ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第一章・EP014

f:id:eitihinomoto:20191113233812p:plain

姉と弟

「アンタ、見たトコ高校生だろ?」

 赤い軽自動車は、美容院裏手の駐車場に停まる。
鳴弦さんは、ボクの制服を見て判断したようだ。

「……」
 コクリと頷く。

「悪いねえ。無理言って、付いて来てもらって」
 シートベルトを外し、車を降りると空はスミレ色に染まりつつあった。
「後でちゃんと自宅まで、送り届けるからさ」

 七人の女子高生から渡された名刺を、鳴弦さんはそのまま持っている。
そこにはボクの住所も書かれていた。

「ただいま、母さん。今帰ったよォ」
 美容院の正面ドアから、堂々と入る鳴弦さん。

「お帰り、鳴弦。さっそくで悪いんだケド、柿崎さんのパーマを……おや、そのコは?」
 白い清潔感のある制服に身を包んだ、中年の女の人が言った。

「このコは、サッカークラブの人でね。遠光をスカウトに来たんだ」
「そうなのかい? 見たとこ、高校生に見えるけど……」
「高校生だよ。小さいクラブで、人手が足りてないんじゃないかな」

「小さいトコは、どこも大変なのね」
 女性はしみじみと頷きつつも、慌ただしく鋏を動かす。

「柿崎さん。悪いんだケド、もうしばらく待ってもらえるかしら」
「いいよ、いいよ。こっちは時間なんて、持て余してるからねえ」

「ゴメンね、柿崎さん。すぐに話を付けて、戻ってくるから」
 ボクは鏡や椅子の並んだお店を抜け、二階へと案内される。

「遠光、入るよ」
 返事を待つコト無く、襖を開ける鳴弦さん。

「うわ、勝手に空けんな、姉貴!?」
 ベットに寝転がっていた紅華さんが、慌てて飛び起きる。

 襖の先は、元は普通の畳部屋だったみたい。
でも、黒やグレーの家具に、モスグリーンのカーテン。
落ち主の趣味が反映されて、モダンでお洒落に飾り付けられてるなあ。

「それになんで、お前までいるんだッ!」
 とうぜん、そう思うよね。
「どうしてウチが解かった……って、アイツらか!?」

「ま、色々とあってね。あのコたちから、色々と聞いたよ」
「あの、お喋りどもが……これだから、女ってのは」
「そうさ。女ってのは噂話が大好きでね」

 紅華さんのお姉さんは、紅華さんの部屋の真ん中に胡坐をかいて座る。
「アンタ、高校のサッカー部に入部、断られたんだって。そんなピンク色の髪だから、断られても仕方ないって言ったじゃないか」

「姉貴にゃ関係ねーだろ。髪の色で人を差別する部活なんざ、こっちから願い下げだ」

「人間なんてのは、外見で人を判断するモンさ。ウチみたいな家業をやってりゃ、解かるだろうに」
「それが気に喰わないって、言ってんだ!」

「アンタが気に喰わなかろうが、世間サマは考えを変えちゃくれないよ」
「それで、自分を変えろってか。聞き飽きたぜ、その台詞」
 ボクの目の前で、姉と弟の兄弟喧嘩が始まった。

「それで、サッカーまで辞めちまうのかい。アンタ、ガキの頃からボールを蹴るのと、ハサミを持って人の髪を切るのだけは、好きだったじゃないか」
「どっちも、ガキの遊びさ。今すぐ、金になるワケでもねえだろ?」

「当たり前だろ、なに甘ったれてんだい!」
 語気を荒げる、鳴弦さん。
「人様にお金を払って貰える技術ってのは、簡単に身に付くモノじゃない……」

「ああ、解かってるさ。そんなコトは……」
「解かってない。アンタは……何も!」
「はあ、何言ってんだ。これでもオレは、親父やお袋の仕事を見て……!?」

 紅華さんは、途中で話すのを辞めた。
ボクも、どうして彼が話を中断したのか、解からなかった。

「姉貴……?」
「アンタは……何も……」
 後ろ姿の鳴弦さんの声は、泣いているように聞こえた。

 前へ   目次   次へ