恋の不動産(リア・エステイト)!!
「うお、今度は上からモニターが!」
全天候型ライブ会場の天井は、開閉式ドームの内側に半球体のクリアパネルと二重構造だった。
その中央部から、巨大でメカニカルなモニターがゆっくりと降りて来る。
1曲目が終わり、4人の少女たちは、タイプライターを叩いていたアンティークなデスクの、後ろのドアの中へと消えた。
インターバルを挟むのかと思いきや、降りて来たモニターの4方の4面パネルが、ボクの生徒たちの顔をアップで映し出す。
「ライアァァーーーーッ!」
「メリーたぁぁあーーーん!」
「テミルっちィ、こっち見てェ!」
「エリアぁぁーー、うおおお!」
「こ、これが……アイドルの応援ってヤツか」
同時に、2曲目のイントロ部分が流れ出し、会場が再び揺れ始めた。
「ボクの生徒達が、大の大人をここまで熱狂させてしまうとは……な」
アイドルライブ初心者のボクはそう感じたが、実際にはまだ初ライブだけあって、アイドルを応援をする人々もそこまで統制が取れているワケではないのだ。
「まずは、あたしが行くっスよぉーーー!」
元気な声が会場に響き、4面あったモニターの全てが、テミルの顔に切り替わる。
天井を覆うクリアパネルが、紫色の摩天楼を映し出すと、ブカブカのトレンチコートを着たテミルがステージに現れた。
「みなさ~ん、今日はアタシたちの初ライブに来てくれて、ホントありがとっス!」
「テミルっちーーーー、カワイイ!」
「やっぱ本物、パねェ!」
「アタシたちプレジデントカルテットは、前座なんて思ってやしないスか?」
ステージの上でも、物怖じしないテミル。
「1番槍っスよ、1番槍の功名は、アタシらのモノっス!」
テミルの下のステージが、アスファルト道路に変化する。
「それじゃ行くっスよ、『恋の不動産(リア・エステイト)』!!」
イントロだけを繰り返していた曲が、進行した。
慌てて駆け出す、テミル。
「だ、大丈夫か、テミル……って、そう言う演出か?」
思わず、ステージ演出に引き込まれそうになるボク。
ポップでコケティッシュな曲を歌いながら、アスファルト道路を駆けるテミル。
当然、ルームランナーのようにその場で走っているだけなのだが、演出的に街の中を駆けているように錯覚する。
テミルが歌と共に建物のドアをノックすると、プレジデントカルテットの他のメンバーがドアを開け、歌で応対した。
そんなやり取りが、3回繰り替えされる。
「不動産の家賃を、集金して周ってるのか。現実のアイツも、まあ似たようなモノだしな」
それを曲として成立させてしまっている、レアラとピオラの性能の高さにも、驚きを隠せない。
テミルが更に街を駆け、4つ目のドアをノックする。
けれどもプレジデントカルテットは、彼女の他には3人しかおらず、ドアからは誰も出て来ない。
「ン……これはどういった演出なんだ?」
疑問を浮かべるボクだったが、周りは納得している様子だ。
ステージでは、一瞬だけ曲が止まり、テミルはハッとした顔をしている。
会場は、大いに盛り上がり、曲は終了した。
「テミルのヤツ、これだけの観客を前に大したモノだな。一部、解らない演出もあったケド」
「なんで、解らないのよ!」
顔の下辺りから、いきなり大きな声がする。
「うお、ユ、ユミアか。脅かすなよ」
下を見ると、栗毛の少女がボクをジト目で見ていた。
「まったく先生ってのは、これだから……」
「な、なにか言ったか?」
「別にィ」
最初の台詞ホドの音量(ボリューム)が無かったため、ユミアのその後の言葉はよく聞き取れない。
そうこうしているウチに、次のアイドルがステージ中央に立っていた。
教会の鐘(ベル)が鳴り響き、天井のクリアパネルが、ルネッサンス期の教会の天井絵に切り替わる。
天井の4面パネルも、全て白いローブを着た少女の姿に切り替わった。
「今度は、エリアか……」
ボクの目は、ステージの神秘的な少女に釘付けとなった。
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