少女探偵の焦燥
「吾輩は、警部に館の現場を任せて、1人で竹崎弁護士の事務所を訪れていた。主を失った建物だったが、事務所の看板はそのまま架け変えられずにいた」
舞台で、状況説明をするマドル。
もう何度目かの光景であり、事件がクライマックスに近づいているコトを、観客たちは気付いていた。
「こないだココに来たお嬢さん、亡くなったんだってな」
若い男性の声が、いきなり質問する。
「はい、鬼頭弁護士。吾輩が、力及ばないばかりに、見す見すハリカさんを死なせてしまいました……」
マドルはまだ、ハリカの死を克服できていない様子を演じていた。
「あの元気で好奇心旺盛な、嬢ちゃんがなあ……オッと、すまねえ」
「いえ、全ては吾輩の短慮が招いたコト。それより今日は、折り入って話があって参りました」
「オウ、なんだい。こっちだって先生のためにも、犯人を野放しにはしたくねえからよ」
マドルの捜査に協力的な態度を示す、若き弁護士の声。
「実は、伊鵞 重蔵(いが じゅうぞう)氏の遺した遺言状について、お聞きしたいのです。とくに2通目の遺言状について、発見された経緯(いきさつ)をお聞きしたい」
「悪ィんだが、オレは遺言状の件についてはほぼ関わって無ェからな。前も言ったが、竹崎先生は守秘義務を守る人でよ。酔った席で、多少は先生から聞いちゃいるが、アレ以上のコトは……」
「そうですが。ムリを言って、申し訳ありません」
「だが先生は生前、遺言状に関する何かを調べていたぜ。なんせ遺言状に疑いを持っていたのは、先生ご自身だからな」
「これは、吾輩の推理に過ぎないのですが……」
前置きをする、マドル。
「竹崎弁護士は亡くなる前に、遺言状が偽物であるコトを、突き止めていた。だから、犯人(マスターデュラハン)によって殺されてしまった……と考えているのです」
「なるホドな。確かにそう考えれば、先生が殺された理由も説明が付くぜ」
若き弁護士の声も、マドルの推理に納得した。
舞台がまた暗くなり、観客に情報整理の時間が与えられる。
「え、え。どう言うコト!?」
「アンタ、まだ解らないの。ようするに、口封じで消されたのよ」
「あ~、納得、納得」
「竹崎弁護士は、嗅俱螺(かぐら)家の寺の本堂から、焼死体となって発見されました。恐らく、何らかの方法で気絶させられたか、眠らされたと警察は見ています」
「そりゃ、いくら火事が起きたからって、大の大人が寺から脱出できないなんて不自然だからな」
「はい。もし犯人が、マスターデュラハンであれば、竹崎弁護士は眠らされていたのでしょう」
「アア……なんで解かる?」
「これまで殺された3人の少女は、いずれも眠らされた後に殺され、首を刎ねられてます」
「マジか。だが、そんなコトまで話しちまって、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫では……無いでしょうね」
探偵少女は、言った。
「……覚悟は、決まってるってコトか」
マドルの意図を読み取る、若き弁護士。
「先生には怒られそうだが、オレも覚悟を決めるぜ。先生が生前に集めていた資料、探して見るわ」
「有難うございます、鬼頭弁護士」
深々と頭を下げる、マドル。
「それから、吾輩と鬼頭弁護士は、人目を忍びながら竹崎弁護士が生前に残していた資料を漁った。けれども資料は、どれも裁判や弁護に関わるモノばかりで、中々遺言状に繋がるモノは見つからない」
「流石は、竹崎先生だぜ。なんの資料も、残っていないとはな……」
「あとは、この開かずの引き出しだけですね」
「そこは、先生の日記が入っているだけだ。備忘録替わりに、日記を付けられていたんだが……鍵は先生ご自身が、お持ちでな。残念ながら、開ける方法が……」
その時、『ガチャリ』と音がした。
「申し訳ありません、鬼頭弁護士。吾輩は、どうしてもこの事件を、解決しなくてはならないのです」
舞台のマドルの手には、いつの間にか日記が握られていた。
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