セミラミス・カルデシア・アタルタギス
「ちょっと、ま……うわああッ!?」
ボクは妖艶な美女の手で、滝ツボの中へと引きずり込まれる。
ブクブクと息が漏れ、遥か上から落下してきた瀧の水圧が、ボクを下へと押しやった。
溺れる恐怖に駆られるボクだったが、セミラミスさんの手がボクを上へと導く。
「プハアァッ!!」
何とか水面に顔を出したボクは、大きく息をした。
「ウフフ、大丈夫だったかしら?」
「え……ええ、何とか」
全然大丈夫じゃないと思いつつも、美女の魅力には抗えない。
「ここは……瀧の裏側ですか?」
冷静になって後ろを振り返ると、水のカーテンが轟音を立てて流れ落ちていた。
「ええ、そうよ。瀧ツボの底を、舐めるように泳いで来たの。ホラ、アレを見て」
「あ、瀧の裏に洞窟がある!」
瀧の裏側の岩壁には、洞窟の入り口がポッカリと開いている。
「この洞窟の先が、会議の場所よ。付いて来て」
セミラミスさんは、水から小さな岩場へと上がった。
いきなり目の前に、白い水着の大きなお尻が現れ、ボクは慌てて目を逸らす。
「宇宙斗艦長は、義妹とはどこで知り合ったの?」
「え、フォボスです。フォボスの採掘プラントで事故があって、クーリアさんたちが避難小屋に閉じ込められてしまって……」
「もしかして、あのコの命の恩人なのかしら?」
「そ、そんな大袈裟なモノじゃ無いですよ。何とか助けられましたが、運が良かったんだと思います」
すると、セミラミスさんは立ち止まった。
「ウフフ、そう。これは、面白そうな情報を手に入れたわ」
そこは洞窟の突き当りであり、エレベーターの入り口らしきドアもあった。
「セミラミスさんとクーリアさんは、どんな間柄なんですか?」
「義妹は、カルデシア財団の正当なる後継者、ピュア・ブラッドよ……」
紫色の髪の女性は、背を向けたままエレベーターに乗り込む。
「純血(ピュア・ブラッド)……人工子宮の存在するこの時代だと確か、人の母からちゃんと生まれた人間のコトでしたっけ?」
ボクは余りにも不躾に、考えなしに聞いてしまった。
「ええ、そうよ。カルデシア財団は、正当なる血を引く者を後継者に選ぶのよ」
ボクたちの乗ったエレベーターは、上昇を始める。
「わたくしは所詮、あのコの予備(バックアップ)に過ぎませんわ」
背中越しに覗く横顔は、寂しそうに項垂れていた。
「わたくしともう一人の妹は、人工子宮から生まれました。身体能力、知性、美貌、あらゆる優れた遺伝情報をもって生み出されましたが、カルデシア財団という組織を維持する為の部品に過ぎないのですよ」
「どう生まれたかって……重要なんですかね?」
「重要だと思っている者も、大勢居るってコトよ。さあ、付いたわ」
話題を断ち切るように、歩き出すセミラミスさん。
「ここはまるで、ペンションみたいですね……と言うか、リゾード船なんだからペンションなのか」
エレベーターから降りた先は、丸太で組まれたロッジ風の建物だった。
小屋と呼ぶには相応しく無い広さで、中にはシックな木製の家具やアンティークなデザインの調度品が並んでいる。
「あ、階段がある……ってコトは、2階建て以上なのか。かなりの人が、泊まれそうですね」
リゾート感を出しつつも気品が漂う廊下を歩くと、マホガニーの両開きのドアが現れた。
「さあ、こちらですわ。既に皆さん、お待ちです」
セミラミスによって、ドアが開かれる。
部屋には、アカシアの長テーブルが置かれ、両脇に背の高いラタンで編んだ椅子が並んでいた。
「宇宙斗艦長、お待ちしておりました」
椅子に座っていた1人の少女が、立ち上がり歩み寄って来る。
真珠色の髪に、ピンク色の縦ロールを頭の4方に垂らした少女は、ピンクと紫色のビキニを着ていた。
「セミラミス義姉さまも、ご一緒だったのですね」
「アラ。わたくしが一緒だと、何か問題でもあるのかしら、クーリア?」
急に女ギツネの様な顔になって、微笑むセミラミス。
「そ、そう言うワケでは、ございません。この会場のホストである義姉さまが、来賓も出迎えずどちらに……ひゃああ!?」
突然、悲鳴を上げるクーヴァルヴァリア。
見るとクーリアが、背後から義姉に抱きつかれ、トップスの水着に両手を入れられ胸を揉まれていた。
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