ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第24話

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不動産屋の娘

 簡易裁判所は、実のところボクも訪れるのは始めてだった。
その中で出会った、教え子の少女。

「ライア、撮影は終わったのかな?」
 ボクは、古風な弁護士の服を着た少女に話しかける。
どうやら今回の撮影で着た、衣装のままらしかった。

「ど、どうしたんですか、先生。その頬っぺた」
「ああ、色々とあってな。タリアに、良いパンチをお見舞いされてしまったよ」

「あのコったら、また……先生がその気であれば、傷害罪になるところです」
「当然ながら、そんな気はないさ。こちらの落ち度も、大きかったからね」
 ボクは会話の流れで、マジメ過ぎる少女の行動を抑制する。

「ところで、撮影はもう……」
「はい、今日の撮影は終わってます。他のメンバーも来てますケド、今回は裁判所でわたしがメインの撮影でした」

「……と言うコトは、明日以降も撮影があるんだな?」
「明日は、エリアの実家の教会での撮影だと聞きました。ところでそちらの方は、ご友人ですか?」

「あ、ああ。大学の頃からの……」
「悪友だよ。キミが、プレジデントカルテットの、新兎 礼唖(あらと らいあ)ちゃんだね?」
 悪友は、ボクの会話を強奪する。

「はい。そうですが、わたしになにか用件があるのでしょうか」
「ある、大アリなんだよ。実はオレ、ユークリッドからキミたちのソロ曲の作曲依頼を受けてさ」

「お前たちの誰とも面識がない上に、新人アイドルだから細かな情報も無い。だから直接会って、曲のイメージを掴みたいってコトなんだ」
 今度はボクが、悪友から会話を奪ってやった。

「なる程、了解しました。そう言うコトであれば、他のメンバーも呼んだほうが良いですよね」
「ああ、頼むよ、ライア」

「でしたら、出てすぐ横にある喫茶店でお待ちください。ユークリッドと言えど裁判所を貸し切れたのは、午前中だけなんです」

「半日だけでも、裁判所を貸切るなんて十分に凄いけどな」
「了解した。じゃあ、先に喫茶店に行っているよ」
 ボクと友人は、公共の場に戻った裁判所を後にした。

「お、ここがライアちゃんの言ってた、喫茶店か。ずいぶんと趣(おもむ)きのある、店だな」
「確かに、チェーン展開されてる店とは違った、こだわりを感じるな」
 カランコロンとドアベルが鳴り響き、中へと入る。

 挽き立てのコーヒーの香り漂う店内は、オレンジ色の照明と、赤いビロードの背もたれ椅子があって、セレブな雰囲気の人たちが優雅なひと時を愉しんでいた。

「お、あの奥まった席にしようぜ。カルテットってんなら、アレくらいの広さが無いとな」
「ウム、異論はない」

 ボクは友人の意見に賛同し、喫茶店の一番奥の席に座る。
2人ともアイスコーヒーを注文し、しばらく待っていると、4人の少女がドアを開け入って来た。

「お前たち、撮影でお疲れのところ悪いな」
 天空教室で見慣れた制服姿とは異なり、フォーマルなデザインのアイドル衣装を着た教え子たち。
ボクは少し緊張気味に、会話を始めた。

「とりあえず、好きなモン頼んでよ。ここ、オレがおごるからさ」
 軽いノリで、初対面でも躊躇するコトも無く話しかける友人。

「へえ、この方が先生のご友人さんっスか?」
「そうだよ、テミル。大学時代の、腐れ縁ってヤツだ」
 4人(カルテット)の中で、最初に会話に応じたのは、やはり彼女だった。

「ちなみにご友人さん、現在はどんな住宅にお住まいっスか?」
「え、ああ。実家だケド」

「一人暮らしする予定は無いっスか。良い物件、紹介するっスよ」
「今の会社の仕事ですら、手一杯だからな。家事までしてる、余裕がないって言うか……」
 家事は親任せだとは、言い辛いらしい。

「な、なあ。このコは?」
「天棲 照観屡(あます てみる)、プニプニ不動産の看板娘ってところかな」

「んじゃ、お言葉に甘えても、構わなそうっスね。エビとサーモンの海鮮カルボナーラと、特大ハンバーグのロコモコ丼、飲み物はメロンソーダが良いっスね。あと、デザートにザッハトルテってヤツが美味しそうっス」

 客にならないと判った途端、遠慮もせず高いメニューばかりを注文するテミル。
流石は、不動産屋の娘と言ったところだろうか。

「テ、テミルちゃん、そんなに注文して食べきれるかな?」
「大丈夫っすよ。撮影で体力使った後っスからね」
 琥珀色の髪を三つ編みお下げにした少女は、悪びれるコトも無くほほ笑んだ。

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