パーティーの力
深海の宮殿から、巨大ドームまで続く大魔王の作り上げた道。
宮殿まで僅かな距離まで辿り着いた、海皇パーティーと舞人たち一行だったが、あと1歩のところで行く手を阻まれていた。
「これでよしっと。王子の友だちの手足の傷口は、ボクのアス・ワンの触手で塞いだよ」
「サンキューな、スプラ。恩に着るぜ」
応急処置を施されたアラドスを抱え、礼を言うバルガ王子。
「ねえ、ホントにキミ1人で、だいじょうぶなの。あのライオンたち、この人の手足を一瞬で喰い千切ったんだよ?」
「なんじゃ、イカの小娘よ。妾の身を、案じてくれるのかえ?」
漆黒の髪の少女を取り囲んでいた、金属のライオンや狼たちが、周囲をゆっくり歩きながら飛び込む間合いを伺っていた。
「そ、そんなんじゃ……ボク的には、キミが死んじゃった方が助かるしね」
「素直では無いのォ。まあ良いわ」
1人だけ一行の輪から離れていたルーシェリアは、黒いオーラが集まった球体を上空へと移動させる。
「妾の剣は、どうやら皆を巻き込んでしまう、恐れのある剣じゃからな」
漆黒の髪の少女は、イ・アンナと銘打たれた剣を振り降ろした。
黒い球体が、ルーシェリアの周囲を駆け巡る。
『ガルル……』『クオン!』
黒い球体が頭上を通過したライオンや狼たちは、次々に四肢を屈し、やがてその身体までもが完全に圧し潰された。
「ス、スゴイ。ライオンや狼たちが、ペチャンコになっちゃった!?」
「ルーシェリアの剣は、重力を操れるみたいだね」
「ねえ、ダーリン。重力ってなに?」
「重力ってのは、この星が上にあるモノを引っ張ったりする力で、例えばスプラが重たいのも、重力があるからなんだ」
「失礼な、ボクは重たくないよ!」
「蒼き髪の勇者……因幡 舞人と言ったな。だが今は、結果を論じている場合では無い」
バルガ王子の参謀である、シドンが注意喚起する。
「そうだな、シドン。上空には、まだ怪鳥の魔物が旋回してやがる。アラドスがまだ、しぶとく生きているうちに、先に進みたいところだが……」
「あの怪鳥どもが、いつ襲って来るかわかんないってコトかァ」
「イ・アンナの攻撃も、あの高さまでは届かぬしのォ」
「でもキミ、飛べるじゃん」
「この剣は、まだ慣れておらぬでのォ。飛んでおっては、集中が出来んのじゃ」
「スプラ、お前の触手で絡め捕れ無ェのか?」
「ちょっと無理かな、王子。アス・ワンの触手で捕まえても、ボクの方が振り回されちゃいそうだよ」
「あの高さまで、届けばいいの、ルーシェリア?」
蒼い髪の少年が、いきなり質問をした。
「な、なんじゃご主人サマよ、急に。確かにそうじゃが……ま、まさか!?」
「ウン。ジェネティキャリパーの力を開放する」
「ダ、ダメだよ、ダーリン。また、暴走しちゃう!」
「大丈夫だよ、スプラ。ほんの、一瞬だけだから」
そう言うと舞人は、漆黒の髪の少女を抱きかかえる。
「うにゃあ、な、なにをする!?」
「行くよ、ルーシェリア……」
少年の瞳が、赤く輝いた。
「……なッ!?」
バルガ王子の目の前に居た舞人は、一瞬にして遥か上空に到達する。
「ルーシェリア!」
「仕方ないのォ。イ・アンナ!!」
黒き球体が洞窟の天井ギリギリを旋回し、飛んでいた怪鳥たちを地面に叩き落とした。
「やりやがったな。コイツら、ドームに群がってやがった鉄の鳥と違って、バカデカい図体だから、落ちただけでかなりのダメージ受けてやがる!!」
王子は、アラドスをシドンに預けると、地を這う怪鳥に向かって飛び込む。
「黄金剣『クリュー・サオル』!!」
怪鳥の金属で出来た首の継ぎ目に、自慢の剣をねじ込んだ。
「チッ、生き物じゃ無ェから、黄金にならねえ!」
怪鳥は、首をもたげ起き上がろうとしている。
「ティルス、オレに力を貸してくれ!!」
王子は、長年仕えてくれた亡き少女の形見の剣を、振りかざした。
見る見る氷漬けになる、怪鳥たち。
「今度こそ、喰らいやがれ。『クリュー・サオル』!!」
黄金剣が、太陽の如く光り輝く。
怪鳥の外殻は、低温から一気に高温に温められたためボロボロになり、粉々に破壊された。
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