冷凍睡眠者とコピー
火星圏への帰路にて、マーズの別動艦隊の追撃を受けるボクたち。
宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアの防衛のため、ゼーレシオンは敵のサブスタンサーと交戦していた。
「やるね、アンタ。見ないサブスタンサーだケド、オリジナルかい?」
ペルセ・フィネーは、両脇に内臓されたガトリングレーザーで攻撃をしかけて来る。
「時の魔女の、オリジナルさ」
レーザーは全て、ゼーレシオンの巨大な盾に弾かれた。
けれどもペルセ・フィネーは、急接近して来て盾に蹴りを入れる。
「面白い冗談だね。時の魔女なんて、伝説の存在だろうよ?」
「貴女は、そう教えられているのか。だけどマーズも、時の魔女によって完全復活したんだぞ」
ボクは、ゼーレシオンの体勢を建て直しながら反論した。
「なんだって!?」
ペルセ・フィネーは、膝に装備されたレーザー砲を放ち、間合いを開ける。
「マーズは、ディー・コンセンテスや火星を支配し、太陽系すら統べようとしている。その影に暗躍するのが、時の魔女なんだ」
「まあアタシは、目覚めて間もないからね。大概の記憶はオリジナルから引き継いでるとは言え、コリー・アンダーソンの若い頃の記憶しか無いんだよ」
漆黒の宇宙空間で激しく火花を散らしす、ゼーレシオンとペルセ・フィネー。
いつの間にか宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアから、かなりの距離が離れてしまっていた。
「コリー・アンダーソン中佐。貴女はどうして、マーズの下で戦っている?」
「それはマーズが、アタシとバルザック・アイン大佐を、永い眠りから呼び覚ましてくれたからだよ」
「政治的な思惑や、軍事的な意味は無いってコトか?」
「だったら、どうしたってんだい。所詮、アタシはオリジナルじゃ無いんだ。自分に人生を与えてくれたヤツのために戦って、なにが悪い!」
ペルセ・フィネーは、苛立ったようにガトリングレーザーとレーザー砲を同時に斉射する。
「まるで戦う意義を持たないコトに、今気づいたみたいだな。この時代には、自分や家族のコピーを作る人が大勢いるらしいが、オリジナルはやはり不安定なモノなのか……」
そう感じながらボクは、敵の攻撃を受け流した。
「イラ付くだよ、アンタ。アタシは、ただ暴れたいだけさ!」
再びペルセ・フィネーが接近し、2機は近接戦闘に移行する。
「せっかく目覚めたんだから、もっと上手い生き方があるだろうに」
「説教かい。アンタ、なに様だよ」
「冷凍睡眠者(コールド・スリーパー)さ」
ボクは、言った。
「コールド・スリーパーだって。アンタ、どれくらいの間、眠りこけてたんだい?」
「1000年さ……」
「え!? 今、なんて言った?」
「ボクは、群雲 宇宙斗。1000年前に、ボクは眠りに就いたんだ」
フラガラッハが、ペルセ・フィネーの右腕を斬り飛ばす。
「アンタが、群雲 宇宙斗だったとはね。マーズから、要注意人物と聞いてるよ」
膝のレーザー砲を放ち、隙を作るペルセ・フィネー。
ゼーレシオンの肩を蹴って、再び距離を開ける。
「コリー・アンダーソン中佐。もう1度、自分が戦う理由を考えて見ろ」
「1000歳のジイさんだからって、偉そうに!」
片腕を失ったペルセ・フィネーは、マントをコウモリの羽根のように広げると、そのまま彼方へと飛び去ってしまった。
「確かにボクは、ずいぶんと偉そうなコトを言ったな……」
戦いが終わり、宇宙を漂うゼーレシオン。
『宇宙斗艦長、ご無事ですか?』
その触角が、気高き少女の声を捉える。
「クーリアか。ああ。今、戦いを終えたところさ」
「有難うございます、艦長。こちらも誰も失わず、なんとか敵を退けられました」
「そうか。それは、良かった……」
ボクは、少しだけコリー・アンダーソン中佐の飛び去った方向を見つめた後、宇宙戦闘空母クーヴァルヴァリアに帰還した。
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