魔剣が与えし力
「ボクだって、ベクとはあんまり戦いたくないよ。ベクって、アホだケド良いヤツだし」
「ア、アホは余計だ。だ、だがスプラ、オメーそいつらと居ると、殺されちまうぞ!」
穂先が3本の爪になった藍色の槍を持った少年が、スプラ・トゥリーを心配する。
「キミも、知ってるだろ。ボクはダーリンに、強引に操を奪われちゃったからね。もう、ダーリンのモノになるしか、道は残されていないんだ」
「そのダーリンってのを殺せば……全て解決ってコトだろ」
魔王ベク・ガルは、舞人が埋まっている瓦礫の山を見る。
「ハア、なに言ってんだい。そんなコトしたら、怒るよ!」
「仕方ない。お前が生き残れば、それでイイ」
ベク・ガルは、サメのヒレのような形状の翼を広げ、舞人の埋まっている瓦礫に向かって突進した。
「藍裂槍『クリ・シュナ』で引き裂いて、完全に息の根を止めてやる!!」
3本の爪が空間を切断し、瓦礫を吹き飛ばす。
「ダ、ダーリン!?」
かつての仲間のスピードに反応できなかった、スプラが叫んだ。
「ケケケ。ベクのヤツ、かなりパワーアップしてやがるぜ」
「マジ、ハンパないスピードっしょ」
「オデらも、アレくらいスピードアップしてるだか?」
「どうだかね。キミはスピード方じゃなく、パワー型だろ」
肩を竦める、サタナトス。
「つまり、それぞれの適正に合ったパワーアップをしてるってコトっスか?」
「アタシらも、試してみたくなったっしょ」
「構わねェえだか?」
「ああ、キミたちにはバルガ王子の部下たちと、しばらく遊んでいてくれ。ただし、ルーシェリア。彼女には用がある」
金髪の少年は、漆黒の髪の少女を見る。
「解りやしたぜ」
「じゃあ、他のコたちはアタシらの遊び相手てコトっしょ」
「それじゃあ、行くべ」
メディチ・ラーネウス、ペル・シア、ソーマ・リオの3体の魔王は、ルーシェリアの脇を一瞬で飛びぬけ、背後のスプラやシドンたちに襲いかかった。
「ボクだって、キミたちと同じ7海将軍(シーホース)だったってコト、忘れないでよ!」
緑触槍『アス・ワン』の触手の傘を、大きく展開するスプラ。
「スプラ、アンタぜんっぜん解かってないっしょ。今のアタシは、お前なんか瞬殺っしょ!」
「きゃあああぁぁぁーーーーッ!」
破黄槍バス・ラスから放たれた、無数の黄色い棘に貫かれる、スプラ・トゥリー。
「アンタ、前から気に入らなかったっしょ。男相手に、ぶってんじゃねェッしょ」
「ガハッ!」
倒れたスプラを、足蹴にするペル・シア。
「そんじゃ、オレの相手は優男……テメーだ!」
蒼き海龍の蒼流槍ジブラ・ティアが、シドンの腹をえぐり取る。
「グアアッ、この攻撃は!?」
血が滴るわき腹を押える、シドン。
「オレの槍はなぁ。どんな獲物だろうが、えぐり取るぜ。ゲヒャヒャ!」
細かい歯が無数に生えた槍は、えぐり取った肉を喰い散らかしていた。
「大丈夫か、シドン!?」
「オメー、人の心配より自分の心配した方がイイんだな」
ベリュトスの背後に、巨大な影が立っている。
「オデの橙引槍『カニヤクマリ』は、なんでも圧し潰すんだな」
「な……グアアァァ!!?」
ベリュトスは槍を受けるが、受けた槍はあまりに重かった。
「巨大なバラクーダさえ釣り上げる、オレが支えきれない……だとォ!?」
片膝を付き、やがて全身を地面に打ち付ける漁師兄弟の弟。
「フフフ、彼らも気に入ったみたいだね。プート・サタナティスが与えた力を」
配下の激しい戦闘も、まるで涼風のごとく気に留める素振りも無く歩く、サタナトス。
「ヤレヤレじゃのォ。お主の剣は、ご主人様のジェネティキャリパーと共鳴して、力を失っておるのでは無かったのかェ?」
そのヘイゼルの瞳に映り込んだ、少女が言った。
「キミの主人の剣と、同じ理由だよ。主たる能力は失っているが……」
背後に視線を流す、サタナトス。
そこには、ベク・ガルが立っていた。
「……なッ……お前、生きてやがったのか!?」
背後を振り返る、ベク・ガル。
彼自身が巻き上げた、瓦礫の土埃の向こうに、人影が浮かび上がった。
「なるホドのォ。剣の、もう一つの能力じゃな」
ルーシェリアの紅い瞳が、サタナトスに向けられる。
「キミの主人の剣が、自身の肉体を強化するように、ボクの剣も魔族や魔物を強化できるのさ」
金髪の少年は、アメジスト色の剣を高らかに掲げた。
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