監督の予言
後半開始から、20分が経過していた。
両チームは、中盤で激しいボールの奪い合いを続けていたが、遂に均衡が崩れる。
「おっし、やっと決めたぜ。これで逆点だ!」
新壬さんが、ガッツポーズでアピールする。
右に開き気味でドリブルする九龍さんが出したスルーパスを、ペナルティエリア左の、ライン際ギリギリで触ってゴールを決めたんだ。
「汰依(たい)、蘇禰(そね)、那胡(なこ)、交代準備するね」
セルディオス監督が、ベンチの控えメンバーに指示を出す。
「紅華と黒浪が限界よ。雪峰もキビシイね」
第四の審判が交代を示すカードを掲げ、紅華さん、黒浪さん、雪峰さんに替わって、3人の選手がピッチに投入される。
「か、監督……ハア、ハア、なんで替えたんだよ!」
「そ、そうだ……オレさま、まだ……や、やれたぜ」
「オレは……ハア、ハア、キャプテンです。どうして……」
「キャプテンだからってピッチに立ち続けられる程、サッカーは甘くないね。それだけ汗かいて疲弊してりゃ、どんな間抜けな監督でも交代させるよ」
メタボ監督の言った通り、3人の髪の毛からは汗が滝の様に流れ落ちていた。
「よし、オレも決めたぞ」
握った右手を高らかに挙げる、オーバーレイ狩里矢の九龍キャプテン。
新壬さんと野洲田さんが競り合ったこぼれ球に、走り込んでミドルシュートを決めていた。
「……っきしょう、2点差じゃねえか!」
給水ボトルを蹴り飛ばす、紅華さん。
スコアボードに、4-6の数字が刻まれる。
「これが、本来の実力の差ね。これから、点差はもっと開くよ」
セルディオス監督の言葉は、残酷な現実となり始めていた。
「やったあ。見たか、獅牙丸!」
7点目のゴールを決めた旗さんが、ベンチ際でナゼか犬と戯れている。
「今のは、完全に崩されたね。圧倒的な運動量で、ボランチの位置からパスやドリブルを使ってボールを運ばれ、最後は新壬からのパスを、ゴール左隅のコースに流し込まれたよ」
容赦なく事実を伝える監督に、何も言えないベンチに下がった3人。
「この試合、狩里矢に10点は取られるよ。本気になったプロチームがどれくらいの力を持ってるか、目に焼き付けて置くね」
セルディオス監督は、更なる不吉な予言をした。
「桃色サンゴも、黒犬もおらん様になった今、ワイが何とかせんとアカンな」
金刺さんがキックオフと同時に、ドリブルで敵陣へと切れ込む。
「キミ、運動量がスゴイね。ま、ボク程じゃ無いケドね」
けれども、直ぐに旗さんにマークされ、その先には湯楽さんの長い脚が待ち構えていた。
「アカン、キープすんのがやっとや」
ペナルティエリアの前で、2人のボランチに圧迫される金刺さん。
「……み、右ィ!」
「オ、オウ!?」
言われるままに、ボールを出してくれた金刺さん。
何とか、意思が伝わった。
よし、いいぞ!
ボクは、右斜め後方にボールを出す。
「ナイスパスです、御剣くん!」
そこには、占い魔術師が走り込んでいた。
「あ、柴芭だ!」
「柴芭が、走り込んでやがる!」
「頼む、決めてくれ……」
黒浪さん、紅華さん、雪峰さんは、祈るように柴芭さんのプレイを見守った。
「ここしか、無い!」
魔術師の狙いすましたシュートが、ゴール右に決まる。
「こうも一方的にやられるのは、ボクの性に合いませんね……」
雪峰さんから受け取ったキャプテンマークに、キスをする柴芭さん。
「……柴芭、ナイスシュートだ」
「ケッ、相変わらずキザな野郎だが、良く決めてくれたぜ」
デッドエンド・ボーイズは、5-7と2点差に迫った。
「喜ぶのは早いね、雪峰、紅華。柴芭もそろそろ、限界が近いよ」
ボランチの位置で狩里矢の猛攻を防いでいた、柴芭さん。
その体力は、尽きかけていた。
前へ | 目次 | 次へ |