再会
「地下の噴水広場……AIである彼女たちが、そんな場所に向かう理由はなんだ?」
疑問が頭を過ぎりつつも、ボクは地下街を行き交う人の間を縫うように走り、目的地へと辿り着く。
「けっこう時間が、かかってしまったな。レアラとピオラは、まだここに居るのだろうか?」
ボクは、鮮やかな色で光る噴水の周りを歩きながら、2人がいないか確認した。
「居ないな。とりあえず、周りにいる人に聞き込んでみるか」
地下の大通り同士がクロスする交差点に、シンボル的に設置されている噴水。
かっこうの待ち合わせスポットであり、周囲には大勢の人が集まっている。
「動く人形? ……お兄さん、大丈夫?」
「見なかったわよ、ねえ」
「そう言えばさっき、そこの女のコたちが人形がどうのとか騒いでいたわよ」
「ホントですか、ありがとうございます」
有益な情報を聞きつけたボクは、お礼を言い頭を下げる。
それから噴水の外縁でスマホ画面を眺め騒いでる、3人の女子高生くらいの少女たちに近づいた。
「あの、キミたち……って、アレ!?」
すると3人の誰もが、見覚えのある制服を着ていて、ボクが知っている顔だった。
「うわあ。誰、この人!」
「妖しい人が、いきなり喋りかけて来たァ!」
「に、逃げるよ!」
「ま、待って、卯月さんに、花月さん、由利さん。ボクだよ、ボク」
サングラスを少しズラし、瞳を見せる。
「ア、アレ。昔、同じアパートに住んでいた先生だァ!」
「どうしてそんな格好してるの。気付かなかったよ」
「そりゃアンタ、今や超有名人だからに決まっているじゃない」
彼女たちは、ボクが教育大に居た頃に、教育実習で派遣された中学の生徒だ。
久しぶりに会った3人は、エウクレイデス女学院の制服に身を包み、少し大人びた印象になっている。
「ボロアパートに住んでいた時は、モップとはたきとヴァールで襲われそうになったよな」
「そ、それは先生が、夜中なのにうるさくするからでしょ」
「あのボロアパートで、真夜中にヘンな声が聞こえるんだから」
「そりゃ、焦るよ」
今はアパートも取り壊され、3人はボクと同様、テミルのプニプニ不動産が紹介した別の物件に住んでいるらしい。
「先生とは、チョッキン・ナーのライブに行って以来だよね」
「でも、キャンさんたちも、今やメジャーデビューかァ」
「嬉しいような、寂しいような」
「お陰でキアたちも、勉強が遅れて大変なんだが」
「ところで先生、わたしたちに何か用ですか?」
「ああ、そうだった。実は……」
ボクは動く人形を見なかったか、3人に聞いてみた。
「見ました、見ました!」
「わたし達、噴水をバックに自撮りしてたんです。そしたら、ホラ!」
「噴水を上に向かってピョンピョン登って行く、2つの黒い影が!」
3人は、自撮りしたスマホ動画をボクに見せてくれる。
「確かにこの影は、レアラとピオラに違いない。ここから、どっちに向かったか解らないか?」
「そうですね。振り返ったときには、もう居ませんでしたが……」
「噴水の向こう側に、行ったんじゃない?」
「方向からすると、電波塔の方だと思うよ」
「ありがとう、卯月さんに、花月さん、由利さん。今度、何かおごるよ」
ボクは3人と別れると、中央広場から地上に出て電波塔へと向かった。
「電波塔なんて、もう使われなくなって久しいのにな。最新のAIである彼女たちが、どうして?」
かつては巨大な街を一望できたであろう、電波塔。
街のシンボルとして君臨し、多くの観光客を飲み込んで来た栄光の歴史を持つ。
けれども今や、周りに高層ビルが乱立し、肩身を狭くして立っている。
「レアラとピオラは、ホントにここに向かったのか?」
キョロキョロと、辺りを見回しながら歩いていると、ポケットの中のスマホが震えた。
「カトル……いや、ルクス? なにか、わかったか?」
「保険かけた呼び方、しないでよね!」
「でも、2人の居場所が解ったよ」
2人同時に、スマホに出る双子姉妹。
「ホントか。レアラとピオラは、何処なんだ?」
「上だよ、上!」
「電波塔の、テッペン!」
「こ、この電波塔の、テッペンに居るのか!?」
ボクが探していた動く人形は、ボクがたどり着けない場所に居た。
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