児童公園での決戦
「お前、この名刺……」
倉崎 世叛の名が記された名刺を、訝しげに眺める紅華さん。
「勝手に偽造したんじゃないだろうな?」
『ブン、ブン!?』
思いっきり顔を横に振った。
「お前、見た目はイケメンなのに、中身はかなり残念なヤツだな」
イケメン……そうかな?
見た目通り、残念なヤツのつもりなんだケド。
「でもよ。イマイチ信用できねえなあ」
う~ん、確かに紅華さんにしてみれば、信用できないのかも?
ボクは、部活用にと買っておいた大きなカバンから、サッカーボールを取り出した。
「なんだあ。このオレと、サッカー勝負でもするってか?」
引きつった顔のまま、大きく頷く。
「面白れェ」
ニヤリと笑う、紅華さん。
「さっき、オレのすり抜けを止めたんだ。少しはできるんだろうな?」
「正直、できるかどうかは解からない」
紅華さんは、近くにあった公園を指さした。
「でも、ワクワクする気持ちは、は同じだ」
「なんだぁ、クールボーイがニヤつきやがって」
……え?
どうやら、気持ちが顔に出ちゃってたみたい。
公園に入ると、少子化の影響なのか遊んでいる子供はどこにも居なかった。
「そこのジャングルジムが、ゴールってのでどうだ?」
同意だと頷く。
「本当なら、こんなガキの遊びみたいな勝負、受けねェんだが……」
紅華さんは長い左脚で、ボクからボールを奪った。
左利き(レフティー)……ボクと同じだ。
「髪がピンクなくらいで、部活の入部は断られるは、バイトの面接まで断られるはでムシャクシャしてんだ」
だったら、ピンク色にしなきゃいいのに……こだわりでもあるのかな?
「オレがお前を抜いた上で、ゴールを決めたらオレの勝ち。ボールを奪われた時点で、お前の勝ち」
とてもシンプルなルールだ。
「いいな?」
おそらく今までも、そんな勝負をして来たんだろう。
ボクもコクリと、頷いた。
「オラ、いくぜ!」
何の躊躇すら無く、いきなり仕掛けてくるピンク色の髪のドリブラー。
左足のアウトサイドで、ボールを外側に蹴りだしたかと思うと、同じ足のインサイドで内側にボールを返し、ボクの左側を抜きにかかる。
……うわっ、ダブルタッチだ!?
余りにも早い脚さばきに、体のバランスを崩す。
でも紅華さんなら、これくらいはやってくると予想はしていた!
ボクは右側に重心の崩れた身体を、無理して立て直そうとはせず、そのまま右に一回転させて紅華さんの進路を塞いだ。
「ホウ、今ので抜けねェか?」
紅華さんは、ニヤリと笑った。
「なら、こんなのはどうだ?」
今度は、左足でボールを引っかけ、またもや右側を向こうとする。
単純なフェイント……何かある?
そんな考えが頭を過ぎった瞬間、ボールが紅華さんの軸足に当たり、大きく左側に弾かれた。
ヤバッ、予測してなかったら、完全に抜かれるところだった!
何かあるとの予測があったお陰で、ボクは左にバランスを崩すコトも僅かで済み、踏ん張ってボールに喰らいつく。
……倉崎さんのノートに、書かれていた通りだ。
全てのボールタッチを左足一本で行い、右サイドからのセンタリングも左足で上げる。
ボールタッチは柔らかく、その動きはカモシカのように滑らかでしなやか。
ボクは、先に情報をしっていたから、抜かれず対処できているに過ぎない。
「お前、なかなかやるじゃねえか?」
紅華さんは、少しだけ息を切らしながら言った。
「倉崎 世叛がお前をチームに入れたってのも、もしかしたら本当なのかもな?」
うぐうッ、そこ疑われてたんだ!?
確かにボクなんかが、倉崎さんのチームにいるなんて、信じるほうがどうかしてるよな?
「そーゆーコトなら、本気出すしかねえだろ、無口なスカウトさんよ?」
……紅華さんのクールな眼が、ギラリと輝いた。
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