ユニホームと背番号
「や、やはり自分など、このチームに相応しくないであります……」
杜都さん、また弱気モードになっちゃってる。
「まあそう落ち込むな。ウィークポイントだけ挙げたが、お前には武器となる才能がある」
「ほ、本当でありますか、司令官殿?」
「まずはロングシュート。コースさえ空けば、相手にとってはかなり脅威になる」
「自分は、キック力には自信があります」
「それに対人戦の強さ。高い位置でボールを奪えるのは理想だ」
「た、確かにそうでありますが、パスカットなどは苦手で……」
「その辺は、オレがカバーしよう」
「すまない。迷惑をかけるな、雪峰士官」
「いや、オレは対人戦などコンタクトプレイには、まだまだ弱い部分がある。お互いボランチとして、補い合っていけばいいさ」
「ヨロシク頼む」
「ああ。こちらこそな」
デッドエンド・ボーイズの二人のボランチは、ガッチリと握手をした。
「お前らが組んで、ボールを刈り取ってくれんなら、こっちは余裕でドリブルできるぜ」
「紅華、お前にもパスコースを限定する守備くらいは、してもらうぞ」
「マ、マジかよ、倉崎さん!?」
「それにこのチームのドリブラーは、お前だけじゃない」
「ああ、一馬のコトっすか?」
あ、やっとボクの話題だ。
「いや、杜都の話だ」
グハアッ。
倉崎さん、ボクなんて眼中にないッ!?
「自分でありますか。自分はドリブルなどはあまり……」
「そうでもないさ。オレと紅華の二人がかりでも、止められなかったんだ」
「オレとは全然タイプの異なる、力任せに一直線に突き進むドリブルだケドな」
「お前のドリブルは、深い位置からボールを前線へと運べるドリブルだ」
「そ、そう言われると、重要な気がして来るであります」
「もちろん重要だ。チームが劣勢で押し込まれている場面でも、お前がドリブルで前線にボールを運んでくれれば、チームメイトの守備の負担も軽減され、場合によっては得点のチャンスとなる」
「み、味方を救う……前線に向かうドリブルでありますか!」
「つっても、油断してボールを取られりゃ、一転ピンチになっちまうケドな」
「それは紅華、お前も同じだ。気を付けろ」
「わ、わ~ってますって、倉崎さん」
「まあ説教は程々にしておいて、実は今日はユニホームを持って来てみた」
そう言うと倉崎さんは、巨大なリュックサックから蒼い色のユニホームを取り出した。
「ス、スゲエ、蒼いユニホームだぜ」
「この濃い青色は……日本代表を彷彿とさせるな」
「自分のはまだ無いだろうが、身が引き締まる想いだ」
「いや、あるぞ杜都。お前は背番号5番だ」
「ほ、本当でありますか、うれしいであります!」
杜都さん、ユニホームを貰ってメチャクチャ喜んでる。
「紅華は7番、雪峰は6番だ」
「さっすが倉崎さん、わかってるぜ。ドリブラーと言えば、7番だからな」
「伝説のドリブラー、ジョージ・ベストやガリンシャも付けていた番号だ」
「オレは6番か。マティアス・ザマーや、フランコ・バレージの背番号ですね」
「二人ともディフェンダーではあるがリベロとして攻撃参加もする、お前と同じ頭脳でプレーするタイプの優秀な選手だったからな」
みんないいなあ。
今日、連れて来たばかりの杜都さんのユニホームまであるし、ひょっとしてボクのもあるんじゃ?
「一馬、ユニホームだ」
ホラやっぱり、やったあ……って、アレ?
ボクの上に振って来たユニホームは、三枚あった。
11番、8番、12番……どれも、ボクの名前じゃないローマ字が書いてある。
「悪いんだが一馬。早急に、そいつらをスカウトして来てくれ」
そ、そんなァ~!?
喜んでユニホームに着替える三人の隣で、ボクは地面にヒザを付き頭を抱えて落ち込んでいた。
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