ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

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この世界から先生は要らなくなりました。   第03章・第15話

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伝説の記者会見

 ボクは新聞を投げ捨て、慌ててテレビとゲーム機のスイッチを入れる。

 パソコンが苦手なボクのために、友人が組んでくれたネット動画を見るシステムだ。
中古のテレビとゲーム機に光回線を繋いだモノで、番組も録画だけなら可能だった。

 ストリーミング動画の閲覧ソフトが並ぶ中から、『ユー・クリエイター・ドットコム』を起動した。

「アメリカからのライブ放送か……」
 スマホを取り出すと、デジタルな数字が午前八時半を提示している。

「日本との時差は十四時間……ってことは、ニューヨークは昨日の、夕方六時半だな」
 中古テレビには、会見場の様子が映し出されていた。

「調度、今から始まるところみたいだ」
 白いテーブルには無数のマイクが置かれ、その他に無数の小型カメラが並べられている。

「これって……倉崎 世叛が生前に行った、伝説の記者会見じゃないか!?」
 小型カメラ群は、会見を行う人物ではなく、マスコミ席の方に向けられていた。
その小さなレンズの先では、動画配信者たちが実況を始めているのだろう。

「久慈樹社長は、アメリカのマスコミに対してまで、それを行うっていうのか……」
 そんな事をすれば、アメリカのマスコミやメディアを敵に回しかねない。
アメリカの一般市民とて、心象を悪くするだろう。

 けれども、紙芝居の様に次々と送られてくる画像に、ボクが手を加えるコトはできなかった。

「不祥事があってどうなるか解からんが、出勤の用意はして置かないと……」
 ボクは急いでコーヒーを淹れ、パンをトースターへと放り込むと、慌ててテレビの前に戻る。

「お、そろそろ始まるみたいだ」
 画面越しの記者会見場が、ざわつき始めた。


『みなさん、今日は我らがユークリッドの為に脚を運んでいただき、誠に有難うございます』
 久慈樹社長の、英語でのスピーチが始まる。
画面下に、同時通訳の字幕が流れた。

『今日は、我々ユークリッドが、新たなステージへと踏み出す一歩となります』

 久慈樹 瑞葉の言葉に、ボクは不快感を覚えた。

『ユークリッドは、最初はほんの小さな動画サイトでした』
 カメラのフラッシュを浴び、誇らしげに雄弁を振るう年若き社長。

『イジメに遭い学校に行けない妹を見かねた兄が、妹のために作り上げたささやかなサイト。それが今や、日本中の学生・受験生が閲覧する巨大サイトへと成長を遂げたのです』

 ボクはスマホを取り出し、アメリカ産の有名ストリーミング動画サイトを開く。
案の定、あらゆる著名な動画配信者たちが、自分の個人サイトで記者会見の様子を実況中継している。

『皆様もご存じのように、ユークリッドの創業者である倉崎 世叛は、帰らぬ人となってしまいました』
 カメラマン席から、激しいフラッシュが焚かれる。

『わたくしは彼と、創業当時から知り合い共に仕事をし、ビジネスを大きくしてきました』
 ハリウッドスターの様な大げさなジェスチャーで、哀しみの心情を現わす久慈樹社長。

『そんな彼が、病魔に侵され突然いなくなってしまい、当時は酷く落ち込みました』

「落ち込んだ……でも、ユミアの比じゃないだろうに」

『天才カリスマ創業者の彼を失い、ユークリッドも株価が低迷し、多くの人材までもを失いました』
 確かに倉崎 世叛が生きていた頃に比べると、株価は下がり一時は会社を解散する噂まであった。

『彼のカリスマに惹かれ、彼と共に事業をしたいと望んだ者たちが、彼が居なくなった途端に会社を離れるのも、ある意味自明の理ではあります……』

「共同創業者で当時副社長だった久慈樹 瑞葉ですら、人材の流出は防げなかったってコトか」

『ですが我々ユークリッドは、再び未来に向け踏み出す決意を致しました』
 堂々と胸を張る、久慈樹社長。

『ユークリッドは今、教育動画から新たなステージに躍進すべく、あらゆるジャンルの動画の配信を開始致します』

 それは急激に、ユークリッドが変化する始まりでもあった。

 

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