ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第01章・第05話

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教育民営化法案

「キミ、高校生だよね? その年齢でユークリッドの教師だなんて凄いな」

「何です? やっぱ、ナンパですか?」ソバージュの女の子は、そっけなく言った。
「そうじゃなくて……ボクも教師を目指してるんだ。学校の教師をね」

 彼女はそれを聞くと、今まで以上に冷たい視線をボクに向ける。

「ひょっとして、就職の斡旋をしろって事ですか? 無理ですよ。わたしにそんな権力なんてありませんから」「いやいや……だからそんなんじゃ無いよ」
 話が面倒臭くなりそうだったので、ボクは彼女を何とかコンビニから連れ出した。

「教師はボクの子供の頃からの夢なんだ。誰かに斡旋されて、なりたくは無いんだよ」
 夏の蒸し暑い夜に、ボクは目的も目的の場所も定まらないまま、とりあえず歩き出す。
街はすでに多くの店舗が照明を落とし、深夜になりかけていたが、彼女は普通についてきた。

「へェ、そうなんですか? でも今時の学校教師なんて、ただの監視員かアポイントメン……あ」
 瀬堂 癒魅亜は、自分の言葉の意味を理解したらしい。
「ご、ごめんなさい!」隣を歩く女子高校生は、申し訳無さそうに顔を伏せる。

「……いいんだ。本当の事だからね」
 就活で歩き疲れたハズのボクの足は、不思議と少し軽やかになっていた。
どうやら隣に可愛い女の子が居るので、多少は舞い上がっているらしい。

「確かに今の教師は、キミの言う通りの存在だよ。でもボクが理想とするのは、子供の頃にドラマで見た熱血教師なんだ。昭和の時代のね……可笑しいだろ?」
「え、昭和って……そうなんですか? 変わってますね」彼女はピシャリと言った。

「はっきり言うなあ。まあ自覚はしてるんだ」
それは、友人や周りから、言われ続けた事だった。

「でも、熱血教師を必要としてる生徒だって、広い世の中にはまだ生き残ってるかも知れないじゃないか?」

「クスッ……やっぱ、少し変わってますね」
 瀬堂 癒魅亜は、女子高生らしい笑顔で笑った。
それは、機械的でも無ければ、事務的でも無い笑顔に見える。

「あの……ひょっとしてユークリッドのコト、恨んでいたりしますか?」
 突然の質問だった。
今の彼女は、数秒前までの笑顔が想像出来ないくらいに、大人っぽい表情をしている。

「まあ、正直に言ってしまえば多少はね」「……ですよね」
 彼女は再び目を伏せる。

 考えてみれば、ユークリッドの教師である彼女も、そういった非難は日頃から受けているのだろう。
ボクは、光のすぐそばにある、闇の部分に気付いた。

「でもさ。ユークリッドが出来る十年も前に、『教民法』が成立しているからね。ボクは本当の分岐点は、むしろそこだったと思ってるよ」
 ボクらは、いつの間にか歓楽街の前まで来ていた。

「教民法……『教育民営化法案』ですね。質の高い教育は、国家じゃ無くても提供する事が可能である。むしろ民間の方が、質の高い教育を提供できる……」

「流石はユークリッドのエリート教師。よくご存知で」
「その言い方、止めて下さい! 何か嫌味に聞こえます」「え、そう? ゴメンゴメン」
 ボクはつい熱くなって、いつの間にか彼女に攻撃の矛先を向けていたらしい。

「民間の方が質の高い教育を……か。当時の首相、安齋総理の言葉だね」
「結局、何がしたかったんですかね、あのオジサン。わたし、あの人嫌いです」
 瀬堂 癒魅亜は女子高校生らしく、生理的な好き嫌いで人を判断した。

「でも、確実に言えるのは教民法によって、『教師は公務員では無くなった』ってコトさ」
 ボクがそう言うと、彼女は隣でボクの顔を見つめていた。

「公務員では無くなるって……実際どう言うコトなんでしょうか?」
 彼女は、自分が大人の世情について無知である事は、自覚している様子だった。

「あ、ああ……ボクもキミとそこまで年齢は違わない。知識として調べたたけで、偉そうには言えないケド、公務員で無くなるってコトは……」

 教育民営化法案が可決された、中学生の時を思い出す。
当時のボクにも、教民方の何が問題なのか、どうして世間が騒いでいるのか全く理解出来なかった。

「言い方を変えれば、余程の不祥事でも起こさない限り、クビには出来ない公務員の権利を、強引に剥奪された……ってコトかな? それによって、大量の教員がリストラされた。公務員であれば不可能だったろうに……ね」

「……そ、そう言うコトですか」真剣な顔をして、隣を歩く美少女。
「安齋総理は、『教民方はわたしの理念だ』……とか言ってたケドね」

「政治家って、『理念』を簡単に侮辱するんですね」
 瀬堂 癒魅亜は、眉間にシワを寄せた。