ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第08章・第62話

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公開手術

「きっと、大丈夫だ。アイツらを、信じよう……」
 栗毛の生徒の肩にそっと手を回したボクは、その小ささに驚いた。

 幼いころに両親を失い、近年には最愛の兄までもを病気で失ってしまったユミア。

 政治家の息子が引き起こした交通事故で、両親を失ったカトルとルクス。
2人の気持ちを、親身になってに感じられるのは彼女だろう。

「止めろ、カトルを放せェッ!」
 姉の弱った心臓を心配し、必死に叫ぶルクス。
焦燥感が溢れる顔には汗が滲み、青い澄んだ瞳からは涙がこぼれ落ちている。

「あの鎖、引き千切れないかな。先生、アタシ行って試してみてイイ?」
 ルクスの身体を縛る鎖を、パワーで引き剥がそうとするライオンたてがみ少女。

「レノン……お前だったら本当に出来そうな気もするが、もうすぐ曲も終わる」
 ボクは自分にも、そう言い聞かせていたのかも知れない。

「死んじゃう。このままじゃ、ホントにカトルが死んじゃうよォ!!」
 ルクスの伸ばした手の先には、十字架のカタチをした魔物に捕らわれた姉の姿があった。
星色の髪をした双子の姉は、真っ青な顔で魔物の胴体にくくりつけたまま、会場の宙に浮かんでいる。

「でも先生。カトルちゃん、ホントに手術されてるみたいに見えるですゥ!」
 普段は大人しいアリスまで、大きな声を上げた。

「手術か……カトル……」
 ドームの天井にぶら下がった巨大な4面パネルに映る、魔物の手術台にくくり付けられたカトル。

 のこぎりやドリルを先端に付けた節手が、彼女の胸の辺りを切り開いている。
けれども会場の殆(ほとん)どの人の視線は、宙を飛び回るレアラとピオラに集中していた。

「最初はなんだかアイドルっぽくない演出だと思ったケド、これはこれでアリだな」
「ああ、曲の雰囲気にマッチしてる」
「ダークアイドルってのも、悪くない……イヤ、むしろサイコー!」

 観客席から湧き上がる、熱狂と声援。
それがマックスに達したとき、レアラとピオラは『デビルズ・サージュリ』を歌い終える。

 同時に、横になった十字架の魔物の上部から、激しい血飛沫が吹き上がった。
次の瞬間、魔物が轟音と共に爆散する。

「イヤアアァァア、カトルゥッ―――――!!?」
 美しき双子天使の妹の、悲痛な叫び声がドームの壁に反響し木霊した。

「せ、先生、カ、カトルちゃんが!?」
「こ、これも演出なんだよね。ねえ、先生!?」

 魔物と共に四散し、姿を消したカトル。
ボクはもう、自分でも何が正しいのか解らなくなっていた。

『生贄(サクリファイス)は、捧げられた』
『闇の手術によって流れ出た血が、冥府への扉を開く!』
 天井一面を覆う透明パネルが、赤をベースとした黒い渦巻き模様に変化する。

『さあ、聖なる天使の血によって、闇の魔王が降臨するのだ』
『これより先、この世界は魔族が支配する!』

 ドームの天井から、赤い大きな雫がポタポタと落ちて来た。

「こ、今度は、一体なにが起きるんだ!?」
「知るかよ。ここまで凝った演出は、見たコトねェぜ」
「こんなにスリリングなアイドルステージって、マジすげえわ」

 遠くを見ると、会場中に血の雨が降り注いでいる。

「これは液体にも見えるが、ナノ・マシーンの集合体のようだね」
 久慈樹社長が言った。

 ボクも雫を手に集めてみると、集まった赤い液体は体を濡らすコトも無ければ、服に染み込むコトもなく、床へと流れ去る。

「まるで、カトルの血みたいだわ、先生」
 ボクの傍らで、ユミアが目を見開きながら怯えている。

「そんなハズはないさ。カトルは多分、どこかで休んでいるんだ」
「どうしてそんなコトが、言えるの。もし、カトルの身になにかあったら……」

「もしカトルの身になにかあったら、警察や救急隊が動いている。そうですよね?」
 タリアのドローン襲撃事件の後だけあって、ステージ脇にはまだ警察官や救急隊員の姿もあった。

「残念ながら、確証は持てないよ。今回のライブのステージ演出は、全てレアラとピオラに任せっきりと言っただろう。ボクやスタッフでさえ、完全には状況を把握できていないんだ」

 久慈樹社長の言い訳の間にも、紅い雨は降り続き、巨大なすり鉢状のライブ会場を流れ降る。
赤い雫はやがて、赤い濁流となって底辺の中央ステージに集まり、巨大な怪物の姿で実体化した。

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