恐怖の谷
「かなり歩き回って調べちゃみたがよ。村人の死体が一つも残されてねェぜ」
「建物はこれだけ破壊されているのに、おかしなものね」
クーレマンスとカーデリアが、村の探索から戻って来た。
「サタナトスとやらの目的が、『実験』だと言うなら簡単な話だろう」
「村人たちは、殺されず何処かへ連れていかれた……そう考えるのが自然ではないか」
ネリーニャとルビーニャも、別方向から探索を終え戻って来る。
「村の状況から考えりゃ、そうだろうな~」
「で、でも村人はどこへ……シャロリュークさん!?」
蒼い髪の少年は、隣を歩く赤い髪の少女に問いかけた。
「リーセシル、リーフレア。そっちは何か、解かったか?」
「ん~ん。子供たちは、何が起こったのか理解してないみたい」
「ただ、大人たちに言われるままに地下室へ避難して、数日がたった……と」
残った二人の司祭も、子供たちをあやしながら情報を聞き出そうとする。
……が、有益な情報を得られずにいた。
「……じゃが、これで可能性は高まったなワケじゃ」
「高まったって、何がだ。ルーシェリア?」
「決まっておろう。サタナトスの居場所じゃよ」
そう言って漆黒の髪の少女は、視線を新たに生まれた方の八ツ子に向けた。
「そうなのねんミル~」「たぶん、ウチのホワイトミル」
「白じゃなくて、城ミルね」「こりゃまった失礼ミル~♪」
『ミラーラ』、『ミリーラ』、『ミルーラ』、『ミレーラ』と名付けられた、バイオレット色の巻き髪に、褐色の肌の少女たちは、堂々と身も荒むギャグを披露する。
「なあ、ルーシェリア。あのモラクスって魔王、お前の前じゃいつも、こんな調子だったのか?」
「こんな調子だったのじゃ……」
肩を落とす元・冥府と暗黒の魔王に、同情する元・赤毛の英雄。
「では、せっしゃたちが案内つかまろうレヌ」
今度は武人の性格を持つ、『レナーナ』、『レニーナ』、『レヌーナ』、『レネーナ』の四人が、マスカット色のポニーテールを左右に揺らしながら名乗り出た。
「場所はこの村から見える、恐怖の谷と呼ばれる渓谷の下レヌ」
「渓谷の先に、干上がった湖があるレヌ」
「せっしゃの牛頭の巨像があって、そこから地下に行けるレヌ」
「こっちの四人は、魔王の武人としての性格を受け継いでんのか」
「できれば、この四人だけで元に戻って欲しいモノじゃ」
「それじゃあ、さっそく地下祭壇の城に行きましょう」
「ああ、そうだな。舞人」
二人の英雄は、村を出立しようとする。
「あの……」
けれども、彼らを引き留める声がした。
「ん、どうした、リーフレア?」
「子供たちだけでも、近隣の街に避難させた方が、良いんじゃないですか?」
「まあ、それもそうか?」
「で、誰が送り届けるんだ?」
クーレマンスが、ぶっきらぼうに問いかける。
「なら私たちが行くよ。ねッ、リーフレア!」
「ハイ、リーセシル姉さま!」
双子の司祭は自分たちの提案通り、子供たちを近隣の中規模都市に避難させるため別働となり、残ったメンバーでムオール渓谷に向うこととなった。
「ここを降った先が、魔王だった頃のマイハウスミルゥ~♪」
「深い谷底なので、落ちないように気を付けるでござるレヌ」
かつて、力の魔王・恐怖の魔王と呼ばれ恐れられた、『モラクス・ヒムノス・ゲヘナス』だった八人の少女が、道案内をする。
かつて、渓谷を創ったであろう河は既に存在せず、谷底には無数の瓦礫や石ころが散乱していた。
「この像が……お前たちの城?」
「壊れちまってるじゃねえか」
ひび割れた大地には、巨像の欠片が無数に転がっている。
「地上のは、ヘンな宗教のヤツらに、異端だとか言って壊されたミル」
「なので、痛んでるミル」
パーティーの視線は、褐色の肌の四人から、マスカット色のポニーテールの四人に移った。
「地上の像は入口に過ぎないでござるレヌ」
「こちらへレヌ」
サムライ然とした少女たちに先導され、崩れた巨像の台座部分に入って行くパーティー。
八ツ子が円陣を組んで手をかざすと、砂が積もった床から、地下へと続く階段が現れた。
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