悪夢の5分間
赤と黒のフラッグが揺れる、真新しいスタジアム。
併設するサーキットでは、アスファルトのコースを、レーシングカーが駆け巡っていた。
「後半、なんとしても巻き返すぞ! 気合入れて、行け!」
「おう!!」
雪峰さんの声に、円陣を組んで気合を入れる、デッドエンド・ボーイズのイレブン。
『選手交代の、お知らせです。丸玖 庵斗(まるく アント)選手に替えて、託彗 昴流(たくす スバル)選手。阿笑 礼秘(あえみ レピス)選手に替えて、ヨシュア・エルロー選手が入ります!』
MIEのホームスタジアムお抱えのDJが、選手交代を陽気に告げた。
「ケッ、いきなり選手交代かよ」
「勝ってるからっちゅうて、ホンマ余裕やわ」
「オレさまたちで、目にモノ見せてくれようぜ、なあ!」
MIEの選手交代に反発する、紅華さん、金刺さん、黒浪さん。
他のメンバーたちも、それぞれ気合を入れていた。
2点のビハインドを、ボクたちは追いつく気でいたんだ。
後半開始の、その時までは……。
「ナイスアシストだ、ヨシュア!」
後半が開始されて5分、MIEのエースストライカーであるバルガさんが、ハットトリックを決めた。
「いえいえ、大したコトではありませんよ」
後半から入った、ヨシュア・エルローが謙遜して答える。
スコアボードに、7-1の数字が刻まれていた。
「クッソ! なんだってんだ、アイツ!」
「完全に、ゲームを支配されとるわ」
「こんなの、どうやったって負けじゃん!」
たった5分で精神を折られた、デッドエンド・ボーイズの誇る3人のドリブラーたち。
「ケッ、あんなん決めて当然だぜ!」
同じく後半から入った、託彗 昴流が言った。
MIEの4点目は、彼が決めている。
後半早々に自ら奪ったボールを、そのまま持ち上がって自ら決めたのだ。
「確かにな、スバル。まあオレにして見れば、得点に繋がるパスを寄こしてくれるヤツは、優遇してやっぜ。ヨシュア、後でメシおごってやるよ」
「わたしは、自分の仕事をしたまでです。礼には、及びませんよ」
金髪の天使が、ニコリとほほ笑む。
「まあ、そう言うなって。この辺りは、有名な牛の産地だって話だ。お前にも、食わせてやりてェんだ」
「なるホド。わたしは、日本での知識は浅いですからね。お言葉に、甘えましょう」
バルガさんの申し出に、ヨシュアさんが応じた。
「ヤレヤレ、メシなんかに吊られやがって。ホレ、ボール」
ゴールネットに刺さったボールを、返してくれるスバルさん。
後半に入って取られた4点の内、2点はスバルさんのボール奪取が起点となっていた。
5点目は、黒浪さんからボールを奪ったスバルさんの上げたクロスを、ペナルティエリアに入って来たヨシュアさんが、華麗なボレーで叩き込んでいる。
6点目は、ヨシュアさんからペナルティエリアに走り込んだトラヤさんに出て、トラヤさんの撃ったシュートのこぼれ球を、バルガさんに押し込まれてしまった。
「こ、後半が始まって、まだ5分でありますか……」
「5分で4点……これは、いくらなんでも……」
「6点のビハインド。これを、どう建て直すか……」
中盤のトリプルボランチとして試合に出た、杜都さん、柴芭さん、雪峰さんも、後半に入ってたった5分で4点を与えてしまったコトに、流石に落ち込んでいる。
ボクも、どうしてイイか答えが解らなかった。
7点目も、気の抜けたボクたちの隙を突いて、スバルさんにボールを奪われる。
スバルさんが、ヨシュアさんにボールを渡すと、華麗なドリブルがMIEのサポーターを魅了した。
雪峰さんと柴芭さんがプレスに行くも、見計らったようにスルーパスを出され、それをバックラインの裏で受けたバルガさんの豪快なシュートが炸裂する。
紅華さんが、ゆっくりとボールをセットした。
負けているチームには思えないくらいに、ゆっくりと……。
「ヤレヤレだぜ、あと40分……どうするよ?」
紅華さんが、ポツリと言った。
ボクはそれに、応えるコトは出来なかった。
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