鉄の鳥
「サタナトスさま、これからいかが致しますか?」
紫玉の魔王アクト・ランディーグが、龍の頭を傾げて問いかける。
「宮殿に放っておいた監視魔からの報告じゃ、どうやらヤツらはギスコーネを撃破し、復活した大魔王ダグ・ア・ウォンと戦っているらしい」
「ギスコーネさまを、バルガ王子が倒したのですか?」
「王子の弟……か。ヤツには、カル・タギアの宝物庫で見つけた氷の剣を与えてやったのに、困ったモノだよ」
「王子たちはもしや、ダグ・ア・ウォンさまをも倒してしまうんじゃ!?」
藍玉の魔王ベク・ガルが、言った。
「それは無いだろう。ダグ・ア・ウォンは、天下七剣の一振りである、海皇の宝剣『トラシュ・クリューザー』を核に生み出した大魔王だ。それに、あの遺跡は中々に面白い場所だったからね」
「深海の遺跡が……面白いとは?」
「別に、考古学を言ってるワケじゃ無い。なあに、今に解かるよ」
サタナトスは玉座で、口元を歪ませ微笑んだ。
その言葉の意味するところに、舞人やバルガ王子たちは直面する。
「な、なんじゃ。ドームの中の灯りが赤く光って、何やら甲高い音が鳴り響いておるぞ」
大魔王の巨大渦巻きによる攻撃を、背中の羽根で飛翔してかわすルーシェリア。
「大魔王との戦いの最中だ、気にしてる場合じゃ無いだろ」
「待って、ダーリン。気にしなきゃ、ダメかも。見て、アレ!」
隣のサーフボードに乗ったスプラに言われ、巨大なドームの壁を見る舞人。
「な、なんだ。なにも無かったドームの壁一面に、扉がたくさん開いたぞ!?」
「しかも扉ん中から、なにか出て来やがった。一体、どうなってんだ!?」
舞人を後ろに乗せたビュブロスが、隣のサーフボードに視線を振る。
「オレに振られたって解んねえよ、兄貴」
「でも、中から出て来た鎧みたいなのが、空中にドンドン飛び出して行ってるよ!」
ベリュトスの後ろに乗ったスプラが、上を指さした。
「鉄の鳥……のよですね、王子」
「ああ。だが油断するなよ、ティルス。得体が知れねェ」
並走する2つのサーフボードに乗った2人が、警戒をする。
ドームの中をに現れた無数の『鉄の鳥』は、銅のような褐色の金属の身体をしており、長い腕を大きく広げて優雅に宙を旋回していた。
「アレは恐らく、この遺跡の古代人たちが創った兵器でしょう。我々を敵と認識すれば、攻撃を仕掛けてくるに違いありません!」
海洋生物学者であるシドンの言葉は、直ぐに現実となってしまう。
「オワァッ! アイツら、マジで攻撃して来おったで!?」
無機質な鉄の鳥の頭部から、赤い光が一閃して、アラドスの乗る巨大渦巻きを両断した。
「この攻撃、オレの持ってる槍とソックリじゃ無いェか!」
「ベリュトス、ならばこっちも応戦する他あるまい!」
宮殿の武器庫で手に入れた、漁師兄弟の槍が閃光を放つ。
「おっしゃ、当たったぜ、兄貴!」
「だが、撃ち落とせたのは数匹だ。残りのヤツらが、攻撃して来るぞ!」
漁師兄弟が指摘した通り、白いドームを舞う鉄の鳥は一斉に攻撃体制に入った。
『我と、我が息子の闘いを、ジャマするで無いわァ!』
大魔王ダグ・ア・ウォンが、深紅の三叉の槍を天へと振りかざす。
紅の雷光が、轟音と共に無数の鉄の鳥を撃ち落とした。
「オ、オヤジ……!?」
サーフボードに乗ったバルガ王子が、父親と視線を合わす。
『興が削がれたわ。お前との決着は、いずれつけてくれよう』
大魔王の背中から、ヒレのような大きな蒼い翼が4枚出現した。
『その時までに、少しは我に抗(あらが)えるよう、鍛えておくのだな』
蒼い翼で宙に舞ったダグ・ア・ウォンは、そのままドームの天井を突き破り飛び去って行った。
「オヤジ、待ちやがれ!」
「王子、まだ鉄の鳥が残ってます!」
「チィ!?」
バルガ王子率いる海皇パーティーと、舞人やルーシェリアたちが、残った鉄の鳥を全て沈黙させるまで数時間の時を擁した。
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