ある優等生2人の戦略(タクティクス)4
「ミス・シャルロット。ご自身のブランドを立ち上げるとのコトですが、我々のクラブのスポンサーになっていただけると言うのは、本当でしょうか?」
赤茶色の髪の優等生が、自然な所作(しょさ)でハンバーガーショップの席に手をかざす。
「エエ、そのつもり。会場で、アナタたちが配っていた名刺を見たのよ」
シャルロット・神功寺(じんぐうじ)は、赤茶色の髪の優等生が開けた席に座った。
「でも残念だケド、あまり多くの金額は出せないわ。ウチは先祖代々が、商売人の家系でね。自分の商売は、自分で立ち上げるべきと言うポリシーがあるのよ」
シャルロットは、注文していたアイスコーヒーをテーブルに置く。
「総合商社の神功や、JIN・GUUと言うブランドも、そうなのですか?」
黒髪の優等生の隣に座り直す、赤茶色の髪の優等生。
「神功は父が立ち上げ、JIN・GUUは母のブランドなの。だから出資はあくまで、わたしが立ち上げる会社からであって、親からの出資は期待しないでくれるかしら」
ミス・シャルロットは、桜色の口紅の塗られた口に、ストローをくわえた。
「それで貴女ご自身は、どう言ったブランドを立ち上げる予定なのです?」
「名前はまだ決めてないケド、業種としては旅行代理店ね。わたし、旅が好きなのよ」
「旅行代理店ですか。ですが日本にも、多くの旅行代理店があります。競合他社が多く、決してブルーオーシャンでは無いように思いますが……」
黒髪の優等生が、会話に入って来る。
「まあね。でも、チャンスはあると思っているわ。日本の旅行会社の多くは、格安の弾丸ツアーなんかを売りにしてるケド、わたしはもう少し長期の滞在旅行を考えているの」
「確かにヨーロッパでは、バカンスで長期休暇を取ると聞きますが、日本でそれは……」
「勝算は、あると思うわよ。日本はまだまだ豊かな国だし、年金暮らしのお年寄りがいる1方で、多額の貯蓄を遺したまま亡くなってしまう人も居る。それって、勿体ないと思わない?」
「確かに、勝算は有りそうですね。旅行先としては、どこをお考えなのです?」
「フランスとオランダにルーツを持つ身としては、ヨーロッパを推したくはあるんだケド、まずは東南アジアかしらね。リゾート地も多く抱えてるし、タイやマレーシアなら日本人も多く住んでいるわ」
「綿密な、計画を立てておられるのですね」
「綿密ってホドじゃ無いケド、事業計画は会社創業には必要なモノでしょ?」
「普通は、そうですね。中には、そうで無い人もおられますが」
乾いた笑みを浮かべる、赤茶色の髪の優等生。
「もしかして、その人ってアナタたちのチームオーナーである、倉崎 世叛のコト?」
シャルロットの問いかけに、顔を見合わせる2人の優等生。
「倉崎さんを、知っているんですか?」
黒髪の優等生が、質問を質問で返す。
「実を言うとね。わたしが本当に興味を持っているのは、アナタたちのクラブではなく、クラブのオーナーである、倉崎 世叛なの」
「我々のクラブは、数日前に地域リーグの2部で始動したばかりで、初戦の試合結果も惨敗でした。ブランド力で言えば、デッドエンド・ボーイズよりも、倉崎さん個人の方が上でしょう」
「つまり貴女は、倉崎さんに近づくために、オレたちにスポンサーの話をした……と?」
2人の優等生の知的な視線が、向かいの席に座った女性を捉えた。
「それも、目的の1つよ。でも、デッドエンド・ボーイズに出資しようとも、考えているわ」
シャルロットの返事を聞き、再び顔を見合わせる2人の優等生。
「どう思う、柴芭。オレは、倉崎さんに話しても良いと思うが」
「ボクも、雪峰くんと同感です。話していて、彼女は信頼できると感じました」
「なら、決まりね。さっそく会社設立の、申請をしなくっちゃ!」
ウェーブのかかった薄い金髪の女性は、ハンバーガーショップを出て行った。
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