ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第11章・50話

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浮上

「な、なんじゃ、宮殿が揺れておるぞ!?」
 漆黒の髪の少女が叫んだ。

「まさかコイツらを倒したせいで、またなんかの仕掛けが作動しちまったんじゃ無ェだろうな?」
 バルガ王子の周囲には、黄金剣クリュー・サオルによって黄金と化した、怪鳥たちの残骸(スクラップ)が散乱している。

「単なる地震って可能性もあるケド、ぜんぜん揺れが収まんないよ、ダーリン!」
「ここって、深い海の底なんだよね。地震なんて起きるのかな?」
 蒼い髪の少年は、2人の少女を護るように身体で覆い被さりながら、疑問を漏らした。

「起きる。むしろ、このリヴァイアス海溝は、多くの地震の発生源でもあるのだ」
「そう言や、そうだったな、シドン。だが、やけに長い地震だぜ。早く脱出して、アラドスを治療してやりてェんだが……」

 けれども王子の願い虚しく、一向に揺れは収まらない。
それどころか、徐々に揺れの大きさが増幅されて行った。

「ウェ、なんだかボク、気分悪くなってきた」
「だいじょうぶか、スプラ。でもなんだかこの感じ、エレベーターの乗ってるときみたいだ。エレベーターが、上昇している感覚と同じな気がする」

「の、のォ、ご主人サマよ!」
「ど、どうしたの、ルーシェリア。いきなり大声を出して?」

「『エレベーター』とは、なんじゃ?」
 舞人が抱えた少女の1人が、訝しげな顔をして問いかける。

「へ?」
「ボクも聞いたコト無いよ、ダーリン。ねェ、シドンは知ってる?」
「残念ながら、わたしの知り得た知識の中にも、該当する言葉は無いな」

「だ、だからエレベーターってのは、ホラ……エレベーター……アレ、なんだろう?」
 急に記憶の泉が、枯れ果てる感覚に襲われる舞人。

「もう、ダーリンったらこんなときに、ボケてる場合じゃないよ!」
「ゴ、ゴメン、スプラ」

「まあ落ち着け、イカの小娘よ。ご主人サマはどうやら、自分が知らない記憶を持っているようじゃ」
「自分が知らない記憶ィ。なに言ってるのか、サッパリなんですケドォ?」

「武器庫のときもそうであったろう。ご主人さまは明らかにこの宮殿に使われている文明の技術を、知っておるのじゃ」
「言われてみれば、そうだね。ダーリン、なんで知ってんの?」

「ボクに聞かれても、自分でもよく解らないって言うか……」
 舞人は、自分でも違和感を感じる。

「だが、上昇していると言うのは、その通りかも知れん」
「どう言うコトだ、シドン?」

「恐らく、簡単な話です。揺れも小さくなって来ましたし、急ぎましょう」
「そうだぜ、王子。オレたちが動けるってコトは、追って来ている巨人どもも動けるってことだ」
 若き海洋生物学者の提案に、ベリュトスも賛同する。

「そうだな……一旦宮殿に戻って、外の状況を確認するぜ」
 一行は、大魔王が穿った洞窟から、間近に見えていた宮殿への裂け目に向け急いだ。

 大魔王が目覚める前の巨大タマゴが吊るされてた大広間を駆け抜け、魔物が徘徊する回廊を突っ切って、最初に入った玄関まで辿り着く。

「深海魚たち、まだやられずに生きてるかな?」
「外にまで敵がいたら、逃げちゃってるかも。泳いで帰れるかなァ」
 舞人とスプラは、玄関の扉を開けようとした。

「待てよ、忘れちまったのか。宮殿の外は深海だぜ。また、例の深海の魔法ってヤツを……」
「王子、わたしの予測では、その必要は無いかと思われます」

  シドンは、大きな両開きの玄関扉を開け放つ。

「な、なんだ、こりゃあ。一体、どうなってやがる!?」
「オ、オレたち、確かに海溝の底の深海に居ましたよね!?」
 アラドスを抱えたバルガ王子とベリュトスが、大きく目を見開いた。

「ルーシェリア、どう言うコト……なんでボクたち、地上に出てるの?」
 舞人たちの目に映ったのは、海から上ったアト・ラティアの街並みと、蒼穹の空だった。

「イヤ、ご主人さまよ。ここは地上では無い。上空じゃ」
「な、なんだって!?」

 舞人が辺りを見渡すと、海藻に覆われた街並みが日の光を浴びて輝いている。
そこら中に出来た水溜まりでは、深海魚が内臓を破裂させていた。

「アト・ラティアの街が……街ごと浮上したってコト!?」
 蒼き髪の勇者は、現実を現実と認識できないでいた。

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