ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP034

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フェイク・ラヴァ―ズ

「な、なに驚いてるのよ。一応わたし達、恋人同士じゃない!」
 紫色のジャージに、剣道の面を被った女のコは言った。

 それ、相手のベンチにいる先パイたちがボクたちを恋人だって勘違いして、沙鳴ちゃんが乗っかって主張し始めただけだよね!?

「恋人なんだから、彼氏をダーリンって呼ぶのはとうぜんのコトよ」

 えええッ、そうなのかなぁ?
今どき、ダーリンなんて呼ばない気がするケド……。

「ねえ、そこのメタボ親父!」
 剣道面の少女は、セルディオス監督に向かって言った。

「ン……どうしたね? ヘンなカッコウした娘」
 監督は、豊満な腹のお肉を弾ませながら答える。

「これはワケ有りなの。わたしだって好きで、こんなカッコウしてんじゃないわ。それよりわたし、お兄ちゃんに聞いて知ってんだから。10番って、サッカーじゃエース番号なんでしょ。10番のダーリンがベンチじゃ、逆転どころか同点にするのだって絶対ムリよ!」

「あ……」
 杜都さんの、ミドルレンジからの豪快なシュートが決まった。
相手キーパーがケガしてる右手の側に、いつものヤツを撃ち込んだんだ。

「よく喋る娘ね。カズマは昨日、練習に遅刻したんだよ。しかも、終わった頃にひょっこり現れたね」
「え、それって……」
 剣道の面の中の瞳が、ボクを見る。

 グランドでは4-3と、デッドエンド・ボーイズが1点差まで追い上げていた。

「ダーリンが遅刻したのは、わたしのせいなの。足をケガしちゃったわたしを、家まで……その……抱っこして連れて行ってくれたんだからァ!」
「どうせ、口から出まかせね。その手には乗らないよ」

「もう、このメタボ親父。これが証拠よ!」
 沙鳴ちゃんは、右脚の白いスニーカーを脱ぎ捨てる。
すると、テーピングで固定された足先が現れた。

「これは……ホントなの、カズマ?」
 監督の問いに、ボクはコクリと頷く。

「だったらどうして昨日、言わなかった? ちゃんとした理由があるなら……」
「言えない、理由があったのよ。ダーリンはわたしのコトを、考えてくれたんだわ」

 確かに、それもある。
あるケド……無かったとしてもボク、人と話すの苦手で言えてないから。

「どう、これで解ったでしょ。ダーリンが出なきゃこの試合、逆転なんて絶対に出来ないわ!」

「あ……」
 今度は、紅華さんのカーブのかかったコーナーキックを、野洲田さんが頭1つ抜け出すジャンプをし、ヘディングで決めていた。

「これで同点だな。紅華のコーナーも、巻いてくるボールをピンポイントで野洲田の頭に合わせて来た。相手キーパーは元々小柄だし、ケガをしている。流石にアレは、止められんだろう」
 車椅子の倉崎さんが、得点シーンを解説する。

「野洲田もセンターバックのポジションで、2試合連続ゴールね。彼は、リベロの才能あるよ、倉崎」
「ですね。得点には結びつきませんでしたが、この試合も何度か最終ラインからボールを持ち出し、ミドルシュートを狙っている。貴重な戦力です」

「だああ、もう。どうしてみんな、空気読まないのよ!」
 沙鳴ちゃんが、吼えた。
「同点になったんじゃ、ダーリンの出番なんて絶対に無いじゃない!」

 ……そうだよね。
デッドエンド・ボーイズには、才能の塊みたいな選手がたくさん居る。

 ボクの替わりにトップ下をやってる柴芭さんも、ボクより高度な技術を持ってる。
テクニックの紅華さん、スピードの黒浪さん、ボディバランスの金刺さんと、3人のドリブラーもみんな、優れた個性があるモンな。

 冷静な雪峰キャプテンと、屈強な杜都さんのボランチコンビも、形になりつつある。
龍丸さん、野洲田さん、亜紗梨さんのセンターバックも、全員リベロの才能あるし。

 それに比べて、ボクの個性ってなんだろう?
ボクは本当に、このチームで10番を付けてもいいのかな……。

「一馬、出番だぞ」

 え?
倉崎さんの声が、ボクを妄想から現実に引き戻す。

 グランドを見ると、野洲田さんが顔から血を流し倒れていた。

「相手のゴール前で競り合ったとき、棚香の頭が顔面に入ったんだ。完全な故意では無いにしろ、悪意のあるプレイには違いない」

「杜都をセンターバックに下げて、柴芭も1列下げるね。カズマは、トップ下入るよ」
 セルディオス監督が、ボクに指示を出す。

「まったく、どこまで卑怯なのかしら。ダーリン、懲らしめて来て!」
 ボクは沙鳴ちゃんに見送られ、ピッチに向かって駆け出した。

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