ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP018

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兄と妹

「話は聞いた。スマン、妹が世話になったな」
 千葉委員長が、ボクに向かって軽く頭を下げる。

 風流な和のたたずまいの居間で、正座をするボクの前に座った。
渡り廊下を挟んだ向こうには、質実剛健な創りの道場が見える。

 妹……考えてみれば、直ぐにわかるコトじゃないか。
ボクがオブって運んだ女のコは、千葉 沙鳴で、委員長の名前は千葉 蹴策なのだから。

「……ったく、明日が試合だってのに、今日はやけに練習早く終わんなと思ったら、岡田先輩がそんなコトしてやがったのかよ」
 所属するサッカー部の先輩に、実の妹を傷付けられ、怒りをぶつける千葉委員長。

「沙鳴のお兄さん、お茶です。どうぞ」
 バドミントン部キャプテンの、海帆 春香さんがボクと同じ湯呑にお茶を注ぎ差し出した。

「春香ちゃんも、済まねェな。ウチの部活の先輩たちが、派手にやらかしたみてーでよ」
「いえ。練習場をめぐって、わたし達バドミントン部が因縁つけられてたところを、沙鳴が割って入ってくれたんですが……」

「岡田先輩に、返り討ちに遭っちまったのか。あの先輩、イカレてやがるからな」
「沙鳴はバットで右脚をやられて、それで……その……」
 言葉を詰まらせる、海帆さん。

「まあ、本気で殺されそうになったんだ。チビっちまうのも、無理ねえよ」
「その時、沙鳴の彼氏さんがサッカーボールで、アイツのバットを弾いてくれたんです」

「御剣が、沙鳴の彼氏ィ!? お前ら、付き合ってんのか!!?」
 血相を変えてボクを睨む、千葉委員長。
ボクは、激しく顔を横にスイングして否定した。

「そりゃそうか。アイツ、お調子者だからな。口から出まかせでも言ったんだろ?」
「わたしもタブン、そんなトコだろうとは思ってました」
 二人は顔を見あわせ、ため息を吐く。

「アイツ、どうしてる?」
「今、森や庄司たちに、お風呂で身体を洗って貰ってます」
「ずいぶんと、世話かけちまったな」

「沙鳴は、わたし達の為に戦ってくれたんです。それに、去年の合宿ではお世話になりましたしね」
「そうだったな。アイツも少しは凝りて、大人しくなってくれりゃ良いんだが」
 そう言うと千葉委員長は、グイッと茶を飲み干した。

「御剣。迷惑かけて悪いんだが、今日のコトは他言しないでやってくれるか?」
 湯呑みを置き、ボクを真っすぐに見る瞳。

「アイツもジャジャ馬ではあるが、あれでも年頃の女のコなんでな」
 妹を気に掛ける、優しい兄でもある千葉委員長。

 ボクはコクリと頷く。
心配する必要もなく、ボクは奈央くらいしかまともに話せないんだケド……。

「キャプテ~ン、こっち終わったよォ」
「傷も湿布と包帯巻いて、手当てして置きました」
「沙鳴の部屋に布団しいて、寝かしといたから」

「汚れた制服もパンツも、洗濯機に放り込んで……あ!?」
 兄が帰っているとは知らずにやって来た、4人の女子中学生。

「ワ、悪ィな。沙鳴のヤツ、迷惑かけっぱなしで」
 居間に、気まずい空気が流れる。

「い、いえ。アンタら、なにやってんのよ!」
 キャプテンが、必死にその場を取り繕った。

 それから直ぐに、ボクたちは道場を後にする。
急いでデッドエンド・ボーイズの練習場に向かったが、待っていたのは練習を終えた紅華さんたちと、監督の怒った顔だった。

「沙鳴……入るぞ」
 その頃、千葉 蹴策は、妹が眠る部屋の障子を開けようとしていた。

「全くお前は……無茶が過ぎるだろう」
 膨らんだ布団の中に、亀みたいに引き籠る妹を前に、ドカッと胡坐をかく。

「だ、だって……春香たちが……悪いヤツらに襲われて……」
「お前もまだ剣は、修行中の身だ。それに岡田先輩は、イカレてるからな」

「ア、アイツらやっぱ、お兄ちゃんの先輩なの!?」
「そう……なるな。スマン」
「スマンじゃ、済まないわよ。こっちはどれだけ、痛くて怖い思いをしたか!!」

「悪いと思ってる。先輩たちとは、いずれ決着を付けねェとな」
 膨らんだ布団の向こうの窓に登る、真っ白な月。

「ねえ、お兄ちゃん。今日……一緒に寝て」
「アア!? お前、幾つになったと思って……」
「沙鳴が恐い思いしてるのに、お兄ちゃん助けに来てくれなかったじゃない!」

「だからそれは……ま、しゃ~ねェか」
 委員長は、妹の布団に大の字になって寝る。
その傍らには、安心した寝顔の妹が寄り添っていた。

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