ラノベブログDA王

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萌え茶道部の文貴くん。第七章・第四話

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ガラス戸

「その節はどうも」
 渡辺は、奥から出てきた店主に向かって、軽く頭を下げる。

「あの……こちらに絹絵ちゃんが居るって聞いて、伺ったんですが」

「うん、まあ、居るには居るんだがね」
 細身だが、落ち着いた雰囲気の店主は、無精ヒゲの生えた顎を撫でながら言った。

「キミに合わせる顔が無いと言って、部屋から出て来たがらないんだ」
 店にはペットを入れるゲージがいくつも置いてあったが、全てが何の動物も入っていない。

「ここは絹絵ちゃん以外にも、動物のコがいたりするんですか?」
「まあね。人間に捨てられたり、虐待されたりして、心に傷を負ったコたちが大勢いるよ」
 店主はガラス戸の向こうの、店の奥を親指で指差す。

 渡辺の気配を察したのか、奥から色々な声が聞こえて来た。
声は人の少女の様であり、犬や猫の鳴き声にも聞こえる。

「ごッ、ご主人サマっすか!?」
 その中から、確実に生き覚えのある声が問いかけてきた。

「絹絵ちゃん……ホントに絹絵ちゃんなんだな!?」
 渡辺がこの数週間、必死で探し続けた声だった。


「ど、どうしてここへ……?」
 ガラス戸に嵌められたガラスは、装飾模様がほどこされていて、小柄な少女らしきシルエットが映る。

「怪我は大丈夫なの。まだ、どこか具合が悪いとか?」
「いっ……いえ、怪我はもう、ほとんど治ったッス」

「ホントに?」
「お店のマスターが、また治療してくれたんスよ」
「良かった。マスターに助けられるの、これで二度目だね」

「……でも、あのときは、ご主人サマが助けてくれたお陰ッス!」
 ガラスの向こうから聞こえる声は、ボリュームを上げた。

「オレが無事だったのも、知ってたみたいだね?」
「はいッス。マスターが、ネットで調べてくれて……」

「学校へは……まだ戻れないの?」
 渡辺は、思い切って聞いてみる。

「うう……アチシは、ご主人サマを守れなかったッス」」
 急に声が、元気の無い声に切り替わった。
「アチシにそばに居る資格なんて、無いッス!」

「だけど、オレはこうして生きているよ、絹絵ちゃん。キミのお陰だ」
「で、でも……それは何かの偶然で、アチシはご主人サマを危険な目に……」

「偶然なんかじゃ無いさ!」
 渡辺も、言葉に気持ちを込める。

「千乃 美夜美先パイが、オレを助けてくれたんだ」
「せ、千乃先パイって……!?」
「ああ、オレがずっと探し続けた先輩だよ」

「千乃先パイって……もしかして?」
「ああ。絹絵ちゃんに近い、存在みたいだね」

「ねえ、絹絵。それって……」
「ウチらと、同じなんじゃ……」
 ガラス戸に、絹絵以外のシルエットが映る。

「そんな先パイが、言ってたんだ」
「……え?」
「オレを助けられたのは、絹絵ちゃんが戦って、スキを作ってくれたお陰だって……」

「……で、でもォアチシ……アチシ……」
 声は今度は、泣き出しそうな声に替わっていた。

「……そっちへ行っていいかな」
 渡辺は、ガラス戸に手をかけた。

「だッ……だめッス。来ないで下さいッス!」
 絹絵は必死に制止する。

「久しぶりに、顔を見てみたい。それから、もう少し話をしよう」
 渡辺は、二人を遮る部屋のガラス戸を開けた。

「ふぇ?」
 渡辺の眼鏡には、裸に包帯だけ巻いただけの、絹絵の姿が映る。
他にも、絹絵と似た感じの裸の少女たちが、大勢いた。

「ホワアアァァァァーーーーーーッ!!?」
 渡辺の、素っ頓狂な声が響き渡る。

「は、裸ァ。な、なんでッ!?」
「動物はキホン、裸だからね。人間界に慣れてないコたちは、服を着るのを嫌がるんだ」
 店主の冷静な説明も、眼鏡の少年には届かない。

「……ご、ごめん、絹絵ちゃんッ!」
 渡辺はピシャリと勢いよく、人の店のガラス戸を閉めた。

 

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