コンビニ面接
この道、昨日は通らなかった道だ……。
路線バスは、七人の女子高生たちが乗ってきた、ターミナル駅の停留所には立ち寄らず、街中の商店街へと向かった。
「オイ、お前もたいがいだな」
後ろの席から、機嫌の悪そうな声が聞こえる。
「これからオレは、大事な用事があんだ。ぜってー付いてくんな!」
そう言うと同時に、紅華さんは立ち上がって、バスを駆け降りた。
……と同時に、ドアがプシューッっと音を立てて閉まる。
あ……。
慌てて立ち上がったが、時すでに遅しだった。
「さ、流石はドリブラー」
相手の虚を突くのが上手い。
「ダメだ、ダメだ。昨日は終点まで乗ってっちゃったケド、今日は次で降りないと……」
ボクは、バスの前方に向かった。
あと、領収書も貰わないと……。
けれども、走行音が響く後ろの席では自由に喋れても、運転手さんの前に出ると口が動かない。
だけど、ボクは昨日のボクとは違うんだ!
『領収書下さい』……と書かれた紙を財布から取り出し、運転手さんに見せる。
バスは街中の停留所でボクを降ろすと、どこかへ走り去って行った。
「ふう。なんとか領収書、貰えた」
始めて見る、領収書……なんだか大人っぽい。
「さてと。また戻って、紅華さんを探さないと」
昨日と同じ様に、バスが運んでくれた道を引き返す。
昨日の終点の停留所は、山の奥な感じだったケド、今日はずいぶんと街中だ。
お洒落なカフェや、カッコイイ靴が並んだシューズショップ。
昨日と比べ、歩く間に目に入る景色は賑わっていた。
うわあ、周りも人だらけ。これじゃあ、独り言も喋れないよ……。
誰かとすれ違う度に、顔を引きつらせるボク。
でも、なんかお腹空いたな。
コンビニがあるし、寄って行こう。
聞きなれた入店音が響き、店内に入ると炭酸水とツナパンを買った。
コンビニって、カウンターに商品を置けば買えちゃうから好きだ。
最もカウンターの、美味しそうなチキンや肉まんは買えないケド。
そのまま店を出ようとしたが、フードコートが目に入る。
ゴミを持ち歩くのもアレだし、ここで食べて行こう。
そう思ってフードコートに行くと、先客がいた。
おじさんと高校生が、向かい合って話してる。
「あのねえ、キミ。確かにウチは人手不足で、猫の手も借りたいくらいだよ」
おじさんの低い声が、背を向けた高校生に向けられている。
「だけど、そのピンク色の髪はどうなんだね。ウチも、接客業なんでねえ」
「でも雑誌には、服装自由って書いてありましたよね?」
「多少のコトは目をつぶるが、限度があるだろう」
高校生は必死に食い下がっていたが、おじさんは頭ごなしに彼の意見を否定し続ける。
「黒髪にしろとまでは言わん。茶髪か、せめて地味目な金髪くらいには出来んのかね?」
「できね~よ、まったく!」
敬語を使うのを止め、悪態をつく高校生。
「そうか……残念だが、ウチでは雇えない。話はこれまでだ」
憮然とした表情のおじさんは、高校生の前から去って行った。
「ケッ、なんだよ、腹立つなあ」
指摘されたピンク色の髪を掻きむしりながら、立ち上がる高校生。
「髪の色で差別しやがっ……あ!?」
ボクと目を合わせた高校生は、言葉を詰まらせた。
うわあ、どうしよう。
たまたまフードコートに寄っただけなのにィ。
「テ、テメー、なにこんなトコまで付けて来てやがんだ!」
当然、そう思いますよねェ。
「お前、今の見てたのか!?」
鋭い目つきで、睨まれる。
「まあ、見てたよな……?」
まあ、見てた……。
「それ、喰うんだろ。座れよ」
紅華さんは、ボクを目の前の椅子に座らせた。
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