ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第16話

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ストリーミング動画の革新

『今、久慈樹社長は、あらゆるジャンルの動画に……と仰いましたが、具体的にはどんなジャンルをお考えですか?』

 アメリカ人の記者が英語で質問すると、直ぐに自動翻訳の字幕が流れる。

『そうですね。今考えているのは、報道系のチャンネルです』
 細い眉と切れ長の目、サラサラとした髪のスーツ姿の男が言った。

『既存の報道機関と同じように、ニュースになりそうな事件や事故を追う』
 マスコミ席に、騒めきが広がる。
『実際に記者を現場に派遣して、生の臨場感溢れる映像を提供しようと考えております』

「オイオイ、とんでもなく挑発的なコト言ってるじゃないか!?」
 それは、彼ら既存のマスコミに対する挑戦でもあった。

『今、世界的に既存の報道メディアであるテレビや新聞は、規模を縮小しています。それなのに社長は、あえて報道部門に踏み出すお考えなのですか?』

『相手が弱っていれば、格好のビジネスチャンスだというコトです』
 確信的に、火に油を注ぐ言葉だった。

『旧態全とした既存の報道メディアとは、対決する覚悟です』
 きっぱりと、言い切る久慈樹 瑞葉。

『既に、日本の報道各社に務める優秀な記者、アナウンサーには声をかけてましてね。良い返事をいただいたりもしているのですよ』

「確かに……今のマスコミに不満を持つ、関係者も多いだろう」
 最近のマスコミは、特定の国や政党などに対する偏向報道が指摘され、それに疑問を抱く人間も多くいるとは思っていた。

『もちろんユークリッドは、アメリカでもビジネスを展開していくつもりです。皆様とも、良好な関係を築きたいと考えてましてね』

『それは良い心掛けだ、ミスター久慈樹』
 一人の記者のアメリカンジョークに、笑いが起き場が和む。

『我が社の動画を制作する者を、『ユークリッター』と呼びますが、記者にはバーチャル・ユークリッターの起用も考えております』

 記者会見を開くだけあって、アイデアは豊富にあるらしい。

『他にも二十四時間途切れない報道番組や、競技場のカメラと連動させた多角的スポーツ中継なんかも、やってみたいですね』
 社長の言葉は、会見当初に比べフランクになっていた。

『完全オリジナルアニメやドラマの制作、ネットショップ連動の音楽番組とかも考えてましてね』

『日本に、新進気鋭のやり手社長が居るとは、聞いてたが……』
『アナタの発想は、とても革命的だ』

「『革命的』……か」
 まさに、その言葉が相応しかった。

 記者会見は終了となるが、その日のSNSやストリーミング動画サイトは、久慈樹社長の話題で持ち切りとなった。

 衝撃だったのは、それから直ぐに始まった朝の情報番組で、ユークリッドの記者会見が悪辣に紹介される中、一人のアナウンサーが偏向報道に対する怒りをぶちまけたコトだ。

「ついに既存のマスコミに対し、反旗を翻す人が出て来たか……」
 ボクは、明らかに時代が変わるのを感じた。

「もはや報道は、テレビや新聞の専売特許じゃない」
 誰でも簡単に、ストリーミング動画で自分の番組が創れてしまう時代なのだ。

 ボクはしばらく、呆気にとられ部屋に寝転ぶ。
ボクの古臭い脳ミソでは、久慈樹社長の先鋭的な考えを理解するには、時間がかかった。

 するとスマホが『ブー、ブー』と、音を立てる。
昨日のタリアの事件を心配する、ユミアの声だった。

「そうか、ボクにはまだ生徒たちが居る……」
 今日が最後の授業になるかも知れないし、授業すらさえて貰えないかも知れない。

 腹ごしらえにキッチンに行くと、冷えたコーヒーとカチカチの食パンがあった。

 ボクはそれを、やり切れない気持ちで食べた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・3話

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地下祭壇

「ここが、秘密の入り口ミル~♪」
「異教徒には反応しない、魔法がかけてあるミルゥ~♪」
 バイオレット色の巻き髪に、褐色の肌の四人の少女たちが、地下へと続く秘密の階段を自慢する。

「ボクたちからすれば、異教徒はお前たちの方なんだケド」
「それも、どちらに視点を置くかで変わるのじゃ」

「流石に、人の子供を生贄に要求する魔王の立場には、共感できないわ」
 カーデリアが言った。

「要求はしてないミル」
「人間の信者が、勝手に捧げたミル」

「そ、そうなの?」
「まあこの辺りは、雨も降らず河も湖も干上がってしまっておるでの」

「作物が育たず、やむを得ず子供の命を捧げたってワケかよ」
 やり切れない表情を浮かべる、赤毛の少女。

 ミラーラ、ミリーラ、ミルーラ、ミレーラの四人は、先頭に立って階段を降り始める。
一行もそれに続いた。

「ここが、お前たちの城なのか?」
「城は、もっと降りて行ったとこでござるレヌ」
「マグマの湖の中央に、あり申すレヌ」

 武人の性格を持つ、レナーナ、レニーナ、レヌーナ、レネーナが説明する。
マスカット色のポニーテールの四人は、最後尾を警戒するように付いて来ていた。

「どうやらアレが、かつて『力の魔王』とか『恐怖の魔王』と呼ばれた、『モラクス・ヒムノス・ゲヘナス』の城らしいぜ」
 少女となったシャロリュークの指先には、マグマの湖にそびえる、牛頭の虚像があった。

「足元には気を付けるミル」
「脆弱な人間は、マグマダイブすると一瞬で死んじゃうミル」
 かつて『力の魔王』とか『恐怖の魔王』と呼ばれた少女たちが、注意喚起する。

「イヤ……我らも今は、脆弱な人間なのじゃぞ?」
「そ、そういえばミルゥ!?」
「危うく飛び込むトコだったミル!」

 一行は、地底のマグマ溜りの前にたどり着く。
とてつもない熱気と、硫黄の悪臭がパーティーを手荒く出迎えた。

「ところで、この溶岩湖をどう渡れというのじゃ?」
「心配なっしんぐミル」
「そこの岩陰のボタンを押すと、橋が降りる仕組みでござるレヌ」

 溶岩湖に、巨像へと続く黒い石橋が降ろされる。
一行はその橋を渡って、牛頭の巨人の内部へと足を踏み入れた。

「なんだよ、中はがらんどうじゃねえか」
 巨像に入った一行が上を見上げると、空洞がどこまでも続いていた。

「かがり火が焚かれてるケド、薄暗くて不気味ね」
 カーデリアは、頼りなくなった幼馴染に身を寄せる。

「アレが祭壇だな。黒ずんだ血が、大量にこびり付いている」
「小さな髑髏も大量に、転がっているな」
 真っ白な髪に、褐色な肌の双子姉妹は、髑髏をポンポンと叩いている。

「あまりバチ当たりなコトすんなよ。ネリーニャ、ルビーニャ」
「死霊の神にとっては、こんなの見慣れたアイテムだ」
「お前らとて、動物の肉を食う時、それが死体とは思わんだろう?」

「床は黒曜石に候レヌ」「渋いでござろうレヌ~?」
「像は生け贄の儀式用でござるレヌ~♪」
「子供の悲鳴が漏れないように、人間が設計し申したレヌ」

「邪神や魔王とは、ここまで感覚が違うのか?」
「ま、妾はこれが悪趣味と思えるくらいの感覚は、あるがの」

「確かにルーシェリアの城って、悪の威厳みたいなのがあったよな」
「こ、こりゃ。ヘンんに褒めるで無いわ」
 頬を染めるルーシェリアを、舞人は不思議に思った。

「しかしよォ。ヤツの気配が、全く感じられねェな」
「留守なのか、ココを棄てたのかは知らねえが、この祭壇には居ないみて~だな?」

「でも何か手掛かりが、残されてるかも知れないわ、シャロ」
「そうだな……」
「みんなで、探してみるのじゃ!」

「ところでサタナトスは、どこか『自分の部屋』とか決めてたのか?」
 舞人は軽い気持ちで、八つ子に問いかける。

「究極几帳面なヤツだったから、バリ決まってたミル」
「拙者の城なのに、一歩たりとも入れて貰えなかったレヌ」

「もっとも前は体もビッグで、入りたくても入れなかったミル」
「この部屋にそうろうレヌ」

「な、なんだってェ!?」
 予想に反し、核心を引き当ててしまう。

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キング・オブ・サッカー・第一章・EP017

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もう一枚の名刺

 うう……なんか気マズイ。

 フードコートの席に、紅華さんと向かい合って座る。
ボクは袋から、ツナパンと炭酸水を取り出し食べ始めた。

「湿気たメシ、喰ってんな。ま、オレも似たようなモンだがよ……」

 アレ、そうなのか?
ボクはいつも、ツナかタマゴサンド、たまに塩おむすびも食べる。
飲み物は、炭酸水か2リットルで100円の水が多い。

 でも紅華さん、コンビニでバイトしようとしてたよな。
やっぱ高校生だから、お小遣いが少ないのかも?

「なんで、バイトしようとしてたかって?」
 ウゲッ、心を読まれたぁ!?

「ま、そりゃ気になるわな」
 紅華さんの言葉に、ボクはコクリと頷いた。

「ウチは三年前に親父が死んで、それからはお袋一人で美容院をやってんだ」

 そ、そうなんだ。
ウチは両親もいて、奈央もいて、恵まれてる気がする。

「姉貴を専門学校にやるだけでも、大変だったのに、オレも高校生になったからな」
 義務教育でない高校生になれば、お金がかかるのか。
だから紅華さんは、バイトを始めようと……。

「お前は知らんだろうが、個人経営の美容院なんてのは、どこも経営が厳しくてよ」
 ボクの炭酸水を、勝手にグビグビ飲む紅華さん。
「繁華街の方に、次々に新しい美容院が出来たお陰で、客足は遠のく一方なんだわ」

 ……それって鳴弦さんのお店も、含まれてるんじゃ?

「ま、お前に愚痴ったところで、なにも変わらんか」
 ペットボトルを置き、ピンク色の髪を手櫛で梳かしながら立ち上がる。

「オレはサッカーなんてやってるヒマはねーの、解かった?」
 紅華さんはそう言うと、コンビニを出て行った。

 紅華さんは学費や、実家のお店を助ける為にバイトをしようとしてるのか?
お姉さんだって母親を助けるために、必死に美容師になる努力をしている……。

 ボクも、直ぐに後を追った。

 このままじゃ、ダメだ……ちゃんと伝えないと!

 走り込んで、紅華さんの前に回り込む。
あえてその行く手を塞いだ。

「なんだよマジでしつこいな。オレはサッカーなんか……」

「……お金……払う……」
 緊張して引きつる顔の筋肉を、なんとか動かす。

「あ? お前、なに言って……」
「ウチのクラブ……給料……出る!」

 言葉の意味が解らなかったのか、紅華さんはしばらくその場で固まった。

「な……マジか、金が出るって?」
 ボクは、コクコクと頷く。

「だけど、ただのサッカークラブだろ?」
「プロ……サッカー……クラブ!」

「プロサッカークラブが、お前みたいに無口な高校生を、スカウトに使うとも思えんが?」

 それもそうだ。
正論だし、言い返せない。

「熱意は解かるが、冗談に付き合ってるヒマはねえの」
 ボクの言葉を、ウソだと思った紅華さん。
軽くフェイントを入れ、易々とボクをかわす。

 流石は、倉崎さんが見込んだドリブラーだ。
体の動き一つで、ボクはバランスを崩してしまった。

 紅華さんは、バス停の方に歩いて行ってしまう。
向こうから、バスもやって来た。

 ど、どうしよう。
このままじゃ、紅華さんが行っちゃう。
でも説得を続けたところで、納得するだろうか?

 諦めかけたその時、脳裏に倉崎さんのスーパープレイが浮かんだ。

 新人として鮮烈なデビューを飾り、名古屋のサポーターのみならず、全国のサッカーファンの度肝を抜いた試合。

 そうだ、ボクにはもう一枚、名刺がある!

 自分の財布に仕舞っていた、もう一枚の名刺の存在を思い出す。
それは、サッカー部に入部できなかった日の帰り道、倉崎さんがズボンのポケットに投げ入れた名刺だった。

 ボクは、もう一度走り出して、紅華さんの前に回り込んだ。

「オイ、どけよ。丁度バスが来てんだ」
 紅華さんはフェイントを入れるが、ボクも必死に喰らいつく。

「これ……名刺……」
 ボクは、倉崎さんの名刺を差し出した。

「お前の名刺なんて、要ら……ん?」
 紅華さんは、払い除けようとした名刺を手に取る。

「く、倉崎……世叛だとォ!?」
 紅華さんは、目を丸くして驚いた。

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一千年間引き篭もり男・第05章・01話

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接触(コンタクト)

 MVSクロノ・カイロスは、漆黒の宇宙を航行し続けていた。

 周りを取り囲むように、何隻もの赤い戦艦や蒼い空母が、規律正しく並んで追従している。

「ヤレヤレ、まるで生まれたてのヒナ鳥みたいだな」
「この艦を、親と認識しちゃってるんでしょうか?」
「当たらずとも遠からず……」

 真央、ハウメア、ヴァルナの三人が、オペレーター席で会話を弾ませている。

「艦長、準備はしておけよ」
「解かってるさ、プリズナー」
 ボクは、艦長の椅子に深く座り込んだ。

「解かってるって何がですか、おじいちゃん?」
「グリーク・インフレイム社と、トロイア・クラッシック社。二つの企業からの接触(コンタクト)だよ」

「ふえ。なんでコンタクトがあるって解かるですか?」

「そりゃ、自分トコの艦隊を略奪されたんだから、当たり前だろ」
「それに、両陣営に放送されてる……」
「カメラ付き撮影機が、頑張って仕事してるじゃん」

 ハウメアの言った通りMVSクロノ・カイロスの周りを、赤と黄色の両陣営の艦載機が飛び回っていた。

『艦長。予測通り、両陣営からコンタクトが入ってります』
「ああ、繋いでくれ」

 偉そうに……社長にでもなったのか、ボクは?
頭の片隅でそんなコトを考えながら、巨大モニターを見上げる。
画面二分割で、いかつい中年の男が二人、映し出された。

「始めてお目にかかる……とでも、言えばいいのかな」
 向かって右側の男が、勝手に話し始める。
「我が艦隊をジャックし、さぞや得意気なのだろう?」

「わたしは、アキレウス=アイアコス」
 男は金髪碧眼で、体は勇壮な筋肉に包まれていた。
古代ギリシャ風の民族衣装を思わせるデザインの、宇宙服を着ている。

「L4の小惑星群、通称ギリシア軍を率いるグリーク・インフレイム社の会長だ」
 まるで古代ギリシャの英雄の如く、威風堂々と胸を張る。

「キミは、その艦の艦長なのかね。随分と若そうだが?」
 どうやらこちらの映像も、向こうに流れているらしい。

「たぶん貴方よりは年上ですよ」
 何となく、腹の立ったボクは少し挑発的な返事をした。

「まあいい。キミの目的はなんだ?」
 相手からすれば、至極当然の疑問だろう。

 『あなた方の艦隊が、勝手に付いて来てしまいました』と言って、信じて貰えるだろうか?

「キミの要求はなんなのだ……と、聞いているのだ」
 すると、アキレウスの隣に映った男が、喋り始める。

「オレは、デイフォブス=プリアモス」
 やはり筋肉質の英雄然とした男は、クセ毛の黒髪に茶色い肌をしている。
古代ギリシャ民族風デザインの宇宙服は同じでも、色は黒かった。

「L5の小惑星群であるトロヤ群の、トロイア・クラッシック社の代表を務めている。我が社の艦隊を略奪した罪は重い。速やかに変換されたし」
 この時は気付かなかったが、彼は会長とは名乗らなかった。

「変わった名前のオジサンだよね、おじいちゃん」
 ボクの隣で、ボソッと呟くセノン。

『木星のトロヤ群の小惑星は、古代ギリシャの叙事詩・イーリアスに登場するトロイア戦争の英雄たちにちなんで、名前が付けられました』

「つまりは、二つの企業の会長は、英雄の名前を襲名しているのか?」
『会長以外にも会社の幹部クラスは、英雄の名前にちなんでおります』
 ……さて、古風な二人の英雄を前に、どう返答したものかと悩む。

「オイ、おっさん共。随分と焦っている様じゃないか?」
 すると二人の英雄に対し、プリズナーが挑発的な言葉を浴びせた。

「何ィッ!」「誰だ、キサマは」
「そりゃそうか。軍事企業の看板商品である艦隊が、丸ごと乗っ取られたんだからな」

「クッ……だが既に、手は打ってある」
「太陽系を代表する巨大軍事企業を相手に、逃げおおせると思うなよ」

「逃げる……二個艦隊を手にいれたのに、逃げる必要がどこにある?」
「止めるんだ、プリズナー。これ以上、挑発を続けたら……」

「二つの艦隊を、どう使うかは艦長次第だぜ?」
 プリズナーは、野心的な目でボクを睨んだ。

 

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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第五話

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金継ぎ

「ホンットにゴメン。オレ、なんか勘違いしてて!?」
 絹絵たちの裸を覗いてしまった渡辺は、ただひたすらに謝る。

「み、見てないから。ぜんッぜん見てないから!」
「ごご、ご主人サマぁ!」
 中から聞こえてくる絹絵の声は、恥ずかしさで震えていた。

「……ふう、若いねえ。羨ましい限りだ」
 動物病院の店主は、淹れたてのブラックコーヒーを口に運ぶ。

「やれやれ。オレも、若い者が羨ましく思える様な『オッサン』に、なっちまったか」
 コーヒーの湯気を不精髭の生えた顎に当てながら、窓の外を眺め呟いた。

「絹絵ちゃん、聞いてくれるかな?」
 再び隔てられたガラス戸に向かって、言葉を切り出す。

「迎えに来るのが遅くなってゴメン。もっと早く、ここに気付くべきだったんだ」
「……いえ、そんなッス。でも、アチシは……」

「絹絵ちゃん。キミは、オレとの約束を果たしてくれたんだよ」
「や、約束ッスか?」

「うん。絹絵ちゃんのお陰で、茶道部は廃部を免れたんだ」

「そ、そんな。それはご主人サマや、橋元先パイ、フウカとホノカたちのお陰で……」
「絹絵ちゃんのお陰でもあるだろ?」
「で、でもアチシは、何のお役に立てなかったッス!」

「そうかな?」
「そ、そうっス……」
「だって絹絵ちゃんは、落ち込んでダメな先パイの背中を、押してくれただろ?」

 渡辺はそう言うと、紫色の巾着袋に包まれた『何か』をガラス戸の前に置く。

「絹絵ちゃん。学校で……茶道部の部室でみんなが待ってるから」
 眼鏡の少年は丸眼鏡の店主に一礼をすると、店を出て行った。

 渡辺が去ってから、十分が経過する。
絹絵はガラス戸の外の様子を、そっと確認した。

「……こ、これはアチシの、抹茶茶碗ッス……」
 ガラス戸の前に置かれた、翡翠色の物を手にする絹絵。

「割れちゃったのに……くっつけて、ちゃんと元に戻ってるっス」
 大きな垂れ目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。

「でもその茶碗、継ぎ目が金色で雑だよね?」
「どうせ直すんなら、もっと目立たないように直せばいいのに」
「やっぱ人間って、信用できない」

 ガラス戸の向こうの部屋から現れた、少女たちが言った。
裸を覗かれてしまったためか、申し訳程度の服は纏っている。

「『金継ぎ』か……なる程ね?」
 丸眼鏡の店主は、絹絵が手にした茶碗を見て言った。

「きんつぎ……って、なにっスか?」
 絹絵も少女たちも、首をかしげる。

「『金継ぎ』と言うのはね」
 店主は、絹絵から茶碗を受け取った。

「一端壊れてしまった茶道具を、金泥を使って継ぎ合わせるこの国の伝統技術なんだ」
「そ、そうなんスか?」

「でも直すんなら、瞬間接着剤で良くない?」
「割れ目を目立たせて、どうすんのよ」

「そう言う考えが、今の世では一般的だね。だけど……」
 店主は、古びたパイプに火をつけて燻らせた。

「外国人から見れば、単なる継ぎ目にしか見えないモノを、日本人は『美』として愉しむんだ」
 少女たちは店主の手にある、金泥で修復された茶碗を覗き込む。

「言われてみれば、割れたヒビに流し込まれた金泥が……」
「模様やデザインに、見えなくもないかも?」

「西洋アンティークの修復技法は、壊れたコトを隠す技法なんだ」
 安楽椅子に腰かけた店主の周りに、少女たちが集まって来る。

「それに対し『金継ぎ』は、『壊れたコト』さえも趣向としてしまう修復技術なのさ」

 少女の姿は消え、代わりに店主の膝や頭の上には、子猫や子犬が乗っていた。
床には一瞬だけ使用された服が、何枚も脱ぎ捨てられている。

「壊れてしまった人間関係さえも、あの少年は……」

 流れる雲を見つめる店主の傍らには、包帯を巻いた子狸の姿もあった。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第15話

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伝説の記者会見

 ボクは新聞を投げ捨て、慌ててテレビとゲーム機のスイッチを入れる。

 パソコンが苦手なボクのために、友人が組んでくれたネット動画を見るシステムだ。
中古のテレビとゲーム機に光回線を繋いだモノで、番組も録画だけなら可能だった。

 ストリーミング動画の閲覧ソフトが並ぶ中から、『ユー・クリエイター・ドットコム』を起動した。

「アメリカからのライブ放送か……」
 スマホを取り出すと、デジタルな数字が午前八時半を提示している。

「日本との時差は十四時間……ってことは、ニューヨークは昨日の、夕方六時半だな」
 中古テレビには、会見場の様子が映し出されていた。

「調度、今から始まるところみたいだ」
 白いテーブルには無数のマイクが置かれ、その他に無数の小型カメラが並べられている。

「これって……倉崎 世叛が生前に行った、伝説の記者会見じゃないか!?」
 小型カメラ群は、会見を行う人物ではなく、マスコミ席の方に向けられていた。
その小さなレンズの先では、動画配信者たちが実況を始めているのだろう。

「久慈樹社長は、アメリカのマスコミに対してまで、それを行うっていうのか……」
 そんな事をすれば、アメリカのマスコミやメディアを敵に回しかねない。
アメリカの一般市民とて、心象を悪くするだろう。

 けれども、紙芝居の様に次々と送られてくる画像に、ボクが手を加えるコトはできなかった。

「不祥事があってどうなるか解からんが、出勤の用意はして置かないと……」
 ボクは急いでコーヒーを淹れ、パンをトースターへと放り込むと、慌ててテレビの前に戻る。

「お、そろそろ始まるみたいだ」
 画面越しの記者会見場が、ざわつき始めた。


『みなさん、今日は我らがユークリッドの為に脚を運んでいただき、誠に有難うございます』
 久慈樹社長の、英語でのスピーチが始まる。
画面下に、同時通訳の字幕が流れた。

『今日は、我々ユークリッドが、新たなステージへと踏み出す一歩となります』

 久慈樹 瑞葉の言葉に、ボクは不快感を覚えた。

『ユークリッドは、最初はほんの小さな動画サイトでした』
 カメラのフラッシュを浴び、誇らしげに雄弁を振るう年若き社長。

『イジメに遭い学校に行けない妹を見かねた兄が、妹のために作り上げたささやかなサイト。それが今や、日本中の学生・受験生が閲覧する巨大サイトへと成長を遂げたのです』

 ボクはスマホを取り出し、アメリカ産の有名ストリーミング動画サイトを開く。
案の定、あらゆる著名な動画配信者たちが、自分の個人サイトで記者会見の様子を実況中継している。

『皆様もご存じのように、ユークリッドの創業者である倉崎 世叛は、帰らぬ人となってしまいました』
 カメラマン席から、激しいフラッシュが焚かれる。

『わたくしは彼と、創業当時から知り合い共に仕事をし、ビジネスを大きくしてきました』
 ハリウッドスターの様な大げさなジェスチャーで、哀しみの心情を現わす久慈樹社長。

『そんな彼が、病魔に侵され突然いなくなってしまい、当時は酷く落ち込みました』

「落ち込んだ……でも、ユミアの比じゃないだろうに」

『天才カリスマ創業者の彼を失い、ユークリッドも株価が低迷し、多くの人材までもを失いました』
 確かに倉崎 世叛が生きていた頃に比べると、株価は下がり一時は会社を解散する噂まであった。

『彼のカリスマに惹かれ、彼と共に事業をしたいと望んだ者たちが、彼が居なくなった途端に会社を離れるのも、ある意味自明の理ではあります……』

「共同創業者で当時副社長だった久慈樹 瑞葉ですら、人材の流出は防げなかったってコトか」

『ですが我々ユークリッドは、再び未来に向け踏み出す決意を致しました』
 堂々と胸を張る、久慈樹社長。

『ユークリッドは今、教育動画から新たなステージに躍進すべく、あらゆるジャンルの動画の配信を開始致します』

 それは急激に、ユークリッドが変化する始まりでもあった。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・2話

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恐怖の谷

「かなり歩き回って調べちゃみたがよ。村人の死体が一つも残されてねェぜ」
「建物はこれだけ破壊されているのに、おかしなものね」
 クーレマンスとカーデリアが、村の探索から戻って来た。

「サタナトスとやらの目的が、『実験』だと言うなら簡単な話だろう」
「村人たちは、殺されず何処かへ連れていかれた……そう考えるのが自然ではないか」
 ネリーニャとルビーニャも、別方向から探索を終え戻って来る。

「村の状況から考えりゃ、そうだろうな~」
「で、でも村人はどこへ……シャロリュークさん!?」
 蒼い髪の少年は、隣を歩く赤い髪の少女に問いかけた。

「リーセシル、リーフレア。そっちは何か、解かったか?」

「ん~ん。子供たちは、何が起こったのか理解してないみたい」
「ただ、大人たちに言われるままに地下室へ避難して、数日がたった……と」

 残った二人の司祭も、子供たちをあやしながら情報を聞き出そうとする。
……が、有益な情報を得られずにいた。

「……じゃが、これで可能性は高まったなワケじゃ」
「高まったって、何がだ。ルーシェリア?」
「決まっておろう。サタナトスの居場所じゃよ」

 そう言って漆黒の髪の少女は、視線を新たに生まれた方の八ツ子に向けた。

「そうなのねんミル~」「たぶん、ウチのホワイトミル」
「白じゃなくて、城ミルね」「こりゃまった失礼ミル~♪」

 『ミラーラ』、『ミリーラ』、『ミルーラ』、『ミレーラ』と名付けられた、バイオレット色の巻き髪に、褐色の肌の少女たちは、堂々と身も荒むギャグを披露する。

「なあ、ルーシェリア。あのモラクスって魔王、お前の前じゃいつも、こんな調子だったのか?」
「こんな調子だったのじゃ……」
 肩を落とす元・冥府と暗黒の魔王に、同情する元・赤毛の英雄。

「では、せっしゃたちが案内つかまろうレヌ」
 今度は武人の性格を持つ、『レナーナ』、『レニーナ』、『レヌーナ』、『レネーナ』の四人が、マスカット色のポニーテールを左右に揺らしながら名乗り出た。

「場所はこの村から見える、恐怖の谷と呼ばれる渓谷の下レヌ」
「渓谷の先に、干上がった湖があるレヌ」
「せっしゃの牛頭の巨像があって、そこから地下に行けるレヌ」

「こっちの四人は、魔王の武人としての性格を受け継いでんのか」
「できれば、この四人だけで元に戻って欲しいモノじゃ」

「それじゃあ、さっそく地下祭壇の城に行きましょう」
「ああ、そうだな。舞人」
 二人の英雄は、村を出立しようとする。

「あの……」
 けれども、彼らを引き留める声がした。

「ん、どうした、リーフレア?」
「子供たちだけでも、近隣の街に避難させた方が、良いんじゃないですか?」

「まあ、それもそうか?」
「で、誰が送り届けるんだ?」
 クーレマンスが、ぶっきらぼうに問いかける。

「なら私たちが行くよ。ねッ、リーフレア!」
「ハイ、リーセシル姉さま!」

 双子の司祭は自分たちの提案通り、子供たちを近隣の中規模都市に避難させるため別働となり、残ったメンバーでムオール渓谷に向うこととなった。

「ここを降った先が、魔王だった頃のマイハウスミルゥ~♪」
「深い谷底なので、落ちないように気を付けるでござるレヌ」

 かつて、力の魔王・恐怖の魔王と呼ばれ恐れられた、『モラクス・ヒムノス・ゲヘナス』だった八人の少女が、道案内をする。
かつて、渓谷を創ったであろう河は既に存在せず、谷底には無数の瓦礫や石ころが散乱していた。

「この像が……お前たちの城?」
「壊れちまってるじゃねえか」
 ひび割れた大地には、巨像の欠片が無数に転がっている。

「地上のは、ヘンな宗教のヤツらに、異端だとか言って壊されたミル」
「なので、痛んでるミル」

 パーティーの視線は、褐色の肌の四人から、マスカット色のポニーテールの四人に移った。

「地上の像は入口に過ぎないでござるレヌ」
「こちらへレヌ」
 サムライ然とした少女たちに先導され、崩れた巨像の台座部分に入って行くパーティー。

 八ツ子が円陣を組んで手をかざすと、砂が積もった床から、地下へと続く階段が現れた。

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