新たな八つ子
「……な、何するんですかぁ、シャロリュークさん!?」
八つ裂きにされ、八つの破片となって地面に散らばった、魔王を見て叫んだ。
「シャロ、あんたってヤツは!」
「マズイのォ。これは、大変なコトに成りそうじゃ」
ルーシェリアの予測通り、破片はそれぞれが幼い少女の形に形成される。
少女たちは四人が、バイオレット色のクルッとした巻き髪に褐色の肌、真珠色の瞳をしていた。
残りの四人が、マスカット色のセミロングに白い肌、ワインレッドの瞳をしている。
「アレ。今回も四人ずつ、肌や髪の色、瞳の色まで違うよ。どうしてだろう?」
「剣を振るったのは、ご主人サマじゃぞ。妾が知るワケなかろう?」
八人に分かれた少女たちは、同じ八つ子のマイーンたちと同じく、見た目は十歳くらいに見えた。
「念のために、大量に服を用意しておいて……」
「正解でしたね、姉さま」
リーセシルとリーフレアが、事前に用意していた服を八人の少女に着せる。
「……実際、この目でみるまでは半信半疑であったが……」
「本当に『魔王』が『少女』の姿となって、生まれ変わるのだな」
然しもの『天才軍略家』や『麗しの女将軍』も、このときばかりは驚嘆の声を上げた。
「なんだか可愛らしいのが、いっぱい生まれちまったな、舞人」
「だ、誰のせいで、こうなったと思ってるんですかぁ。面倒見るのボクなんですよ!」
舞人の、赤毛の英雄に対する尊敬の念も、少なからず揺らいでいる。
「ルーさまぁ、大好き好きィ~ミル♪」
「なんか、良い匂いがするでござるレヌ~♪」
「遊ぼ、遊んでちょんまげ~ミル♪」
「かくれんぼなど、いたしましょうぞレヌ~!」
幼い八つ子たちは、ルーシェリアの体で『かくれんぼ』を始めてしまった。
「こ、これ、止さぬか。ジャレ付くで無いわ!」
少女たちは、ルーシェリアのゴスロリ風スカートの中にまで潜り込む。
「ニャニャア、スカートの中に隠れるで無い。そ、そこは……ああん!」
「……」
蒼髪の少年は、釘付けになって生唾を飲み込んだ。
「なに鼻の下伸ばしてんのよ、舞人!」
「ひだだっ……別にそんひゃんじゃ」
因みに八つ子は、『バイオレット色のクルッとした巻き髪・褐色の肌・真珠色の瞳の四人』が、語尾に『ミル~』と付けるのが口癖らしい。
「そんじゃ、お前らは今日から『ミラーラ』、『ミリーラ』、『ミルーラ』、『ミレーラ・ヒムノス・ゲヘナス』でいいか?」
「ハナマルおっけ~ミル~♪」
「問題なっしんぐミル~♪」
「バッチグゥ~ミル♪」
「妾を口説こうとしたときの、『痛々しいギャグ言葉』はそのままなのじゃな……」
ルーシェリアは、過去の遺恨をまだ根に持っているようだった。
「で、お前らが『レナーナ』、『レニーナ』、『レヌーナ』、『レネーナ・ヒムノス・ゲヘナス』な?」
『マスカット色のセミロング・白い肌・ワインレッドの瞳の少女たち』が、一斉に頷く。
「だいじょうぶでござるレヌ~♪」
「問題ござらんレヌ!」
「いさい承知レヌ!」
「なんかこっちの四人は、古風な喋り方をするなあ」
舞人は四人のセミロングの髪を、ポニーテールに結んだ。
「この魔王、オレと戦り合ったときは、『武人』みて~な性格だったからな」
「彼女たちの肌や髪の色が、二つに分かれてる理由が……」
「解った気がするわ」
顔を見合わせる、赤毛の少女と皇女と、パッションピンク色の髪の少女。
武人とチャラ男の二つの顔を持ったストーカー魔王は、その性格ごと分断されていた。
「これでは、サタナトスの情報は得られそうも無いな……」
「確かにこの幼さでは、厳しいか。我が部下の苦労も、水泡に帰した様ですね」
グラーフル公と、プリムラーナ女将軍も、同じく深いため息を付いた。
「ありゃあ、マズイことになっちまったな。どうすっかな?」
「どうすっか……じゃ無ぁい!」
幼馴染みの悪戯に呆れる、カーデリア。
「アンタって奴は、昔からホンット悪戯好きなんだから」
「シャロリュークさまが!?」
「そ、そうなんですか?」
「人のスカートめくるわ、パンツ下ろすわ、どうしようも無い悪ガキで……」
「ええッ!?」
「パンツまで下ろされたんですか!?」
「……し、しまッ!?」
つい余計なことまで、口走ってしまう。
「こ、子供の頃の話よ。誤解しないでよね、レーマリア、パレアナ!」
皇女殿下や栗毛の少女の前で、顔どころか耳たぶまで真っ赤になるカーデリアだった。
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