ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP024

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曖経の四凶

 春も終わりに近づいた天気の元、デッドエンド・ボーイズはランニングを開始し、曖経大名興高校サッカー部もシュート練習に移行していた。

「一馬。相手コートで今、シュートを撃とうとしているヤツを見るんだ」
 車椅子の倉崎さんに言われて、ボクは右側のコートに目を移す。

「ヤツが『曖経の四凶』の1人、仲邨 叛蒔朗(なかむら はんじろう)」
 シュート体制に入った猫背の男は、全身のバネを使ってボールにパワーを伝えた。
一際ハデに、ゴールネットが揺れる。

「アイツもやはり、中々の曲者でな。乗った時のヤツは、岡田以上に厄介な相手かも知れん」
 仲邨さんは、日に焼けた肌にパーマのかかった黒髪で、手足が細くワイルドな印象を受けた。

 ランニングを終えたデッドエンド・ボーイズが、1つだけのボールでシュート練習に入る。
対するウチの学校のサッカー部は、小柄ながら蛍光色のハデなユニホームに身を包んだ、ゴールキーパーがスーパーセーブを連発していた。

「ヤツも『曖経の四凶』の1人、川神 治晃(かわかみ はるあき)だな。見ての通りの、とんでも無い反射神経だ。ジャンプ力もあってハイボールにも強いが、ヒザを上げて相手にケガをさせるのが……なんともな」

 川神さんは、ギラギラしたオレンジ色の髪に、真っ白な肌をしてる。
ボクの母校の中では美形だが、頬に傷があった。

「よし、3対10のボール回しを始めるぞ」
 雪峰さんの指示で、10人が回すボールを、3人が奪い取る練習が開始される。

「『曖経の四凶』最後の1人は、ベンチで控えの1年や2年を指導してる、棚香 心平(たなか しんぺい)だな。ヤツは左のサイドバックで、激しいスライディングタックルを仕掛けて来る。まあ、それ以外にもあるんだが、試合になれば解かるだろう」

 棚香さんは、筋肉質の屈強な身体をしていて、頭はキノコみたいな短いアフロヘアだ。
穏やかな表情で、丁寧にジャージ姿の後輩たちを指導している。
なんだろ、人のイイ先パイに見えるケド?

「オイ、千葉。ちょっとこっち来い!」
 いきなり、棚香さんの表情が歪んだ。

「テメー、さっきの言い草はなんだ。1年でレギュラー貼ってるからって、イイ気になってんじゃねェぞ。斎藤、桃井、テメーらも試合までスクワット続けてろ!」
 千葉委員長ら、ユニホームを着た3人が呼ばれ、スクワットをさせられる。

「棚香は、実力の無いヤツに対しては温厚で人格者ぶっているんだが、目下の実力者にはやたらと厳しくてな。狭量と言うか、器が小さいと言うか」

 うわあ、ボクも入部が適ってたら、あの人の下でサッカーやるコトになってたんだ。
倉崎さんに遭って、メチャクチャラッキーだったかも!

「ね、ねえ、チョット……」
 耳元で、小さな声がした。

「うわッ……沙鳴ちゃ……」
「シーツ!」
 振り返ると、剣道の面を付けたジャージ姿の少女が立っている。

「やっと千鳥先パイの、カメラ運びから解放されたわ。今ならアイツ、ベンチで1人だし、後ろから襲えばなんとかなるんじゃないかしら。アンタ、アイツの注意を前に引き付けて置いて」

「ま、待って……」
 そんな無茶な……と言うか、沙鳴ちゃんのずさんな作戦って、絶対に成功しないよね!?
例えしたとして、竹刀で殴りつけたら最悪、退学させられちゃうよ。

「もう、なによ。今が絶好のチャンスなんだから!」
「で、でも……」

「どうやら相手の練習が、終わったみたいだぞ」
 倉崎さんが言った通り、曖経大名興高校サッカー部は練習を終え、自分たちの更衣室に向けてゾロゾロと歩いていた。

「ホラ、練習終わっちゃったじゃない。せっかくチャンスだったのにィ!」
「あ、後ハイちゃん、こんなトコに居た」

「ち、千鳥先パイ!?」
 剣道のお面を被った女の子は、後ろから千鳥先パイに抱きつかれて驚く。

「もう直ぐ試合だし、トイレに行って来るから、カメラ見ててくれるかな?」
「え、えっと……トイレって確か、更衣室の近くですよね。アタシも行きます!」

「そっか。後ハイちゃんも、トイレ行きたかったんだね。じゃあ一緒に行こ」
「そ、そう言うワケじゃ無いんですが……まあイイです。お供します」

「あ、わたし達も付き合うよ」
「トミンの応援の最中に、行きたくなっても困るしね」
 紅華さんの取り巻きの、7人の女子高生が言った。

「あと、マイクロバスの鍵ってまだ持ってる?」
「持ってやら、貸してくれない?」
 あ、そう言えば還すの忘れてた。

「実は、トミンを驚かせようと思って」
「こっそりチアリーディングの衣装、持って来てたんだよね」
「バスの中で、パッパと着替えるからさ」

 ボクはポケットから鍵を取り出し、女子高生の1人に渡す。
少女たちは連れだって、マイクロバスの方へと歩いて行った。

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