ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第一章・EP016

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コンビニ面接

 この道、昨日は通らなかった道だ……。

 路線バスは、七人の女子高生たちが乗ってきた、ターミナル駅の停留所には立ち寄らず、街中の商店街へと向かった。

「オイ、お前もたいがいだな」
 後ろの席から、機嫌の悪そうな声が聞こえる。

「これからオレは、大事な用事があんだ。ぜってー付いてくんな!」
 そう言うと同時に、紅華さんは立ち上がって、バスを駆け降りた。
……と同時に、ドアがプシューッっと音を立てて閉まる。

 あ……。
慌てて立ち上がったが、時すでに遅しだった。

「さ、流石はドリブラー」
 相手の虚を突くのが上手い。

「ダメだ、ダメだ。昨日は終点まで乗ってっちゃったケド、今日は次で降りないと……」
 ボクは、バスの前方に向かった。

 あと、領収書も貰わないと……。
けれども、走行音が響く後ろの席では自由に喋れても、運転手さんの前に出ると口が動かない。

 だけど、ボクは昨日のボクとは違うんだ!
『領収書下さい』……と書かれた紙を財布から取り出し、運転手さんに見せる。

 バスは街中の停留所でボクを降ろすと、どこかへ走り去って行った。

「ふう。なんとか領収書、貰えた」
 始めて見る、領収書……なんだか大人っぽい。

「さてと。また戻って、紅華さんを探さないと」
 昨日と同じ様に、バスが運んでくれた道を引き返す。
昨日の終点の停留所は、山の奥な感じだったケド、今日はずいぶんと街中だ。

 お洒落なカフェや、カッコイイ靴が並んだシューズショップ。
昨日と比べ、歩く間に目に入る景色は賑わっていた。

 うわあ、周りも人だらけ。これじゃあ、独り言も喋れないよ……。
誰かとすれ違う度に、顔を引きつらせるボク。

 でも、なんかお腹空いたな。
コンビニがあるし、寄って行こう。

 聞きなれた入店音が響き、店内に入ると炭酸水とツナパンを買った。
コンビニって、カウンターに商品を置けば買えちゃうから好きだ。
最もカウンターの、美味しそうなチキンや肉まんは買えないケド。

 そのまま店を出ようとしたが、フードコートが目に入る。
ゴミを持ち歩くのもアレだし、ここで食べて行こう。

 そう思ってフードコートに行くと、先客がいた。
おじさんと高校生が、向かい合って話してる。

「あのねえ、キミ。確かにウチは人手不足で、猫の手も借りたいくらいだよ」
 おじさんの低い声が、背を向けた高校生に向けられている。

「だけど、そのピンク色の髪はどうなんだね。ウチも、接客業なんでねえ」
「でも雑誌には、服装自由って書いてありましたよね?」
「多少のコトは目をつぶるが、限度があるだろう」

 高校生は必死に食い下がっていたが、おじさんは頭ごなしに彼の意見を否定し続ける。

「黒髪にしろとまでは言わん。茶髪か、せめて地味目な金髪くらいには出来んのかね?」
「できね~よ、まったく!」
 敬語を使うのを止め、悪態をつく高校生。

「そうか……残念だが、ウチでは雇えない。話はこれまでだ」
 憮然とした表情のおじさんは、高校生の前から去って行った。

「ケッ、なんだよ、腹立つなあ」
 指摘されたピンク色の髪を掻きむしりながら、立ち上がる高校生。

「髪の色で差別しやがっ……あ!?」
 ボクと目を合わせた高校生は、言葉を詰まらせた。

 うわあ、どうしよう。
たまたまフードコートに寄っただけなのにィ。

「テ、テメー、なにこんなトコまで付けて来てやがんだ!」
 当然、そう思いますよねェ。

「お前、今の見てたのか!?」
 鋭い目つきで、睨まれる。

「まあ、見てたよな……?」
 まあ、見てた……。

「それ、喰うんだろ。座れよ」
 紅華さんは、ボクを目の前の椅子に座らせた。

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一千年間引き篭もり男・第04章・13話

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ロボットの進化

 宇宙ゴミ(スペースデブリ)と化した、『漆黒の海の魔女』の残骸を抜け、航行を続けるMVSクロノ・カイロス。

「宇宙開拓時代を代表する、二大軍事企業の戦艦の群れが……」
「一糸乱れぬ陣形で、この艦に追従してる」
「ある意味、壮観な眺めだね」

「そんな悠長なコト言ってる場合じゃないだろ」
「オペレーター共の言う通りじゃねえか。艦長から、艦隊司令官に出世した気分はどうだ?」

「いいワケないだろ。どうすんだよ、こんな事態になって」
 人の不幸を喜んでいるプリズナーに、ボクはムッとした。

「あ、ウィッチレイダーさんたちが、帰ってきたよ、おじいちゃん」
 ボクの膝に乗ったままだったセノンが、立ち上がる。

「たっだいま~パパァ!」
「なんとか帰ってこれたぁ」
「死んじゃうかと思ったよぉ!」

 レオタードのようなスーツに身を包んだ娘たちが、ボクにジャレついて来た。

「全員無事だったか、お前たち!?」
 少女らしい柔らかい体躯や、きめの細かい肌、天使のような髪の毛が纏わり付く。


「うん。でっかいイルカに助けて貰った」
「アレ、ホタテ貝だったかな?」
「アリガトね。え~っと?」

 娘たちの視線の先には、クアトロ・テールの女性型アーキテクターがいた。

「トゥラン、助かったよ」
「いいえ。アフォロ・ヴェーナーだったかしら。この艦の装備が優秀だったお陰よ」
「それでも、娘たちの命の恩人に変わりはない。礼を言うよ」

「ずいぶんと謙虚な、艦長さんね。アナタも見習って、褒めてくれてもいいのよ?」
 トゥランは、プリズナーに視線を飛ばす。

「ケッ。お前なら出来て当然のコトを、褒めてどうする?」
「あら、そう。でもそれって、けっきょくは褒めてない?」
「う、うるせえ」

 恋人同士の様な会話を成立させる、プリズナーとトゥラン。
「人間とロボットが、ここまで自然に会話できるなんて、不思議なモノだな」

「おじいちゃんの時代だと、ロボットは無かったですか?」
「あったケド、まだまだ発展途上だったな」
 ボクは久しぶりに、二十一世紀のテクノロジー事情を思い出す。

「音声を認識して、それなりの答えは返せはする……」
「もうロボットとの会話が、出来てたですか?」

「いや、どうかな」
 会話の定義にもよるのだろうが……。
「ロボット自身に感情があって、自分で考えて答えを返すワケじゃなかったからな」

「へー、アタシたちのご先祖サマって」
「感情がなかったんだ?」
 見ると、トゥランの髪の毛から分離した、四体のラサが感想を述べていた。

『現在のロボットに該当する、アーキテクターやサブスタンサーには、感情がありますね』
「え、アーキテクターは解かるケド、サブスタンサーにも感情があるの?」

「そうだよ、パパ」
「だから、会話する感じなんだ」
「命令を無視されたり、怒られちゃう場合もあるケドね」

「乗っているロボットと会話……か?」
 二十世紀前後のロボットアニメにも、そんな設定のが何個かあったような……。

「人型に限らず、今付き従えてる戦艦たちも、一隻ずつがロボットで感情があるよ」
「それに造ってるのも、人間じゃなくロボットだし……」
「製造、修理からバージョンアップまで、やっちゃってるんだ」

「それって……ロボットたちに、生殖機能があって、進化までするってコトか?」
 真央、ヴァルナ、ハウメアのオペレーター三人娘の言葉は、衝撃だった。

「人間が、アーキテクターやサブスタンサーを生み出したんだよな?」
「だが今となっては、その仕組みや製造方法も、解からないってワケさ」

 どうやら千年後の未来のロボットたちは、人間の手を完全に離れてしまっているらしい。

 

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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第四話

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ガラス戸

「その節はどうも」
 渡辺は、奥から出てきた店主に向かって、軽く頭を下げる。

「あの……こちらに絹絵ちゃんが居るって聞いて、伺ったんですが」

「うん、まあ、居るには居るんだがね」
 細身だが、落ち着いた雰囲気の店主は、無精ヒゲの生えた顎を撫でながら言った。

「キミに合わせる顔が無いと言って、部屋から出て来たがらないんだ」
 店にはペットを入れるゲージがいくつも置いてあったが、全てが何の動物も入っていない。

「ここは絹絵ちゃん以外にも、動物のコがいたりするんですか?」
「まあね。人間に捨てられたり、虐待されたりして、心に傷を負ったコたちが大勢いるよ」
 店主はガラス戸の向こうの、店の奥を親指で指差す。

 渡辺の気配を察したのか、奥から色々な声が聞こえて来た。
声は人の少女の様であり、犬や猫の鳴き声にも聞こえる。

「ごッ、ご主人サマっすか!?」
 その中から、確実に生き覚えのある声が問いかけてきた。

「絹絵ちゃん……ホントに絹絵ちゃんなんだな!?」
 渡辺がこの数週間、必死で探し続けた声だった。


「ど、どうしてここへ……?」
 ガラス戸に嵌められたガラスは、装飾模様がほどこされていて、小柄な少女らしきシルエットが映る。

「怪我は大丈夫なの。まだ、どこか具合が悪いとか?」
「いっ……いえ、怪我はもう、ほとんど治ったッス」

「ホントに?」
「お店のマスターが、また治療してくれたんスよ」
「良かった。マスターに助けられるの、これで二度目だね」

「……でも、あのときは、ご主人サマが助けてくれたお陰ッス!」
 ガラスの向こうから聞こえる声は、ボリュームを上げた。

「オレが無事だったのも、知ってたみたいだね?」
「はいッス。マスターが、ネットで調べてくれて……」

「学校へは……まだ戻れないの?」
 渡辺は、思い切って聞いてみる。

「うう……アチシは、ご主人サマを守れなかったッス」」
 急に声が、元気の無い声に切り替わった。
「アチシにそばに居る資格なんて、無いッス!」

「だけど、オレはこうして生きているよ、絹絵ちゃん。キミのお陰だ」
「で、でも……それは何かの偶然で、アチシはご主人サマを危険な目に……」

「偶然なんかじゃ無いさ!」
 渡辺も、言葉に気持ちを込める。

「千乃 美夜美先パイが、オレを助けてくれたんだ」
「せ、千乃先パイって……!?」
「ああ、オレがずっと探し続けた先輩だよ」

「千乃先パイって……もしかして?」
「ああ。絹絵ちゃんに近い、存在みたいだね」

「ねえ、絹絵。それって……」
「ウチらと、同じなんじゃ……」
 ガラス戸に、絹絵以外のシルエットが映る。

「そんな先パイが、言ってたんだ」
「……え?」
「オレを助けられたのは、絹絵ちゃんが戦って、スキを作ってくれたお陰だって……」

「……で、でもォアチシ……アチシ……」
 声は今度は、泣き出しそうな声に替わっていた。

「……そっちへ行っていいかな」
 渡辺は、ガラス戸に手をかけた。

「だッ……だめッス。来ないで下さいッス!」
 絹絵は必死に制止する。

「久しぶりに、顔を見てみたい。それから、もう少し話をしよう」
 渡辺は、二人を遮る部屋のガラス戸を開けた。

「ふぇ?」
 渡辺の眼鏡には、裸に包帯だけ巻いただけの、絹絵の姿が映る。
他にも、絹絵と似た感じの裸の少女たちが、大勢いた。

「ホワアアァァァァーーーーーーッ!!?」
 渡辺の、素っ頓狂な声が響き渡る。

「は、裸ァ。な、なんでッ!?」
「動物はキホン、裸だからね。人間界に慣れてないコたちは、服を着るのを嫌がるんだ」
 店主の冷静な説明も、眼鏡の少年には届かない。

「……ご、ごめん、絹絵ちゃんッ!」
 渡辺はピシャリと勢いよく、人の店のガラス戸を閉めた。

 

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この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第14話

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フードの少女

「良かったな、解放されて」

 ボクは真夜中の警察署を出所する、教え子に言った。

「まったく、お節介な先生だぜ。どうすんだよ、もう電車は無いぜ」
 美乃栖 多梨愛は、頭の後ろで腕を組みながら振り返る。

「タクシーでも拾って帰るよ。それより、伯父さんのアパートまで送ろう」
「え、先生よりアタシのが強いのにか?」

「それでも、ボクの生徒だからな」
 パトカーで十分ほどの距離を、生徒の背中を追いかけながら歩く。

「見てよ、先生。星が綺麗だぜ」
「そうだな、雨が上がって雲が晴れたんだろう」
「そう言や来るとき、雨降ってたモンな」

「なんだ、もう忘れてたのか?」
「う~ん、なんか数時間前のコトには思えなくて……」
 タリア的には、警察に長く拘留される覚悟だった様だ。

「ところで……さ」
「ん、どうした?」
 急に彼女の歩くペースが、遅くなる。

「……先生はやっぱ、契約解除されたりするのか?」
「どうかな。それを決めるのは、ボクじゃなく雇用主だからな」

「それって、ユミアってコト?」
「いや、多分……」

「本当に権限を持ってるのは、やっぱユークリッドの社長の方か……」
 フードの少女は、不安そうにボクを見つめていた。

「ああ、契約を解除されるかどうかは、久慈樹社長の考え次第だ」
「で、でも、問題を起こしたのは、アタシだろ。どうして先生が……」
「指導している生徒の、警察沙汰の不祥事だ。解雇理由としては、真っ当だろうな」

「ゴ、ゴメン。でも、アイツらは……」
「聞いたよ、タリア。彼らの行った、女子中学生たちに対する行為を」
「そ、そっか。流石に警察相手じゃ、隠し切れないか」

「お前の取った行動は、正しいと思う。暴力を使ったのは問題だケド、暴力を使わずに彼らを止められたとも思えない」
 警察や弁護士であれば、こんなコトは言わないのだろう。

 教師としても、不適切な発言かも知れない。
けれども警察官はピストルを所持しているし、平和憲法下の日本であっても、自衛隊には戦闘機にしろ、戦車や艦にしろ、各国顔負けの近代兵装が揃っている。

「子供にばかり、暴力ではなくそれ以外の方法で解決しろと言うのも、大人のエゴだろうしな」

「でも、みんなには迷惑かけちまったな。アタシのせいで、天空教室は……」
 フードの下の顔は、激しく俯いた。
「なんで久慈樹 瑞葉は、アタシなんかを生徒に選んだんだ!?」

「選考基準は不明だが、そこに関しては社長に感謝しているよ。みんな、可愛い生徒だ」
「だ、だけど……」

「いいかい、タリア」
 感情をむき出しにする少女を、言葉で制する。
「ボクはまだ、先生をクビになったわけじゃないし、教室も終わったワケじゃない」

「先生……」
「クビになるまでは、精一杯出来るコトはやるし、クビを宣告されても喰らいつくさ」

「見た感じ、頼りなさそうだケド、意外に根性あんな」
 美乃栖 多梨愛は、ようやくほんの少しだけ、笑顔を見せてくれた。

 それからボクは、フードの少女をアパートまで送り届けると、タクシーを拾った。

「ユミアも、心配しているだろう。連絡を入れておかないと……」
 タクシーの後部座席で、スマホを使ってメールを打つ。
ユミアと違ってデジタルが苦手なボクは、帰宅するまでメールを打っていた。

 翌朝、ポストに入っていた新聞を、戦々恐々と取り出し広げる。
タリアの事件が載ってしまってないか、心配だった。

「ユ、ユークリッドって、まさか一面トップに……!?」
 けれども、新聞を開いてみると、記事の内容は事件とは異なる。

『ユークリッドの、久慈樹 瑞葉社長がニューヨークで挑発的宣言!』
『日本がストリーミング動画の、新たな時代を創る!』
 新聞には、そう書かれていた。

 

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・1話

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ムオール渓谷の村

「オイ、舞人。どの家も、もぬけの殻だぜ」
 赤毛の少女が、ぼやいた。

「ホントですね、シャロリュークさん。人っ子一人いませんよ」
 蒼髪の少年も、静寂に包まれた村の家々を覗き込む。
遊撃騎士団・隊長に任じられた彼は、初の任務で責任の重さをヒシヒシと感じていた。

「この村、レーマリアの報告通りの惨状ね。全然、喜べないケド」
 パッションピンクの髪の少女が、肩を竦める。
一行は、ムオール渓谷の近隣の、村が『あった場所』に来ていた。

「随分と荒れ果ててやがるな。まともに建ってる家なんて、一軒も無いぞ」
「そうね、クーレマンス。こんな有り様じゃ、生存者は……」
 肩を落とす、カーデリア。

「みんな、こっちから人の声がするよ」
「ホントですね、姉さま。微かに、声が聞こえます」

「ホントか、リーセシル、リーフレア?」
 直ぐに反応したのは、筋肉の鎧をまとった男だった。

「この下なんだな。瓦礫が邪魔だから、どけるぜ」
 クーレマンスが、建物の残骸を払い除けると、小さな木の扉が顔を表す。

「どうやら、地下室への入り口みたいね」
「よし、入ってみようぜ」
 カーデリアとシャロリュークは、先陣を切って地下へと続く階段を降りる。

「見ろよ、子供がいるぜ」
「ホントだ。助かったのは、この子たちだけみたいね、シャロ」
 子供たちは長椅子に隠れながら、怯えた目で一行を見つめている。

「もう、怯えなくていいよ」
「わたし達は、味方ですからね」
 双子の司祭は、子供たちを優しく抱きしめ、落ち着くのを待った。

「子供たちの話だと、ここは教会の地下室で、シスターがかくまってくれたみたい」
「……ですが、そのシスターも……」
 姉の後を受けたリーフレアの言葉は、トーンダウンする。

「クソ、サタナトスの仕業か!」
 救えなかった命に、苛立ちを覚える赤毛の英雄。

「この村にサタナトスは居ねえみたいだな、シャロリューク」
「だが、警戒を怠るなよ。お前たちまで斬られて『魔王』になっちまったら、舞人が大変だからな。それに、場合によっちゃ……」

「解かってるわよ、シャロ。アンタを男に戻す前に、消滅なんかしてたまるかって~の!」
「なんかその言い方、屈辱を感じるぜ……」

「でも、サタナトスだっけ。そいつの目的が自分の剣の実験ならさぁ」  
「覇王パーティーのメンバーである、わたし達を狙ってくると思ったのですが……」
「ヤツの姿どころか、気配すら感じられないじゃねえか」

 別行動の雪影を除いた、『覇王パーティー』のメンバー四人は、自分たちの体を囮として、サタナトスをおびき出す作戦でいた。

「よ、良かったですよ。皆さんが囮だなんて、いくらなんでも危険過ぎます!」
「相変わらず甘いのォ、ご主人サマは」
 新設された遊撃騎士団の副隊長である、ルーシェリアが隊長をたしなめる。

「戦場に死はつきものよ」
「死は誰にも訪れる、この世で唯一『平等』なモノ」
 元・死霊の王たる、双子姉妹が言った。

「そう言えば、お前たちの元の姿である『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』は、世間じゃ死神とか呼ばれてたよな?」

「そう……死は別に『悪』じゃない」
「ところで今回、富の魔王の八つ子たちはどうした?」

「アイツらなら、商売で稼いだ金で『土地を買う』とか言い出してさ」
「土地をだと?」「この緊急時にか?」
 憮然とした表情を浮かべる、ネリーニャとルビーニャ。

「何でも、『シャロさんが空けた穴に水が溜まって出来た湖』周辺の土地が、買い時だから買い占める……とか言って」

「ああ、オレが魔王になって暴れたときのな。あそこ湖になってたのか?」
「でも、そんな荒れた土地を買って、どうするのかしら?」
「さあな~」

「オイ、お主ら……かなり話が逸れておれんかえ?」
「そっか、悪ィ、悪ィ」
 漆黒の髪の少女に指摘された一行は、村の周辺調査を始めた。

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キング・オブ・サッカー・第一章・EP015

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見解の相違

 うわわ。何で鳴弦さん、涙声なのォ!?

「遠光。確かにアンタには、才能があるよ……」
 鳴弦さんは、背後にボクがいるコトなど忘れてる気がする。
「アタシよりハサミも器用に使いこなすし、サッカーだって上手じゃないか……」

「あ、それがどうした?」
「才能があったって、使いこなさなきゃ意味が無いって言ってんだ!」

「そりゃ、才能が無い姉貴の嫉妬じゃねえのか」
「な、なんだって!」
「無能がいくら努力したところで、無駄だっつってんだ」

 グハッ。紅華さん、なんてコトをッ!?

「昔っから不器用で、何をやっても上手く行かない姉貴が努力したところでよ。そこら辺に山ほどいる、平凡な美容師になるくらいが関の山だろ」

「アタシは、それで十分だと思っているよ」
「オレは、そうは思わない。見解の相違だな……」

「今のアンタは、それ以下じゃないか!」
「ぎゃっは、そりゃそうかもな」
 そう言うと、紅華さんは自分の部屋を出て行った。

「ちょっと、鳴弦。そろそろ降りてきてくれないと、柿崎さんが……」
 下の階から、紅華姉弟のお母さんの声がする。

 鳴弦さんは母親の手伝いをした後、ボクを赤い軽自動車に乗せて送ってくれた。

「ゴメンね。恥ずかしいトコ、見せちゃって」
 運転席のお姉さんが、照れくさそうに呟く。

「まったく、ナマイキな弟だろ。遠光のヤツは」
 ボクは、首を縦に振りかけたが、慌てて横に振った。

「そんなに気を遣わなくたっていいよ。アイツが言ったコトも、まあ腹は立つケド本当のコトだしね」
 暗い車内で時折、街路灯の灯りに照らされるお姉さんの顔は、寂し気に見える。

「アイツに比べりゃ、ホンット不器用でね。ハサミすらロクすっぽ使えないモンだから、毎日店長や先パイに怒られっぱなしさ」
 そう言えばお店でも、ずいぶんと怒られていたような……。

「でも、日々上手くはなっている。不器用だって、少しずつでも努力すれば、母さんみたいな美容師になれるって思うんだ……」

 ボクも、そう思った。
でも、倉崎さんを見ていると、そうじゃないとも思ってしまう。

 サッカー選手の場合、誰もがプロになれるワケじゃない。
美容師の世界はぜんぜん解らないケド、サッカーは特別な才能がある人が努力をした結果、プロになれる気がする。

「ウチは、親父が三年前に死んじまってね。それ以来、店は母さん一人で支えてるんだ」
 夜が深まったせいか、地面を照らすライトもクッキリしている。

「母さんが無理をして働いた金で、美容師の専門学校に行かせて貰ったからね。早く一人前の美容師になって、店を盛り立てないと……」
 お姉さんはそれっきり、喋らなかった。

 次の日、ボクは学校の授業を終えると、再び紅華さんの高校の前に立つ。

「あの子、昨日もいたよね?」
「今日もまた来てるのか」
「ウチの高校に、知り合いでもいるのか?」

 噂話が、周りの生徒たちから聞こえた。
その中を、ピンク色の髪の男子生徒が、ボクなど見えないかの如く通り過ぎていく。

 あわわ……紅華さんが、行っちゃう!
ボクは慌てて、その背中を追いかけた。

 昨日と同じバス停まで付いて行き、昨日と同じくギリギリでバスへと乗り込む。

「だああ、うっとおしいな。お前、一体なんなんだよ」
 最後部の指定席に座った紅華さんに、睨まれてしまった。
また、名刺を渡してみよう。

「受け取らんわ。営業のサラリーマンか?」
 名刺は紅華さんの手で叩かれ、何処かへ弾け飛ぶ。
「お前みたいに無口な営業マン、いね~だろうがよ」

 まあ、無理も無いか……とりあえず、隣に座ろう。

「なに勝手に隣、座ってんだ。前行け、前!」
 仕方なく、一つ前の席に座る。

 アレ、このバス……
路線バスは、昨日は直進した交差点を右折して、別の道に入った。

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一千年間引き篭もり男・第04章・12話

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巨大ホタテ貝

 宇宙に浮かんだ巨大なホタテ貝は、真珠色の輝きを放っている。

「対比物がこの艦くらいしか無いから、大きさがピンと来ないケド……」
「貝の大きさが、100メートルくらいある」
「も、もしかして、あのホタテ貝の正体って!?」

 真央、ヴァルナ、ハウメアの三人は、忠実にオペレーターの職務をこなしていた。

『はい、アフォロ・ヴェーナーの変形した姿です』
 ベルダンディは、艦橋に再び女神の姿で現れる。

『あの形態は、アンチブレイク・シェル・モードと言って、かなり強力な攻撃をも防ぎます。核融合の直近の爆発でさえも、耐えうる強度を持っております』

「あ、ホタテ貝が、開くのです!」
 ボクに圧しかかった、セノンが指さす。

「デ、デカいロボットだ。ホタテ貝の中から、大きなサブスタンサーが出て来た!」
「でも、銀色の肌に金髪……女神さまみたい」
「アレが、アフォロ・ヴェーナーの本体なのか?」

『アフォロ・ヴェーナーは、MVSクロノ・カイロスに搭載された、最大のサブスタンサーです』

「そ、それじゃあ、娘たちは……」
「全員、無事よ。まったく、世話の焼けるウィッチだこと」
 突然聞こえた声は、トゥランさんの声だった。

「パパァ!」
「エ~ン、怖かったよォ!」
「死んじゃうかと思ったぁ!」

 開いた貝から、娘たちのサブスタンサーが飛び出して来る。

「よかった。お前たち、全員無事なんだな」
 どうやら、巨大なシェルによって遮断されていた通信が、回復したらしい。
艦長の椅子に座ると、娘たちの意識が纏わりついて来る。

「よう、トゥラン。ずいぶんと面白そうな『オモチャ』を、手に入れたじゃねえか?」
「そうね、プリズナー。けっこう気に入ったわ」
 プリズナーとトゥランは、離れていても意識の疎通が可能な様だった。

『戦闘は終了いたしました。これより、戦闘に当たったサブスタンサーを収容いたします』
「ああ。頼んだよ、ベル」
 ボクは気が抜けたように、ヘタリ込む。

 宇宙空間を見上げると、残骸となった『漆黒の海の魔女』が漂っていた。

「これで……終わったのか?」
『まだです、艦長』
 ベルから、聞きたくない方の答えが返って来る。

『グリーク・インフレイムと、トロイア・クラッシックの無人艦隊が、間近に迫っております』

「そう言えば最初の目的って、二つの艦隊から逃げるコトだったよね」
「でも、時の魔女の艦を沈めた……」
「そっか。もう、コンピューターのジャックも、解けてるんじゃない?」

『残念ですが、ジャックは続いており、もうすぐ我が艦に追いつきます』
 ベルの言葉は、直ぐに現実となって裏付けられる。

「ど、どうすんだよ。赤や青の艦が、周りを取り囲んでるぞ!」
「でも、攻撃して来ない……」
「なんでだろ。むしろ、並走してるようにも見えるんだケド?」

 三人のオペレーターが言った通り、二つの巨大軍事企業の私設艦隊は、MVSクロノ・カイロスと同じ方向に進んでいた。

「オイ、どうなってやがんだ。まるでこの艦が、二つの艦隊の旗艦みてえじゃねえか!」
『どうやらウィルスが、自我を持っている様です。艦ごとの中枢回路に潜り込んだウィルスが、独自判断で我が艦を旗艦として認識しているモノと思われます』

「なあ、ベル。それってMVSクロノ・カイロスが、二つの艦隊をジャックして従えているように、見えないか?」
『ほぼ間違いなく、そう認識されるでしょう』

「ウソでしょ!?」
「宇宙艦隊を、二個艦隊従えてる……」
「そんなのが、グリーク・インフレイム社や、トロイア・クラッシック社にバレたら」

『時既に遅しですね。艦隊を撮影していた無人機の映像が、既に流されてしまってます』

 ボクたちはいきなり、とてつも無い外交問題を抱えてしまった。

 

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