊の再編にはどの程度かかる見込みです?」
「そうですねェ。現状の艦艇をそのまま製造しても、一ヶ月で1個艦隊が良いところでしょう。それに現艦艇の設計では、また……」

「コイツの艦隊に、乗っ取られるってか。まあ実際そうなってるワケだ。同じモンを作ったところで、同じ結果になるに決まってるしな」

「バックスさん、信じて貰えないかもしれませんが、ボクたちに艦隊を乗っ取る意図は……」
「いえ、宇宙斗艦長。数日間接して、ボク個人は貴方を信じて良いと思ってます」
「メリクリウスさん……」

「ですが時の魔女が動き出したとなると、魔女に対しての乗っ取り対策は、考えねばなりません」
「そうですね。最初に木星圏の2つの軍事国家の艦隊を乗っ取ったのも、深淵の海の魔女でした」

「だがメリクリウスよ。ハッキング対策と言っても、簡単ではあるまい?」
「ええ、アポロ。ですがかつて、艦隊設計の技術者であった者として、取り組まねばならない難題でしょうね。ヤレヤレ、骨が折れますよ」

「ハッキング対策に対しては、メリクリウスに一任します。ユピテルは、木星圏の軍事バランスの早急な立て直しを、ディアナは月艦隊の装備の刷新をお願いします」
「了解いたしました、ミネルヴァさま」
「直ぐに指揮を執りましょう」

「だがよ、ミネルヴァ。肝心のこの火星艦隊は、誰の元に再編する気だ。既にマーズの野郎は、宇宙の塵となっちまってんだぜ」
 金髪ドレッドヘアの男は、尚も悪態を続ける。

「それについてですが、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダ。貴女に、お願いをしたい」
「わ、わたくしがですか!?」
 いきなりとんでもない話を振られ、驚くクーリア。

「わたくしなどは、艦隊を運用した経験もございません。他に適任者が……」
「いいえ、クーヴァルヴァリア。貴女は、この火星の開拓に大きく貢献した、ハルモニア財団・頭首の正当なる血を引く後継者です」

「それに直近で、貴女の名を冠した艦が就航する予定なのですよ」
「わたくしの……お姉さまたちの様なリゾート艦でしょうか?」
 クーリアが、メリクリウスに聞き返す。

「いえいえ、あれはセミラミスさんのご趣味でそうなっただけで、2番艦のナキア・ザクトゥは実質ほぼ空母です。火星艦隊のどの艦よりも高性能ですからね」

「キミの艦、『クーヴァルヴァリア』は、火星艦隊の指揮を執るにふさわしい艦となる予定だ。心配する必要など無い」
 婚約者であるアポロが、言った。

「で、ですが……宇宙斗艦長」
 クーリアは、不安げな瞳でボクを見る。

「クーリア、やはり不安かい?」
「は、はい。わたくしに火星艦隊の指揮などと、過ぎた大役です」
「火星の人たちは、キミをどう思っているのかな?」

「解りません。しばらく離れておりましたし、人々の感情など知る由もございません」
 艦隊を失い無防備となった火星の、シンボルとなる様に要求されたクーリア。
不安がるのも無理はない。

「では、ミネルヴァ。こちらも、要求を出させていただきます」
 ボクは言った。

「そうですね。当然の、権利です。お伺いしましょう」
 太陽系の命運を決める交渉は、次のステージへと進んで行った。

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