ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第8章・1話

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ムオール渓谷の村

「オイ、舞人。どの家も、もぬけの殻だぜ」
 赤毛の少女が、ぼやいた。

「ホントですね、シャロリュークさん。人っ子一人いませんよ」
 蒼髪の少年も、静寂に包まれた村の家々を覗き込む。
遊撃騎士団・隊長に任じられた彼は、初の任務で責任の重さをヒシヒシと感じていた。

「この村、レーマリアの報告通りの惨状ね。全然、喜べないケド」
 パッションピンクの髪の少女が、肩を竦める。
一行は、ムオール渓谷の近隣の、村が『あった場所』に来ていた。

「随分と荒れ果ててやがるな。まともに建ってる家なんて、一軒も無いぞ」
「そうね、クーレマンス。こんな有り様じゃ、生存者は……」
 肩を落とす、カーデリア。

「みんな、こっちから人の声がするよ」
「ホントですね、姉さま。微かに、声が聞こえます」

「ホントか、リーセシル、リーフレア?」
 直ぐに反応したのは、筋肉の鎧をまとった男だった。

「この下なんだな。瓦礫が邪魔だから、どけるぜ」
 クーレマンスが、建物の残骸を払い除けると、小さな木の扉が顔を表す。

「どうやら、地下室への入り口みたいね」
「よし、入ってみようぜ」
 カーデリアとシャロリュークは、先陣を切って地下へと続く階段を降りる。

「見ろよ、子供がいるぜ」
「ホントだ。助かったのは、この子たちだけみたいね、シャロ」
 子供たちは長椅子に隠れながら、怯えた目で一行を見つめている。

「もう、怯えなくていいよ」
「わたし達は、味方ですからね」
 双子の司祭は、子供たちを優しく抱きしめ、落ち着くのを待った。

「子供たちの話だと、ここは教会の地下室で、シスターがかくまってくれたみたい」
「……ですが、そのシスターも……」
 姉の後を受けたリーフレアの言葉は、トーンダウンする。

「クソ、サタナトスの仕業か!」
 救えなかった命に、苛立ちを覚える赤毛の英雄。

「この村にサタナトスは居ねえみたいだな、シャロリューク」
「だが、警戒を怠るなよ。お前たちまで斬られて『魔王』になっちまったら、舞人が大変だからな。それに、場合によっちゃ……」

「解かってるわよ、シャロ。アンタを男に戻す前に、消滅なんかしてたまるかって~の!」
「なんかその言い方、屈辱を感じるぜ……」

「でも、サタナトスだっけ。そいつの目的が自分の剣の実験ならさぁ」  
「覇王パーティーのメンバーである、わたし達を狙ってくると思ったのですが……」
「ヤツの姿どころか、気配すら感じられないじゃねえか」

 別行動の雪影を除いた、『覇王パーティー』のメンバー四人は、自分たちの体を囮として、サタナトスをおびき出す作戦でいた。

「よ、良かったですよ。皆さんが囮だなんて、いくらなんでも危険過ぎます!」
「相変わらず甘いのォ、ご主人サマは」
 新設された遊撃騎士団の副隊長である、ルーシェリアが隊長をたしなめる。

「戦場に死はつきものよ」
「死は誰にも訪れる、この世で唯一『平等』なモノ」
 元・死霊の王たる、双子姉妹が言った。

「そう言えば、お前たちの元の姿である『ネビル・ネグロース・マドゥルーキス』は、世間じゃ死神とか呼ばれてたよな?」

「そう……死は別に『悪』じゃない」
「ところで今回、富の魔王の八つ子たちはどうした?」

「アイツらなら、商売で稼いだ金で『土地を買う』とか言い出してさ」
「土地をだと?」「この緊急時にか?」
 憮然とした表情を浮かべる、ネリーニャとルビーニャ。

「何でも、『シャロさんが空けた穴に水が溜まって出来た湖』周辺の土地が、買い時だから買い占める……とか言って」

「ああ、オレが魔王になって暴れたときのな。あそこ湖になってたのか?」
「でも、そんな荒れた土地を買って、どうするのかしら?」
「さあな~」

「オイ、お主ら……かなり話が逸れておれんかえ?」
「そっか、悪ィ、悪ィ」
 漆黒の髪の少女に指摘された一行は、村の周辺調査を始めた。

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