ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第16話

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ストリーミング動画の革新

『今、久慈樹社長は、あらゆるジャンルの動画に……と仰いましたが、具体的にはどんなジャンルをお考えですか?』

 アメリカ人の記者が英語で質問すると、直ぐに自動翻訳の字幕が流れる。

『そうですね。今考えているのは、報道系のチャンネルです』
 細い眉と切れ長の目、サラサラとした髪のスーツ姿の男が言った。

『既存の報道機関と同じように、ニュースになりそうな事件や事故を追う』
 マスコミ席に、騒めきが広がる。
『実際に記者を現場に派遣して、生の臨場感溢れる映像を提供しようと考えております』

「オイオイ、とんでもなく挑発的なコト言ってるじゃないか!?」
 それは、彼ら既存のマスコミに対する挑戦でもあった。

『今、世界的に既存の報道メディアであるテレビや新聞は、規模を縮小しています。それなのに社長は、あえて報道部門に踏み出すお考えなのですか?』

『相手が弱っていれば、格好のビジネスチャンスだというコトです』
 確信的に、火に油を注ぐ言葉だった。

『旧態全とした既存の報道メディアとは、対決する覚悟です』
 きっぱりと、言い切る久慈樹 瑞葉。

『既に、日本の報道各社に務める優秀な記者、アナウンサーには声をかけてましてね。良い返事をいただいたりもしているのですよ』

「確かに……今のマスコミに不満を持つ、関係者も多いだろう」
 最近のマスコミは、特定の国や政党などに対する偏向報道が指摘され、それに疑問を抱く人間も多くいるとは思っていた。

『もちろんユークリッドは、アメリカでもビジネスを展開していくつもりです。皆様とも、良好な関係を築きたいと考えてましてね』

『それは良い心掛けだ、ミスター久慈樹』
 一人の記者のアメリカンジョークに、笑いが起き場が和む。

『我が社の動画を制作する者を、『ユークリッター』と呼びますが、記者にはバーチャル・ユークリッターの起用も考えております』

 記者会見を開くだけあって、アイデアは豊富にあるらしい。

『他にも二十四時間途切れない報道番組や、競技場のカメラと連動させた多角的スポーツ中継なんかも、やってみたいですね』
 社長の言葉は、会見当初に比べフランクになっていた。

『完全オリジナルアニメやドラマの制作、ネットショップ連動の音楽番組とかも考えてましてね』

『日本に、新進気鋭のやり手社長が居るとは、聞いてたが……』
『アナタの発想は、とても革命的だ』

「『革命的』……か」
 まさに、その言葉が相応しかった。

 記者会見は終了となるが、その日のSNSやストリーミング動画サイトは、久慈樹社長の話題で持ち切りとなった。

 衝撃だったのは、それから直ぐに始まった朝の情報番組で、ユークリッドの記者会見が悪辣に紹介される中、一人のアナウンサーが偏向報道に対する怒りをぶちまけたコトだ。

「ついに既存のマスコミに対し、反旗を翻す人が出て来たか……」
 ボクは、明らかに時代が変わるのを感じた。

「もはや報道は、テレビや新聞の専売特許じゃない」
 誰でも簡単に、ストリーミング動画で自分の番組が創れてしまう時代なのだ。

 ボクはしばらく、呆気にとられ部屋に寝転ぶ。
ボクの古臭い脳ミソでは、久慈樹社長の先鋭的な考えを理解するには、時間がかかった。

 するとスマホが『ブー、ブー』と、音を立てる。
昨日のタリアの事件を心配する、ユミアの声だった。

「そうか、ボクにはまだ生徒たちが居る……」
 今日が最後の授業になるかも知れないし、授業すらさえて貰えないかも知れない。

 腹ごしらえにキッチンに行くと、冷えたコーヒーとカチカチの食パンがあった。

 ボクはそれを、やり切れない気持ちで食べた。

 

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