2人の高校生と動画編集1
デッドエンド・ボーイズの事務所も入っている3階建てのビルは、元は印刷会社であり、チームはビルの3階を間貸りしていた。
「なんや、クロ。お前も、来とったんか?」
金髪ドレッドヘアの高校生が、事務所の入っている下の階の扉を開け、中に入って来る。
扉横の金属製の大きな表札には、サーフィス・サーフィンズ株式会社と書かれていた。
「わ、悪いかよ、イソギンチャク。オレさまだって、かなり動画の編集を覚えたんだからな。少しは、千鳥さんの手伝いだって出来るぜ」
真っ黒に日焼けした高校生が、反論する。
彼はパソコンの乗ったデスクに座り、動画の編集画面と真剣に向き合っていた。
「良う言うわ。まだ足引っ張る、レベルのクセに。今日は千鳥のヤツは、まだなんか?」
「今日は千鳥さん、休みなんだよ。名古屋の電気街で、新型カメラの発表があるらしくてさ……」
「ギャハハ。アイツは、筋金入りのガジェヲタや。当てが外れてもうて、残念やったな」
「別に、そんなんじゃ無いって。そ、それに、千鳥さんが居ない方が、色々聞けるし」
3階より床面積が大き目の2階には、多くのデスクが並び、パソコンのファンが音を立てている。
空調が効いた部屋では、アニメやゲームのTシャツを着たラフな格好の社員たちが、マウスやタブレットペンを軽快に走らせていた。
「勉強熱心なこっちゃ。なんならワイが、教えたるで」
タイムカードを押した金髪ドレッドの高校生は、真っ黒に日焼けした高校生の隣に座る。
「マ、マジで……イイの?」
「こう見えて、もう1年近くも動画編集やっとるさかい」
「最初はサーフィンの会社と、間違えて入ったのに?」
「ウッセ、テメー。しばくでッ!」
「わわ、冗談だって。実はまず、サムなんとかってのを作るところから、始めるように言われたんだケド、どうやってやるのか解らなくてさ」
「サムネイルやな。ちゅうか、そっからかよ。よくそれで、千鳥の手伝いが出来る抜かせたな」
「だって千鳥さんの前じゃ、中々聞けなくてさ。解るって答えてはみたモノの、ゼンゼンできなくって困ってんだ」
「しゃ~ないヤッちゃな。そもそもお前の開いてるのは、動画編集用のソフトや。サムネ作るんやったら、また別のソフト立ち上げなアカン」
「ソ……ソフトって、なに?」
「お、おま……マジか」
真っ黒に日焼けした高校生の出来なさに、呆れ果てる金髪ドレッドヘアの高校生。
「エエか。ソフトっちゅうんは、アプリケーション・ソフトウェアの略や。スマホだとナゼか、アプリっちゅうコトが多いな」
「なんだ。ソフトって、アプリのコトだったのか。最初っから、そう言ってくれたら良かったのに!」
「時代……ですかねえ」
眼鏡をかけた1人の男性が、2人の高校生の席に近づいて来た。
「あ、佐藤さん。おジャマしてます」
「お前、マジでジャマやで。無給でイイっちゅうても、限度ってモンが……」
「まあまあ、金刺くん。彼はまだ、初心者なんですから、そんなに無下に扱うモノではありませんよ」
「佐藤さんが言うんやったら、しゃーないわ」
金髪ドレッドの高校生は、尖った言葉を引っ込める。
「ところで、佐藤さん。時代ってなんのコトだ?」
「え、ああ。ソフトウェアと、アプリケーションの呼び名についてですよ」
「それが時代と、関係あるのか?」
「ボクらの時代は、まだスマホなんて無くて、パソコンやゲーム機が主流でしたからね。パソコンに入っている、様々な機能を持ったプログラムを、ソフトと呼ぶのが一般的でした」
「言われてみればゲーム機なんかは、ゲームソフトって呼んでるモンな」
1人納得する、真っ黒に日焼けした高校生。
「最近では、プログラムもコードと読んだり、時代と共に呼び名が替わってしまうのに違和感を感じるのも、ボクがオジサンになった証拠でしょうね」
「それより佐藤さん。こないだの試合、スマンかったな。あんな、結果になってしもうて」
金髪ドレッドの高校生が、メガネの男性に謝る。
「イイんですよ。最初の試合から、結果が出るとは思っていませんでしたから。ですが、日高グループが出て来たのは、ウチとしても想定外でしたね……」
メガネの男性は、言った。
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