ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第11章・第37話

蝋燭印(シーリングスタンプ)

「吾輩は、竹崎弁護士が生前に、書き記していた日記を開いた」
 弁護士事務所の机で、日記を開く仕草をするマドル。

「もちろん、捜査令状も取らないで行った、越権行為である。この時の吾輩は、ハリカさんを護れなかった罪悪感で、相当に焦っていたんだ」

 自ら、焦っていたと認めるマドル。
それが今後、彼女の運命を決定付けるのだとボクは予測した。

「重蔵氏は、重い病により亡くなってしまった。生前に巨万の富を得た彼ですら、死の運命には抗(あらが)えあかった様だ。全てが上手く行った人生では無く、挫折も多く味わった重蔵氏の冥福を、今は祈ろう……」

 マドルは、日記を朗読する。

「日付からすると、重蔵氏が亡くなった翌日か。竹崎先生は、重蔵氏とは長い付き合いだった様でな。その日は寂しそうな顔して、遺言状の整理を行っていたのを、覚えているぜ」
 若き鬼頭弁護士が、当日の弁護士事務所の様子を振り返った。

「明日は、重蔵氏の遺言状を、ご遺族の前で開封する日だ。事務所の金庫に、長らく保管してあって遺言状。果たして誰を、遺産の相続者として指名するのか。それは、わたしにも解らない……」

 ページを飛ばし、関係性のある部分のみを読み上げる探偵少女。

「今日は、遺言状の開封を行うに当たって、重蔵氏の館にご遺族が一同に会していた。その多くは、普段は遠く離れた場所に住んでおり、葬儀にすら参加されなかった方もおられる。わたし自らが、一同の前で遺言状の開封を行った」

「あからさまに非難はしてい無ェが、先生も遺産目当ての遺族には呆れてたらしいな」

「思わぬコトに遺言状は、伊鵞 兎愛香(いが トアカ)と言う少女を指名した。彼女の母親は、重蔵氏の次女であり、すでに亡くなっている。遺言状は、彼女が代筆してしたためたモノであり、遺族の多くは納得せず、特に相続権を失っていた次男の怒りは激しいモノだった」

 淡々と、日記を朗読するマドル。

「竹崎弁護士は、この時点で次男に相続権が無いコトは、把握していた様だな」
「恐らくはもっと前の段階で、証人として立ち会っていたのでしょうね」
 久慈樹社長の見解に、応えるボク。

「今日は、凄惨な事件が起こってしまった。遺産を受け継ぐ権利を得た伊鵞 兎愛香の身体が、ロビーのシャンデリアに圧し潰された状態で発見されたのだ。頭部に至っては、警察の捜査が入ったにも関わらず、発見されていない。わたしも警察に呼ばれ、多くの事情聴取を受けた」

「まさか殺人事件にまで発展するなんて、先生も思って無かっただろうよ」
「ええ。ですがトアカさんは、マスターデュラハンによって殺されてしまった。警察が介入したのは、彼女の死体が発見されて以降です」

「第1の殺人は、警察にゃ止められなかったってコトか。だが、問題はここからだぜ」
 鬼頭弁護士の声が、日記の続きを催促した。
墓場の舞台に立つマドルが、日記をめくる。

「わたしは警察から、開封した遺言状の真偽を問われた。遺言状は、ずっとわたしの事務所の金庫に保管してあり、蝋燭印(シーリングスタンプ)もされていたコトを話す」
 マドルの読み上げに、観客席が騒(ざわ)めいた。

「な、なあ。シーリングスタンプって、なんだ?」
「アレよ、アレ。ヨーロッパの昔の映画とかで、お金持ちが手紙とかに蝋を垂らして封印するヤツ」
「ああ、アレか。理解、理解」

 情報交換をし、納得する観客。

「さらに警察は、遺言状の入っていた封筒の内側に文章を発見する。それは2通目の遺言状の存在を、示唆(しさ)する文章だった。わたしはその存在に気付いていなかったが、それは館の重蔵氏の部屋にあった、古びた置時計の内側に貼り付けてあった」

 マドルが読み上げる竹崎弁護士の日記は、2通目の遺言状が発見された当時の経緯(いきさつ)を、書き残していた。

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