甲板戦
大海原で衝突した、2隻の艦隊旗艦。
甲板戦の準備にとカトラスを抜く、互いの艦の乗組員たち。
「メリィ・ディアー。キミは船倉にでも隠れていろ。ここからは、血生臭い乱戦が始まる」
日焼した、海の男が言った。
彼は黒い艦隊の司令官で、旗艦アル・ゴゥース号の艦長でもある。
「冗談では無くてよ、イアン・ソーン。これでも、落ちぶれた家を建て直すために、多くの修羅場をくぐって来たんだから。砲撃戦は指をくわえて見てるしか無かったケド、乱戦なら暴れられるわ」
メリィは、アル・ゴゥース号の甲板から舳先(へさき)を駆け抜け、横腹に穴を開けられた敵旗艦へと、真っ先に斬り込んだ。
「なんだ、女が1人で斬り込んで来やがったぞ!?」
「ふざけやがって。ここは、男の戦場だ!」
彼女の周囲を、直ぐに荒くれた船員たちが取り囲む。
「舐めない方が、良くてよ。アタシは、女を見降す男の血を見るのが、大好きなのさ」
メリィは、左の腰に下げたサーベルを抜いた。
「グワッ!?」「ゴフッ!!」
腹を裂かれた男が数人、海へと堕ちて行く。
「海の男ってんならさ。海に還れて、本望よね」
紫色のアイシャドーで彩られた猫のような瞳が、取り囲んだ男たちの怯えた顔を映した。
「……こ、この女、強いぞ!?」
「弱気に、なってんじゃ無ェ!」
「こちとら、自慢の船に穴開けられてんだぜ!」
海の男たちは、今度はカトラスを腹の前に構えて斬りかかる。
「文句なら、あの日焼した船長に言ってくれるかしら」
メリィは1人の男を踏み台にして、ヒラリと宙に舞った。
「ガハッ!?」「グフッ!!」
男たちの背後に着地し、背中から数人を斬り伏せる。
「この女、舐めやがって!」
ひと際大柄な男が、巨大なカトラスでメリィを背後から襲った。
「ヒハァッ!」
男のハゲた頭に、風穴が空く。
男はそのまま、仰向けになって倒れた。
「余計なお世話だったかな、メリィ?」
蒼いロングコートの内に、ガンフォルダーを下げた男が言った。
彼の右手に握られた銃からは、薄っすらと白い煙が登っている。
「そうね、イアン。コイツは、もう倒していたもの」
甲板に大の字に寝そべった男の豊満な腹には、バツの字に斬り傷が付いていた。
「悪かったな。だがキミの背後に居る男との決着は、オレに譲ってくれないか?」
「了解よ。なにやら、因縁もあるみたいだしね」
メリィは大きく宙に飛ぶと、他の兵たちの戦闘へと向った。
「ずいぶんと、威勢のイイ女を従えたモノだな……イアン」
メリィの背後に立っていた、イアンと同じ色のコートを着た男が、槍を構える。
彼は白いズボン、黒い手袋と軍靴など、その他の身なりもほぼ同じだった。
「アドゥル・メート。残念ながら彼女は、どんな男であろうと手懐けられはしないだろう」
イアン・ソーンが、男の船へと乗り込む。
「まさかこんなカタチで、キサマと戦うコトになろうとはな」
銀色の長い髪を海風に靡(なび)かせたアドゥルは、蒼い瞳に乗り込んで来たイアンを映した。
「キミの父上と、オレの父上は兄弟だ。従弟(いとこ)同士が、戦り合うのも虚しきモノ……アドゥル、降伏する気は無いか?」
イアンが、着ていたコートを脱ぎ捨てる。
「我ら大海の7将が、ミノ・リス王より与えられた忠誠の証(あかし)たるコートを捨てた以上は、キサマは敵だ。降伏など、以(も)っての他よ!」
1直線に、槍で突進するアドゥル。
「ヤレヤレ、相変わらず真っすぐなヤツだ。もう少し柔軟に立ち回ら無ェと、損するぜ!」
イアンは、両手に構えた2挺の銃を撃ち放った。
「グッ!?」
乱射された弾は、不自然な軌道を描いて飛び、アドゥルの胸や頭部に命中する。
「この程度の傷など、我が槍の前では無意味よ!」
けれどもアドゥルは倒れず、突進を続けた。
「ヤツの傷が、塞がって……クッ!?」
イアンは、慌ててマストのロープを握って、突進をかわす。
丈夫なロープが切れ、マストの帆が甲板に落ちた。
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